ヘグセス国防長官を迎えて防衛大臣級会合が行われた。日本側の見出しを見て心底がっかりした。「防衛費増額の話は出なかった」と一山越えたような書かれ方をしているからだ。これでは激変する国際政治環境に対応することはできないだろう。
ではどうするべきなのかということになる。Quoraで関連報道をまとめてみて「国際リアリストと愛国保守」では自ずと求められる文章も変わるんだろうなと感じた。そして、当ブログの読者はどっちが多いのだろう?と疑問に思った。
いずれにせよ現在の外交安全保障はどちらにもいい顔をしたいあまりに結果的に「二枚舌」外交になっている。これを意図的にやっているのであればよいのだが、どうも周りの空気に流されているだけという気がする。
リアリスト的な視点
リアリスト的視点に立つと「アメリカの現状を受け入れ中国とバランスが取れた外交を目指す」というバランス外向型とあくまでも日米同盟を主軸にした同盟維持に分かれる。どちらも守るべき国益を戦略的に決めたうえで相手を理解した適切なコミュニケーションを取る事が重要だ。さらに自分たちが持っているカードを冷静に分析し、ないならば何処かの力を借りる一種の狡猾さも必要になるだろう。
バランス外向型
習近平国家主席はトランプ大統領の登場を好機と考えている。1つ目の戦略はこれを利用して米中の間のバランスを取るという戦略になる。後述するようにワシントン・ポストが「防衛をアメリカに依存する日本には恫喝のための武器がない」と書いている。たしかにこれはそのとおりなのだが、中国を利用して「では中国に接近せざるを得ない」としてアメリカを自由貿易陣営に引き戻すための戦略を取ることもできる。
最終的なゴールは明確にしておいたほうがいい。安全保障や価値観の側面では欧米と足並みをそろえつつ中国との間で自由貿易の枠組みを維持する努力が求められるということになり難易度はそれなりに高い。
中国に自由貿易とは何たるかを教えるべきという意見もある。日本は中国や韓国に先駆けて自由貿易で成功舌国として教師役になることもできるということだ。
もっとも重要なのは国際関係を「白か黒か」で判断しがちな日本国民に対して政府が毅然とした態度でリーダーシップを示すことだろう。今でも「非清和会系の派閥は日米同盟を捨てて中国になびいてしまうのではないか」という恐怖心や警戒心を持っている人が大勢いる。保守がバランス外交を選び取るならば、一旦は従来の主張を捨てて戦略的フォロワーシップを発揮する必要があるだろう。
自民党は従来こうした議論を派閥対立に絡めて内輪で扱ってた。だが、今後は開かれた議論が必要になる。国民の理解が欠かせないからである。
ただし、相手になる中国は非常にしたたかでやすやすと利用させてくれそうにはない。
習近平国家主席は、トランプ大統領の「北朝鮮を核保有国と認めてディールを仕掛ける」姿勢をうまく利用している。また王騎外務大臣は強引に日本の政治家とスクラムを組み中国内外のマスコミに「日本の政治家をリードする中国外交」という絵を作ってみせた。
中国の習近平指導部が北朝鮮の非核化を軸に日中韓3カ国の連携を強化するシナリオを描いていることが29日、分かった。トランプ米政権が孤立主義に傾く中、日韓に接近する「戦略的機会」が生じていると判断した。
【独自】中国、日韓と戦略的連携 北朝鮮の非核化軸に(共同通信)
また韓国で行われた会合でもWTOルールに基づく貿易体制を支持するというメッセージを出している。中国の姿勢は一貫ているため、これに打ち勝つためにはかなりの実力と腕力が必要になるだろう。
日米同盟主軸型
一方で日米同盟を主軸にした場合には「アメリカ人がどのような思考法を持っているのか」を理解しなければならない。このためにはアメリカ合衆国的な思考を肌感覚として理解している政治家が必要だ。通商交渉の分野では自民党にはそのような政治家はいる。
中谷防衛大臣や石破総理大臣ははおそらく適性がない。防衛費は数字の問題ではないとしている。では何なのかと問われるとおそらく「誠意」というのだろう。将来に向けて地雷を仕込んだ格好になる。アメリカ人と接触した経験がない日本人はおそらくその恐ろしさがよくわかっていないことだろう。
アメリカ人は短期ビジネス思考なので「誠意」のような長期的な信頼関係の構築にほとんど興味がない。更にヘグセス国防長官はそもそもFOXニュースのホストなので防衛戦略に知見がほとんどない。戦略はすべてトランプ大統領(彼も外交安全保障ではシロウトである)が決める上におそらく国防総省内の人間関係も掌握できていない。さらにおそらく異文化と接触した経験もない。
アメリカ合衆国では軍事費の大幅削減が始まっている。ヘグセス国防長官が最初にやったのは制服組トップの斬首だった。理由は戦略的なものではなく「ブラウン将軍が黒人でありなおかつWOKE」だからである。この程度の考えで極めて大胆で取り返しのつかないことをやってしまう政権なのだ。
トランプ氏はソーシャルメディアに、「チャールズ・CQ・ブラウン将軍に、今の統合参謀本部議長としての任期を含め、40年以上にわたり我が国に尽くしてくれたことに感謝したい」と書いた。大統領は、ほかに軍幹部5人が交代するとも述べた。
トランプ氏、制服組トップのブラウン統合参謀本部議長を解任(BBC)
高位軍人の間にはリストラに対する極めて強い抵抗が広がっているはずだ。組織的に考える傾向が強い軍人は自分の身を守るために「自分たちの今の仕事がいかに大切なのか」を盛んに喧伝し、ヘグセス国防長官に重要な情報は渡さなくなるはずである。
まず在日米軍強化の中止が検討され、次に在日米軍が主要部隊を指揮しないことが決まっている。
米軍の状況が曖昧かつ混沌になる中で石破総理と中谷防衛大臣がやるべきだったのは「ヘグセス国防長官がどこまで状況を把握しており」「実務者が本音で何を考えているのか」を引き出すことだった。しかし両人とも「防衛費増額について何を言われるのか」で頭がいっぱいになっていたようだ。
ヘグセス国防長官の「日本が正しく判断する」の「正しく」という言葉は「アメリカの(厳密に言えば「ボスであるトランプ大統領」の)戦略に沿った=つまり大幅な防衛費の増額」を行うという意味になる。ヘグセス氏が今の地位にとどまるためには常にトランプ大統領の期待に応え続けなければならない。アメリカ人は明確化されたゴールに対しては極めて鋭敏に動く。
問題はこの期待が裏切られたときだ。トランプ大統領やマスコミに「内容をきちんと詰めなかったのではないか」と批判されると一転して日本を口を極めて罵ることになるだろう。これはチャット情報流出事件のときにも見られた反応だった。
曖昧さを好む日本人が欧米との交渉に臨む場合には「自分たちの文化特性を理解しつつ」「相手の立場と文化特性を踏まえたうえで」適切なコミュニケーションを選択する必要がある。
こうした知見を得るためには普段からアメリカ人との交渉を通じてアメリカ人の特性に慣れている必要があるが日本人は徐々に海外留学や海外渡航をしなくなっており「内向き化」が進行している。
愛国保守の視点
愛国保守の場合には全く考え方が違ってくる。日本人には日本人の思考方式がありやすやすとアメリカや中国に迎合すべきではないと主張するべきだ。
1980年型の古びた図式で日本の自動車に関税をかけるアメリカ合衆国に対して毅然と対峙しなければならない。
ワシントン・ポストは「とはいえ軍事力をアメリカに依存する日本は何も言えないだろう」としている。
“If you say, ‘Fine, let’s have an offensive method. What can we threaten America with?’ The irony is — very, very little,” said Jesper Koll, a Tokyo-based economist and investor.
Japan, a car-making giant, mulls ‘appropriate’ response to Trump tariffs(Washington Post)
結果的に現在の「自称愛国保守」は強いアメリカに守ってもらいながら中国や韓国など自分たちが蔑視して下に見ている人たちにむかって威張り散らすくらいの意味合いしかない。
仮に「愛国保守」的な立場を取った場合、まず最初に行うべきことはアメリカに依存しなくてもやって行けるだけの防衛費を自前で確保することになる。このためには自分の暮らしをと将来を犠牲にして国家に対して税金を収め周りにもそれを説得するくらいの強気さが求められる。
実名を出すこともためらっている「自称保守」の人たちにどこまで覚悟があるのか、また誰かリーダーを立てて積極的に高負担路線を支持して行けるのかには大きな疑問符がつくが、ここは決めつけは控えることにしたい。
トランプ政権の現状
最後に今朝仕入れたニュースからトランプ政権の現状について見てゆきたい。様々なディールを仕掛けていたがすべて中途半端に終わり行き詰まりを見せている。
プーチン大統領に対して非常に怒っている
ウクライナ・ロシアとの協議が一通り終わったところで、トランプ大統領は「プーチン大統領は本気ではないのかも」と気がついたようだ。さらにプーチン大統領に「怒っている」と苛立ちを見せ、報復として関税をかけると言っている。国内事情から軍事力を行使できないためトランプ大統領のカードは自ずと限られたものになってしまう。
日本では一方的な被害者として描かれることが多いゼレンスキー大統領だが「援助させてやっているのだ」というような態度を見せている。これまでにもらった支援を返すつもりもないようで、アメリカと独占契約を結ぶとヨーロッパからの投資がなくなる危険があるので「投資の約束をしろ」と迫っている。これくらい豪胆でなければ他国の援助で防衛戦争を実行するというようなことはできないのだろうなあとある意味感心させられる。
外国産の自動車の価格が上がっても構わない
自動車関税に関してトランプ大統領は自分の政策の意味合いがよくわかっていないようだ。外国の自動車の価格が上がる政策だと理解しているようだが、部品価格上昇を受けてアメリカの自動車メーカーへのインパクトが非常に大きいものとされれている。サプライチェーンの再編にはそれなりの時間がかかると理解していなかったようだ。
今のところは「外国メーカーの自動車価格が値上がりするのは構わない」が「車の値上げはすべきではない」と矛盾したメッセージを発出している。
アメリカとの古い関係は終わった
カナダでは自由党のカーニー首相が「アメリカとの古い関係は終わった」と宣言した。カナダ版トランプ大統領と呼ばれることもあるポワリエーブル氏を「トランプ大統領にへつらうようではカナダの独立は守れない」と批判するなどボルテージが上がっている。カナディアンナショナリズムを利用して自由党政権を維持したい意向である。
トランプ米大統領は29日のNBCニュースとのインタビューで、導入予定の自動車関税への対応で外国の自動車メーカーが値上げを行ったとしても自分は「全く気にしないだろう」と述べた。また4月2日の関税賦課をこれ以上遅らせるつもりはないとあらためて明言した。
トランプ氏、米国製自動車に買いが戻るだろう-関税効果に自信(Bloomberg)
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