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「トランプ政権は日本を重要視している」という石破総理の嘘をNHKがそのまま報道

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石破総理がNHKの日曜討論に出演し「トランプ政権は日本を重要視している」という虚偽の主張を行いNHKはそれをそのまま流した。

とこの文章を始めても誰も驚かないし腹も立てないだろう。そもそも日曜討論はそういう番組だし、NHKの政治報道が報道だと思っている人はそう多くないに違いない。

ただ、例によって例の如く「ガイアツ」を利用して政府に改革を求める動きも始まっている。そしてそれは必ずしも日本の消費者や業者にとって悪い話でもないのだ。

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石破総理は日曜討論でいくつかの重要な指摘をしていると時事通信は書いている。

  • トランプ大統領は日本を重要視しているが最後には自分が決めるという気持ちも持っているのだろう。
  • 安全保障と関税問題はリンクさせない。
  • 食の安全は守り切る。

石破総理大臣の主張をそのまま信じている人はそれほど多くないだろうが、おそらく、国民の間にはそれほど大きな危機感もないのではないか。

野党は「石破総理が妥協する」ことを恐れており「国会で追求する」とのことなのだが、そもそも「外交に関する質問にはお答えしかねる」で終わってしまうだけの話である。立憲民主党は党内の消費税減税派・減税はポピュリズム派が分裂状態にあり野田代表が事態収拾に苦慮している状態。国民は関税=自動車産業の不調とインフレ程度の漠然とした不安は持っているが、日米同盟の根幹が揺らいでいるという危機感は持っていないようだ。

そもそも石破総理にやる気を見せられても困るという気もする。

朝日新聞によればトランプ大統領は3つの課題意識を持っているとされる。第一に石破総理の「関税と安全保障は絡めない」という発言はこの時点で嘘なのだが、トランプ大統領は貿易赤字に関して「ゼロ」を要求しているそうだ。

  1. 在日米軍の駐留経費負担
  2. 米国製自動車の販売
  3. 貿易赤字

アメリカの自動車が売れないのはアメ車が日本市場を意識していないからだという議論があるが、そもそもそれ以前の問題がある。ゼロを目指すも何も赤字額の算出が間違っている。

「日本との貿易赤字は1200億ドル(約17兆円)もある」

トランプ関税交渉、米は貿易赤字・自動車・コメに関心…日本はコメ・大豆の輸入拡大カード用意(読売新聞)

正しくは半分程度なのだそうだ。

米国の対日貿易赤字は実際には、2024年時点で685億ドル(約9・7兆円)。事実関係は気にせず何事も誇張して表現し、交渉を有利に進めようとするのがトランプ流とみて、赤沢氏は努めて冷静に発言することを心がけた。

トランプ関税交渉、米は貿易赤字・自動車・コメに関心…日本はコメ・大豆の輸入拡大カード用意(読売新聞)

ここで「アメリカ合衆国では日本に対する敵意が渦巻いており」とか「デジタル赤字が意識されておらず」などと考えたのだが、実は議会ウェブサイトに日本との貿易交渉をまとめた文書が掲載されている。一体、ホワイトハウスはどこから文章を持ってきたのだろうか?という気がするが、石破総理は「間違いを正面から指摘するようなことはしない」と言っている。

Japan is the sixth-largest U.S. trade partner (see Figure 1), a top source of foreign direct investment (FDI) in the United States, and largest holder of U.S. Treasury securities. In 2024, U.S. exports to Japan totaled $127 billion ($81 billion in goods, $46 billion in services); U.S. imports from Japan were $191 billion ($150 billion in goods, $41 in services).

U.S.-Japan Trade Agreements and Negotiations(U.S.-Japan Trade Agreements and Negotiations)

さらにラトニック商務長官もベッセント財務長官も「自分には最終決定権がない」と私的に説明しているという報道もあり、一体誰に対して何を交渉すればいいのかがさっぱりわからないという状況。

こうなると石破総理や赤沢担当大臣の無能ぶりと野党の戦略のなさも「役に立っている」という気がする。

1980年代の日本のビジネスマンは表向きはなんでも受け入れてくれるがとにかく意思決定を避け「何を考えているのかよくわからない」ところがあった。その意味では最も交渉が始めやすいが最も交渉が終わらせにくい「面倒臭い相手」なのである。

ただ、自動車業界には「このさい安全基準をアメリカ並みにしてほしい」という外圧に対する期待があるようだ。日本の自動車メーカーが軒並み品質「不正」問題で製造中止に追い込まれGDPに深刻な影響を与えたことがあった。だがこの時には日本の無駄に厳しい品質保証基準に合わせてテストをやるのが馬鹿馬鹿しいという理由があったように記憶している。時事通信は検査の内容ではなく書類が多すぎる手続きの問題について紹介している。

それでも国内業界の一部はトランプ氏の「外圧」を一種の追い風と受け止める。車両の安全性を確認する日本の認証制度には「書類の手続きが多すぎる」(大手メーカー関係者)と不満があり、業界はIT活用などを通じた簡略化を求めてきた。EV補助金についても「税負担軽減の方が効果が大きい」(別の大手幹部)として関連税制の見直しを目指しており、政府などへの働きかけを強める考えだ。

日米交渉、自動車障壁焦点に 国内制度見直しに期待―関連業界(時事通信)

読売新聞はコメの問題についても書いているのだがやはり手続きの煩雑さが「嫌がらせ」のように思われているようだ。現在、備蓄米の流通が始まっているが3月30日までに小売に到達した備蓄米は0.3%だった。そもそも日本政府ですらコメの複雑すぎる流通を把握できなくなっているのだから、外国に言われるまでもなく「早くなんとかしなさいよ」という気持ちになる。

「コメは輸入や流通の仕組みが厳しく、透明性がない」とも批判し、肉や魚介、ジャガイモの輸入拡大も求めた。

トランプ関税交渉、米は貿易赤字・自動車・コメに関心…日本はコメ・大豆の輸入拡大カード用意(読売新聞)

ただコメに関しては別の問題もあるようだ。近所のスーパーにカリフォルニア米が並んだ。お店の売り場責任者が「こんなにたくさん入ってきて売れ残るかもしれないなあ」と嘆いていた。価格は従来品より安いのだが消費者が手にとってくれないかもしれないと心配しているようだ。レジの人たちは「小分けのお試しパックがあればいいのに……」などと言っている。日本人は変化を嫌い新しいものには警戒心を示す。メーカーはそれを乗り越えるためにさまざまなサンプルを配って疑念の払拭に努めている。

日本の市場には「手続きの問題」や「複雑な流通」以前に無駄に口うるさく警戒心が強い消費者という最後の参入障壁がある。日本の企業も国内の消費者が何を考えているのかがよくわからずに苦労しているのだから、当然アメリカの企業も当惑していることだろう。

NHKの「嘘」や野党の戦略のなさは、結果的に日本の不効率な商慣習に対する自省が行われない原因になっている。

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