8,700人と考え議論する、変化する国際情勢と日本の行方

「いや、あれはルビオがやった」トランプ大統領が責任逃れ

Xで投稿をシェア

毎日のように人権国家の崩壊が続いているアメリカ合衆国。同じ歌の繰り返しで恐縮だが今回もその混乱の一端をお伝えせねばならない。

政権の失敗を糊塗するためには内なる敵を作るのが最も手っ取り早い。大衆は当初はこれを熱狂的に支持するのだがやがて自分たちの権利を放棄していたと気がつくことになるだろう。

ポイントになるのは裁判なき追放である。一部のメディアは「憲法危機だ」と指摘している。だが実際に起きているのは憲法秩序の崩壊ではない。民主主義の基盤になっている「事実」の崩壊だ。つまりアメリカの民衆は自分たちが何を手放しているのかがわからないうちに大切なものを失ってしまうのかもしれない。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






最高裁判所長官は「トランプ大統領が密室でサインしたのは裁判所が察知すれば差し止めをするとわかっていたからだ」と指摘している。つまり悪意があったというわけだ。おそらく大統領府側には「法律を超越することをやってのければ岩盤支持層に支援してもらえる」という見込みもあったのではないかと思う。

ABCは司法と大統領府の対立は憲法危機なのか?という特集を組んでおり、憲法秩序の崩壊が懸念されている。大統領が就任してからまだ2ヶ月しか経っていない。

裁判なく「犯罪者」をエルサルバドル送りにするという大統領府の方針は早くも破綻した。追放者の中に犯罪歴のない亡命者が含まれていたと考えられている。最高裁判所側は「資料を渡すように」と要求しているが大統領府側は応えていない。答えようにもまともな資料がない可能性もある。

犯罪歴のない人が含まれていたことを指摘されるとレビット報道官は「不法移民であったというだけで犯罪である」と主張した。しかし、今度はアメリカが受け入れた亡命者も含まれていた事がわかった。すると今度は「そもそも前の大統領の判断がいけなかった」と言い出した。50万人に与えられてい滞在資格を取り消すのだという。

トランプ政権は口論で論破されそうになると次々とゴールをずらして自己正当化を図るというようなことをやっている。とにかく間違いを認めたがらない政権だ。

しかし、アメリカはキリスト教・白人が指導する国家でなければならないと考える中流層は大統領をさらに強く支持するようになるのかもしれない。民意の反映なのだから憲法秩序の破壊くらい大したことはないのではないかと言いたくなる人がいることもよく分かる。

間違った意図で作られたプログラムはやがてシステム全体を破壊することになりかねない。

そもそもアメリカの中流層が歴史的に没落しつつあるのは一部の富裕層の政治的影響力が強まり「収奪国家化」が進みつつあるからと説明できるだろう。トランプ政権はこれを外国から来た人たちが中流層の暮らしを盗んでいるからだと言い換えている。そしてその「事実」をもとにプログラムを組みバグが見つかると前提になる事実を変えている。

間違ったプログラムが機能することはなく、外国からの労働者を追放しても中流層の暮らしは良くならないだろう。つまり不満は解消されないのだから更に「強い敵」や「合理的な」理由を求めるようになると予想される。

すでにその兆候も出ている。強引な政府のリストラ策に対してテスラ社への攻撃が強まっている。なかにはresist(抵抗)という言葉も残された現場もある。確かに暴力に訴えることは良くないのだが、革命国家アメリカではあってもおかしくない反応だ。

するとトランプ大統領はテスラに対する攻撃を米に対する敵対行為とみなすと宣言し「エルサルバドル送り」をほのめかして恫喝している。法的根拠は不明で裁判が行われるかどうかはわからない。

「敵」の範囲はなし崩し的に拡大し最終的には良識的なアメリカ人もターゲットにされるだろうという予測は容易につく。

こうなると何が事実なのかもよくわからなくなる。

富裕層の拡大によって脅かされている中流層に対して「お前たちの敵は中南米人だ」と説明してきたトランプ政権は最高裁判所長官からの批判に耐えかね「あれはルビオがやった」と言い出した。

ドナルド・トランプ米大統領は21日、200年前の「敵性外国人法」を発動してギャング構成員とされるベネズエラ人を国外追放する布告に自身が署名したことを否定し、署名したのはマルコ・ルビオ国務長官だと主張した。この数時間前に、同法の発動を「信じられないほど厄介」と連邦判事に評されたばかり。

トランプ氏、ベネズエラ人追放布告への署名を否定「ルビオ氏がやった」(AFP)

責任回避を図った格好だが実は大統領令は記録に残っている。

ホワイトハウス報道官は当時の声明で、トランプ氏が「敵性外国人法を発動する布告に署名した」と記しており、声明はトランプ氏の署名入りで連邦官報にも掲載されている。

トランプ氏、ベネズエラ人追放布告への署名を否定「ルビオ氏がやった」(AFP)

歴史改竄なのかあるいは軽い健忘症なのかはわからないのだが、人々は次第に冷静な判断力を奪われてゆき「何が本当なのか」が見えなくなりつつある。おそらく問題は憲法秩序の崩壊ではなく「事実の崩壊」だ。

トランプ大統領はロシアとの交渉においてルビオ国務長官ら共和党タカ派に頼っている。日米同盟の維持にも彼らの協力は欠かせない。だがおそらく共和党タカ派とMAGAの協力関係も長くは持たないのではないかと思える。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

+6