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マルガリータをすすりながら…… ブケレ大統領が主張

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日本とアメリカは価値観を共有する国だというクリシェを振りかざす人がいる。おそらく中国について言及したいのだろう。だが最近のアメリカ合衆国を見ていると「果たして本当にそうなのか」と思うことが増えた。ブケレ・エルサルバドル大統領のSNS投稿が波紋を呼んでいる。アメリカ合衆国では「事実」が相対化しつつあり日本とは異なった情報空間が生まれている。一旦このような情報空間を容認してしまうと社会は取り返しがつかないダメージを被る。

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ブケレ大統領がSNSにある投稿をした。リゾートホテルでの楽しげな一コマだ。

野球帽を被っているのはアブレゴ・ガルシアさん。アメリカ合衆国に渡った保護を必要とする移民だったが間違えてエルサルバドル送りになった。過酷な刑務所で弁護士とも接見できないでいるとされている。背広の男性は民主党の上院議員である。

メリーランド州選出のクリス・バン・ホーレン上院議員(民主党)によれば当初エルサルバドル政府は面会を阻止しようとしていた。しかし阻止できないとわかると戦略を変えた。リゾートホテルのようなところを用意し少し飲みかけのようなマルガリータに見える何かを置いたそうだ。つまり、エルサルバドルがガルシアさんを過酷な状況に置いているというのは政治的宣伝を狙った悪質な嘘であり、実際にはリゾートホテルのようなところで楽しげに上院議員と面会しているという絵を作り出した。その後ガルシアさんは「少しマシな」収容施設に移送させられたと上院議員は主張している。

ブケレ大統領はトランプ大統領に便宜を供与することでトランプ大統領の「お友達」の地位を手に入れた。アメリカ合衆国の後ろ盾があれば、エルサルバドルには大量の米ドルが流入し彼の収容所ビジネスもさらに多くの顧客を見込めるだろう。

ブケレ大統領にとっては民主党上院議員の訪問は営業妨害になる。

これはネタニヤフ首相にも言えることなのだが真実を作り出す傾向がある人はどこか楽しそうに浮かれて見えることが多い。他人を騙すことにはある種の快感が伴うのかもしれない。

このようにアメリカ合衆国は何が真実で何がそうでないかの境が曖昧になっている。真実が相対化した世界だ。現在の日本はまだそうではないと信じたい。だからアメリカ合衆国と日本の価値観が同じだとはあまり考えたくない。

しかしながら一度真実が相対化した世界が作られてしまうとかつての状況に戻るのは必ずしも簡単ではない。

トランプ大統領は今もガルシア氏は「悪人だった」と繰り返し主張している。その根拠は曖昧なもので事実かどうかを確認した形跡は見られない。ただしこの時になぜかコンゴから悪人が退去してアメリカに向かっていると意味不明の主張もしている。どのコンゴ(コンゴと呼ばれる国は2つある)上にコンゴ民主共和国とは鉱物資源取引が進んでいるそうだ。ディールが進んでいる国を挑発する理由はないため「一体トランプ大統領は何が言いたいのか?」と記者たちは当惑しているそうである。

トランプ大統領はおそらく「トランプランド」という独自の情報空間にいて我々とは異なる現状認識を持っている。何が真実なのかはそれほど重要ではなくそもそも自分がどこにいて何をやろうとしているのかもよくわからないというような空間である。

世界の中心に混沌と曖昧を置くことで周りにいる人たちは自分の欲望を極限まで追求できる。だが、そのためにはマスク氏やブケレ氏のように「魂」を売り渡さなければならない。

一方アメリカ合衆国には賢い愚か者もいる。

最高裁判所の保守派判事たちは当初トランプ大統領が白人・キリスト教中心の社会を取り戻してくれると期待したようだ。大統領に強力な免責特権を認めた。さらにトランプ大統領が戦時法を使って移民を追放してくれることも容認している。

ところが、ここにきてトランプ政権にDue Processを守るように要求している。トランプ大統領は裁判なしで移民を追放しており内国民を「テロ容疑で追放する」可能性についても示唆するようになった。トランプ大統領の友達リストには最高裁判所は含まれていなかったのだ。

最高裁判所は憲法秩序のもとで自分たちが実質的に社会をコントロールできるとトランプ氏の逸脱ぶりを過小評価していたようだ。

「賢い人」の浅知恵には限界がある。もはや何が真実かに興味を持たない人物の発想は最高裁裁判所判事の想像をはるかに超えていたのである。結果的には自分たちの権威が否定されることになりかねないというところまで彼らは追い詰められている。

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