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消費税で内紛危機 なぜ立憲民主党は変われなかったのか

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参議院選挙目前となり大勝の可能性が出てきたことで立憲民主党が却って分党の危機に晒されている。野田佳彦代表は「決めたことには従ってもらう」としているが、おそらく代表の決めた方向性に納得せずいつまでもぐずぐずと従わないのが立憲民主党の党内カルチャーだろう。ではなぜそうなってしまったのか。

立憲民主党は分解するようにあらかじめプログラムされている。

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消費税をめぐって立憲民主党の中に党派対立が生まれている。どちらも決定打に欠けるためこのままダラダラと参議院選挙まで決め手に欠ける状態が続くだろう。野田佳彦代表は決めたことには従ってもらうとしているが、立憲民主党にそのような党内カルチャーはない。

戦後、日本の政党政治は「分配装置」として成り立ってきた。

これがどのような形で機能しているのかがよくわかるのが自民党税制調査会だ。

それぞれの業界団体からの陳情・要望を「インナー」と呼ばれる人たちが聞き取り、最後は「会長一任」で決める。会長は自分の考えではなくみんなの考えを取りまとめた上で意思決定を行っている。思い切った政策転換は行われないため「安定感」があり、みんな好きなことを言うが責任は取らなくてすむと、高橋弘樹氏が看破している。党がまとまりもせず分裂もしないのはこのためだ。

宮沢会長はReHacQの全てのボールを打ち返している。理論的支柱があり、経験則から「あれは効果的だった、いやあれは効かなかった」と即時判断を下してゆく。フランスの事例を引き合いに出した西村博之氏の提案にも賛成の意思を示し現在の税制の枠組みにとらわれない画期的なアイディアも持っている。

例えていえばスーパーAIのようなものである。

中心にスーパーマンのような裁定者が鎮座しているため周りにいる人たちは自分達のことだけを考えていればいい。自分の意思を押し通さず裁定者に徹する「空白の中心」である宮沢氏と自分達のことだけを考えていればいい周囲(原局主義などと言われることがある)という構造ができている。

この安定した空白的中心があるおかげで、政党所属の国会議員たちは自分達の選挙のことだけを考えていればよかった。

こうした構造は田中角栄時代から続いており修正を加えながら現在に引き継がれている。

石破茂総理大臣は統合された田中派の選挙戦術を「総合病院方式」と呼んでいる。田中派は議員を通じて陳情を集める。陳情はそれぞれの利益団体の票数と結びついている。これを党内実力者が取りまとめ、最終的に「万能コンピュータ」である大蔵省に投げる。実際には自民党内に大蔵省官僚出身の「官僚型議員」がいて職人技でこれを整理するという構造があった。これが精緻化されて自民党税調と政府税調という区分けができた。

小沢一郎はこの「総合病院方式」をなんとか野党でも再構築しようとしている。そのためには議員数が必要なので「どんな政党でもいいから(ただし共産党と社会党は除く)結びつくべきだ」といっている。

ただし野党である立憲民主党はどうしても政府・政党一体型の意思決定システムを再現できない。またテレビ時代からSNS時代に移るとそもそも国民世論というものがなくなってしまった。

つまり、立憲民主党は政党政治の「ますますセグメント化がひどくなった利益代表者がそれぞれ騒ぎ立てる」という部分だけを取り出した政党になっており、それを整理する機能を持たないのだから、やがて自然に壊れる。

だから立憲民主党は「政権が狙える程度に大きくなった時点で分裂する」運命にあるという結果が得られる。誰が代表になってもこれは変わらない。

では宮沢税調会長は万能なのか。

このRehacQsを見ると宮沢氏は西村博之氏から「アイディア」を欲しがっていた。周りを利害関係者に囲まれており有権者の声が届かなくなっているということがわかる。自民党は実はスーパーAIの実力を十分に活かせていない。具体的にいうならばインプットが貧困化しているのだ。

だが、無党派層はまとまった声を届けることはない。無党派層に意見集約機能はないからである。だからこの先は自民党も立憲民主党もどんどん無党派層のニーズから離れてゆく。国民民主党や維新は特定の有権者に絞った選挙戦略を打ち出しており、これは潜在的に「生産世代か引退世代か」「若者か就職氷河期か」という細分化に向かうだろう。結果的に国会での意思決定はますます難しくなるはずだ。

競争を通じて選挙中心主義に陥ったことで、現在の政局は「給付か減税か」という二者択一に陥っている。このため30年長期国債の金利が急騰しているそうだ。金融市場は冷静に「日本の財政」にノーを突きつけている。

やがて自民党も崩壊することになる。利益団体が先細っており無党派層のプレゼンスが高まっているが、無党派層の声は「スーパーAI宮沢」には届かない。自民党の意思決定は無党派層に魅力的なものではなくなってゆく。無党派層が自然にまとまった国民世論を作ることはなく財政拡大の方向に圧力がかかり日本の財政は悪化する。

ここに大きな問題がある。スーパーAI宮沢はやがて退役するだろう。この後に誰がスーパーAIになれるのかという問題がある。

ReHacQを見る限り片山さつき氏には荷が重そうだ。そもそも経験値が形式化されないまま蓄積しており「形式化して取り出すことができない」という問題がある。宮沢さんはどうやら後継者を育ててないようなのだ。

さらに勘と経験に頼っているため、日本では数字を見ながら戦略を立てるという政治風土が根付かなかった。トランプ大統領の関税政策がまとまらないためにインパクトが見えないのに補正予算の必要性が叫ばれている。しかし田崎史郎氏によれば石破総理は党内をまとめることができてないそうだ。実は「決められない」構造は立憲民主党だけでなく自民党にもしっかり根付いてしまっている。

日本が選挙中心主義に陥りつつもなんとか国の形を保ってきたのは、政府・与党内に選挙とは別の意思決定の仕組みを持っていたからである。

源流を辿ると吉田茂に行き着く。吉田茂が重用したのが大蔵省出身の池田勇人だった。失言が多かったが岸信介の混乱を抑え大蔵省出身者のインナーサークルでまとめた「所得倍増計画」を形にした。この池田勇人の秘書官として戦後体制作りに加わったのが宮澤喜一だった。その主席首相秘書官だったのが宮沢洋一氏だ。

日本の政党には公式の人材育成システムとは別に非公式の人材育成システムがあり「世襲」や「同門(大蔵省人脈)」などでつながっているという裏構造がある。

日本が無党派層に対応できる新しい国家体制を作るためには、各政党がそれぞれの意思決定のための機能=シンクタンクを持つ必要があるのだが、現在の日本にはその兆しがない。

このため「おそらくはなんらかの決定的な行き詰まりで制度が破壊されてない限り新しい仕組みが作られないだろう」という予想が成り立つ。

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