トランプ大統領が半導体を関税の対象から切り離すことになりニューヨークの株式市場は若干勢いを取り戻した。直後にラトニック商務長官が「半導体にも別途関税がかかる」と宣言しトランプ大統領も同調した、この発言は今のところニューヨークの株式市場には大きな混乱はもたらさなかったようだ。
さらに今度は自動車関税も猶予するのではないかという観測が出てきた。
そもそもなぜトランプ大統領は関税政策で揺れづづけるのか。
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アメリカ合衆国の「デタラメな政策」の裏にはいくつかの支柱になる理論がある。
- アメリカは民主主義を脱却し「技術官僚=テクノクラート」が支配する自立権をグリーンランドから中南米にかけて作るべきだという非民主主義・大陸国家型の「テクノクラシー構想」
- 1913年に導入された連邦所得税を廃止し関税のみで運用される小さな政府に戻るべきだという主張。
- ミラン論文に代表されるように関税とドル安を誘導する通貨協定によりアメリカを製造業中心の国家に引き戻すべきだという構想。
ここに
- これまで通りの金融センターを維持すべきだというウォール・ストリートの実務派
- これまで通りのアメリカをハブとした同盟関係を維持し海洋国家型の通商国家でありづづけるべきだという共和党タカ派
や
- とにかくエスタブリッシュメントが憎いという憎悪主義
が加わる。
これらの声が闇鍋のように合成されたのがトランプ政権であり、その中心にトランプ大統領がいる。
トランプ大統領はこうしたさまざまな主張をSNSやFOXニュースで見てその場その場で矛盾した意思決定をおこなっている。
まずナバロ氏など限られた側近たちと関税について決めたが、国債下落に見舞われるとベッセント財務長官のアドバイスを聞き入れて一時中止にした。ところが今度は所得税廃止・関税復活を訴えるラトニック商務長官が「中国に対抗できない」と物言いをつけ半導体に別途関税をかけると言い始めている。
最も新しい動きは自動車関税の猶予だ。おそらくFOXニュースなどで「自動車の部品工場をアメリカ合衆国に戻すには時間がかかる」などと言われたのではないかと思う。そのうち誰が意思決定に影響を与えかたかの続報が出るだろう。
市場は「トランプ大統領の政策は当初考えていたよりも弱化するだろう」と理解し始めており株価は下げ止まった。アップルの株価は一時170ドル台に下落していたが200ドルの大台を回復している。中国からインドに工場を移す計画があるそうだ。その他テック株や日本の半導体株も株価が上がっているという。
株価の流れを見ると「安心」した投資家が株式市場を押し上げたあと、最後の1時間程度で株価が下落している。一時逃避した人たちが戻ってきて株価が押し上がるが「この際に資産を整理して現金を確保したい」と考える人たちがいることが窺える。混乱で一時的に下がった株を買いたいとせっせと「実弾」を仕込んでいる人たちがいるのかもしれない。
前財務長官のイエレン氏は「米国債売りは政策への信頼低下のあらわれ」と指摘しており、アメリカドルも大統領選挙前の水準に戻ってしまった。トランプ大統領が政策をまとめきれておらず中国などに対して厳しい措置を打ち出す覚悟に乏しいことも見透かされてしまった。
本来ならばこの機会を生かし平時にはできない改革を実行すべきだとは思うのだが、日本の政治にはその兆候は見られない。次善の策は慌てず騒がず刺激もせず何もしないことだろう。石破総理は報復関税は考えず、国債を売るオプションも取らず「トランプ大統領の意思をじっくり確かめる」という引き伸ばし戦略を採用するようだ。
交渉を通じてトランプ大統領の意思を確認することはできないだろう。ラトニック氏やグリア氏には最終決定権がなくトランプ政権の多様すぎる意見を代表しているわけでもないからだ。
今月2日の関税措置発表を前にラトニック氏やグリアUSTR代表と協議を行った外交関係者らによると、彼ら閣僚自身でさえ「最終的な合意にはトランプ大統領の承認が必要であり、その反応は保証できない」と私的に強調していたという。
トランプ関税の迷走、交渉相手国さらに混乱-朝令暮改で企業は疲弊(Bloomberg)
日本の政党は「構造的に無党派層を代表できない」という問題を抱え崩壊過程にあるように見える。さらに政党政治の基盤だった日米同盟も崩壊の危機にある。とはいえプロアクティブに行動することもないのだから、システムが崩壊する焼け野原にならない限り新しい芽は出てこないだろう。