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全体主義か法秩序の崩壊か ハーバード大学に対する補助金打ち切り

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Quoraにトランプ大統領が司法のdue processを無視し全体主義化を進めていると指摘する投稿があった。アメリカの弁護士・法学博士による投稿だ。これについてコメント欄にもさまざまな意見が寄せられ日本でも関心が高い話題であることががわかる。ただこの「全体主義化」という指摘には違和感もある。市民が作った連邦国家であるアメリカ合衆国には全体主義に必要な「ある要件」が欠けているように思えるのだ。

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アメリカ合衆国連邦政府がハーバード大学に対する支援を凍結した。トランプ政権はユダヤ系の寄付に頼る政権で支持者の歓心を買うために「親パレスチナ運動」を弾圧している。市民権の申請面接に訪れたパレスチナ人留学生が拘束されたというニュースも入っておりこの傾向は顕著だ。

ハーバード大学は連邦議会で学長を「反ユダヤ主義に対処しなかった」と吊し上げた。大学は結果的に学長を更迭している。さらに学内で起きているデモについては厳正な処理をすると約束した。ところがトランプ政権の要求はここでは終わらなかった。ついに大学のカリキュラムの見直しも要求してきた。

日本は関税問題でアメリカ合衆国と交渉するとしている。だがなんらかのお土産を持って意ゆくことは危険である。トランプ政権は一度要求が通ると次から次へと無理難題を吹きかけてくるからだ。結果的に受け入れられないレベルまで状況がエスカレートする。

学問の自由を守るために仕方なくトランプ政権に対する妥協を積み重ねてきたハーバード大学はついに限界に達し「私学が誰を入学させ、誰を雇い、何を教えるかは連邦政府に指図されるべきではない」というステートメントを出した。

当然連邦政府は「だったら報復として22億ドルの支援は止める」と資金を一時凍結してしまった。「ハーバード大学が自発的に「正しい」ディールをまとめてくる」ことを期待しているのだろう。

ハーバード大学は日本でもよく知られているためこのニュースは日本でも盛んに報道された。結果的にアメリカ合衆国の日本での評価は大きく毀損しているはずだ。

この投稿から、アメリカ人の中には「トランプ大統領が一定の意思を持って全体主義的にアメリカ合衆国を支配しようとしている」と考える人がいるということがわかる。この野望のためにトランプ大統領はdue processを無視し司法に対する行政の優越を既成事実化しようとしているというわけだ。民選の大統領が司法と議会に優越するという理論は「単一行政理論」として知られておりこの懸念には根拠がある。

しかしながら全体主義化の指摘は必ずしも正しいとは言えないのではないかと思う。

トランプ政権は支援金を通じてハーバード大学を言論的に支配しようとしているのだが、一方では連邦から教育省をなくし教育カリキュラムを州に任せると言っている。大きな支配を目指すのか小さな政府を目指すのかが一貫していない。

同じことが関税にも言える。確かにアメリカ合衆国は1913年に連邦消費税を導入するまで限定的な権限しか持たなかった。現在のアメリカ合衆国は再び関税を徴収し所得税を減免しようとしている。ところが関税は同時に交渉のための武器としても利用されており、必ずしも目的が1つとはいえない。

トランプ大統領はさまざまな「理論」や「仮説」に基づいた場当たり的な発言を繰り返しているのだが「全体主義の独裁者としての覚悟」が見えない。つまり全体をまとめようとは考えていないようだ。

トランプ大統領はCBSテレビの番組を見て「気に入らない」と感じた。そこでFCCに対して「懲罰を科すことを期待する」とのメッセージを発出している。言論の自由にさして興味がないことは言うまでもないが、権限による命令ではなく「期待」を示すことで責任回避をしている。

米国のドナルド・トランプ大統領は、CBSテレビの報道番組「60ミニッツ」でグリーンランドやウクライナをめぐって自分の気に入らない内容を報じられたことを受け、連邦通信委員会(FCC)がCBSに懲罰を科すことを「期待する」とSNSに書き込んだ。

トランプ米大統領、気に入らない報道番組に圧力 連邦通信委員会に「懲罰」促す(CNN)

日本との関税交渉にあたるベッセント財務長官も「全てを決めるのはトランプ大統領であり自分には権限がない」と言っているがトランプ大統領は具体的な指示を出さず「なんでもいいから成果を持って来い」と言う態度だ。

この「誰が何に責任を持っているかがよくわからない」と言うのがトランプ政権の特質であり曖昧さである。これは戦略的曖昧さとは異なる。

結果的に「とりあえず自分が正しいと思ったら行動に起こす」ことが正当化されてしまっている。ペンシルベニア州のシャピロ州知事の自宅が放火された。過越際のお祝いの最中であり「ユダヤ教を狙ったテロではないか」などと言われているそうだが襲撃の理由はよくわかっていない。結局「精神障害ではないか」との指摘も出ているようだ。

これについてトランプ大統領は「少なくとも自分の支持者ではないから特に関心はない」と言う趣旨の発言をしている。

President Donald Trump on Monday: “The attacker was not a fan of Trump, I understand, just from what i read and from what I’ve been told. The attacker basically wasn’t a fan of any of anybody, he’s probably just a whack job, and certainly a thing like that cannot be allowed to happen.”

Donald Trump Responds to Josh Shapiro Arson Attack: ‘Whack Job’(Newsweek)

トランプ大統領はアメリカ合衆国全体の統治にはさして興味がなく、政権内で囁かれるさまざまな理論を統合するつもりもない。自分が偉大な大統領と見られる成果だけを求めており、全体主義的な統合ではなく無秩序化が進んでいると考えた方が全体を説明しやすい。

結果的に消費市場・金融市場ともにその地盤である「integrity(システムとして統一された状態がもたらす高潔さ)」を失いつつありアメリカ合衆国の国際的地位は低下するだろう。

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