アメリカ合衆国関連の情報に詳しい人にとっては「何を今更」という話題だとは思う。だが、今のホワイトハウスの状況がよくわかるエピソードなので、状況をおさらいしておく。イーロン・マスク氏が中国とアメリカの戦争の可能性について国防総省からブリーフィングを受けようとしてトランプ大統領が激怒したという話。
トランプ大統領は選挙のための資金が必要。また連邦政府を極端に縮小し減税の原資を得たい。トランプ大統領にとって友達とは利用できる関係を指している。だからイーロン・マスク氏はトランプ大統領の友達だ。
ただ友達にもそれなりの動機がある。マスク氏は連邦政府の情報を掌握したがっている。まずメールなどを管理する部署(企業でいえば情報システム部にあたる)を掌握し既存の職員を大量解雇に追い込んだ。さらに連邦政府職員に自分が何をやっているか3行でレポートしろと通達している。AIで処理すればマスク氏に関わりが深い業務を行なっている人を効率的に洗い出せる。さらに連邦職員を監視するためにAIを仕込んだと触れ回っているらしい。
マスク氏はこれを下手に隠さない。報道が出てもトランプ大統領は「自分を陥れる罠だ」と勝手に解釈してくれるからだ。
ただやはりマスク氏にもやりすぎはあった。
3月20日にThe New York Timesが「マスク氏が国防総省で中国との戦争の可能性についてブリーフィングを受けるらしい」と報じた。トランプ大統領もマスク氏も「悪意のある報道だ」と否定した。
ところが国防総省でヘグセス国防長官が側近を「ペンタゴンから取り除いているらしい」と話題になり始めた。当初はフーシ派攻撃の情報が漏れたシグナル事件関連と思われていたのだが、アクシオスは「マスク氏が中国に関して極秘ブリーフィングを受けようとしたことがトランプ大統領の逆鱗に触れたようだ」と伝えている。
もちろん真偽ははっきりしないためABCニュースのマーサ・ラダッツ記者などは両論併記的に報道している。
トランプ大統領は利用できる相手を友達だと表現するが、自分に取って代わるのは面白くない。反トランプ派はこれがよくわかっており「事実上の大統領はマスク氏でトランプ大統領は傀儡にすぎない」というような表現を取ることがある。安全保障のブリーフィングは大統領特権であり決して踏み越えてはいけない領域なのだ。
一方でトランプ大統領の役に立つ人物であれば、トランプ大統領の存在そのものを脅かさない限りにおいては何をやってもいいということになる。
一方でホワイトハウスの中には「影の抵抗勢力」のような人たちもいる。マスク氏の面談をThe New York Timesにリークした人物やシグナル事件でわざわざ大物政治記者をリストに入れた人もあるいはそうだったのかもしれない。
例えばトランプ大統領にとって自分を庇って刑務所に入ってくれたナバロ氏は「友達」である。このためベッセント財務長官とラトニック商務長官はナバロ氏がいない間を狙って関税について考えを改めるようにトランプ大統領を説得したそうだ。ウォール・ストリート・ジャーナルの報道を共同通信が引用していた。
このように内心ではトランプ大統領を静止しようとしている人ほど表立った発言が強硬になる。狂った一座に入った以上は狂ったフリをし続けなければならないからだ。
現在アメリカ合衆国がロシアのクリミア領有を許容するのではないかとされている。バンス副大統領は「楽観的」でありルビオ国務長官は「強硬である」と報道されている。だがおそらくルビオ国務長官は「このままではアメリカ合衆国は安全保障においてヨーロッパの価値観から離脱するのではないか」という危機感を強く持っているのかもしれない。
つまりアメリカ合衆国がロシアのクリミア領有を許容する可能性はかつてなく高まっているということになる。
現在日本は大豆や米の輸入枠を拡大を準備し「アメリカ合衆国に考えを変えてもらおう」としているそうだ。おそらくラトニック氏もベッセント氏もこれでは納得しないだろうが実際に日本政府が何を差し出すかもラトニック・ベッセント両氏のリアクションもそれほど重要ではない。
重要なのはトランプ大統領がその時・その瞬間に何に注意を向けているかだけが重要である。トランプ大統領は側近から聞き齧った話を理解しないまま触れ回るのが有名で「コンゴから悪い奴らが送り込まれてくる」と主張し記者を当惑させたそうだ。
明らかに今は日本には注目していないので、石破政権の無能ぶり(下手に焦って何かを差し出さないこと)や「格下も格下」と妙にへりくだった赤沢大臣の卑屈さも国益にかなっていると言えるのかもしれない。