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今度は「1〜2ヶ月後に半導体関税」 朝令暮改のアメリカの関税政策

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iPhoneなどを念頭に置いたとみられる「関税猶予」にまた新しい進展があった。ラトニック商務長官が「アメリカ合衆国は1〜2ヶ月後に半導体に対して関税をかけ」ると宣言し、メディアは「iPhoneなどもその影響を受ける」と解釈したようだ。

詳細は明らかになっておらず、政府の最終的な見解なのかどうかもよくわからない。また週末の発表だったため株式市場への影響もわからない。いずれにせよこうした発表があるたびに「アメリカは危険だ」ということになりアメリカ売りが加速するだろう。

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詳細も市場への影響も不明だが時事通信が「【速報】ラトニック米商務長官は、相互関税の対象外とされた電子機器などは、近く発表する半導体への追加関税の対象になるとの見通しを示した」という速報を出している。

新しい関税が発表されるのであれば新しい関税が発行したときに切り替えればいいだけの話なので「一時猶予した」説明にはなっていないのだが、そもそもトランプ政権の説明には大した意味はない。

さらに実利主義者、自由主義者、孤立主義者などが三つ巴になり、ありとあらゆるチャンネルを使ってトランプ大統領に働きかけているのだろうということもわかる。なにが引っかかるかわからないのでありとあらゆる理屈を並べトランプ大統領の興味を引きつけようとしている。そしてその度に市場はメッセージを読み取ろうとして大混乱する。そんな悪循環が生まれている。

ラトニック商務長官は過去に「125 years ago. We had no income tax, and all we had was tariffs(125年前、アメリカには所得税はなく関税だけがあった)」と主張していることから孤立主義的な考えを強く持っていることが窺える。

トランプ大統領もラトニック商務長官の意見に同調しているか影響を受けているとみられる。

トランプ大統領は関税発表の中で、1913年をしきりに話題にした。1913年とは、アメリカが連邦所得税を創設し、関税を大幅に引き下げた転換点だった。

【解説】トランプ氏は米経済力の基礎に背を向けた……厄介なことになるかもしれない(BBC)

このように今回の関税政策の根幹には「自由通商はアメリカ合衆国のためにならない」という了解がある。日本が自由で開かれたアジア太平洋を通じて国営を享受しつづけたいのだと考えると、価値観を共有できる国ではなくなりつつある、ということだ。

日本の政治家たちは「アメリカ合衆国は今回の混乱を通じて路線変更が国益に沿わないと悟るであろう」と考えているようだが、BBCは「どうやらその考えは間違っているようだ」と考え始めている。だから「厄介なことになるかもしれない」という表現になる。

その一方でラトニック氏は中国に対して敵意も持っているようだ。ABCニュースに言い分が掲載されていた。

Lutnick: I think we’ve had soft — uh, the way I would say it is, is “soft entrees,” you know, through intermediaries and those kind of comments. But we all expect that the president of the United States and, and President Xi of China will work this out. I am completely confident, as is [Trump], that this will be worked out in a positive, thoughtful and effective way for the United States of America. I mean, Donald Trump has the ball. I want him to have it. He’s the right person with it. He knows how to play this game. He knows how to deal with President Xi. This is the right person for the right role, and I am confident this is going to work out with China. Yes, is it in a tough spot now, of course it is, but that’ll — you’ll see. All of that energy will sort of decline and will end up in a perfectly reasonable place with China. I’m confident of it.

Commerce Secretary Lutnick says tariff exemptions for electronics are only temporary(ABC News)

かいつまんで要約するならば「中国にわからせる」ためには半導体などを使った脅しが重要であると考えている。中国を脅し続ければ自ずと「なにが自分達の利益になるかを悟るであろう」と考えているのだ。このためには「カード(この文章の表では「球」)を手放すべきではない」という考え方を持っている。

中国は「アメリカに高い関税をかけてアメリカ製品を締め出してしまった」ので「もう関税戦争にはお付き合いしませんよ」と言っている。アメリカ合衆国はフットボールか野球をしたがっているのかもしれないが、中国は「遊んであげない」と言っていることになる。確かに中国には遊んであげる動機がないが、友達付き合いが下手なトランプ大統領は相手にボールを投げつけて投げ返してくれるのを待っている。

同じインタビューの中でラトニック氏は「パナソニックが電池工場(乾電池なのか充電池なのかはわからないが)をアメリカに持ってきたのから半導体工場が持ってこれないわけはない」と主張している。おそらく電池も半導体も「同じ電気のなにか」くらいの認識しかないのだろう。

ドル円は一時142円台まで円安が進展したがその後144円台までドル高だった。ところが一転して143円台に下落しており市場がこの発言に一定程度動揺しているらしいことが窺える。

トランプ大統領に政策を売り込む側近たちの場当たり的な発言とトランプ大統領の気まぐれによってますますアメリカ売りが加速しそうである。

アメリカ合衆国の税制は議会の承認が必要だ。議会は連邦予算の拡大を恐れてなかなか減税に賛成してくれない。そこで関税が「大統領が勝手に決められる代替財源」のような扱いになっている。さらにここに「ディールの道具」という別の意味合いが加わっておりますます混乱が加速しているというわけだ。

結果的にアメリカ合衆国は「「税制」が朝令暮改される」不安定な状況に陥っている。つくづく民主主義とは恐ろしいものだと感じざるを得ない。

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