トランプ大統領のメッセージが明確になるに連れてヨーロッパとカナダが事態を深刻に受け止めていることがわかるニュースがいくつか入ってきている。
ドイツは大連立を決めつつあり防衛費の拡大のための憲法改正を決めた。カナダは経済的にアメリカに屈服することを恐れヨーロッパに接近。イギリスはアメリカとの距離感で苦慮している。またポーランドはおそらく文脈を理解しておらずアメリカの核の傘の庇護を求めている。
一方日本では……ということになるのだが、何も語られていない。おそらく今後も語られることはないだろう。
モンゴルに支配された歴史のある大陸国家ロシアは常に生存圏の確保を求めている。しかしヨーロッパにとって見ればロシアも「モンゴル的な」国だ。
ヨーロッパはモンゴルの西進をイエロー・ペリル(黄色い禍)とみなしてきた。第二次世界大戦のときには日本もイエロー・ペリルとみなされてきた。同時にロシアもモンゴル化したヨーロッパとみなされることがあり蔑視の対象になっている。EU/NATOにロシアが加われなかったのはそのためだろう。ロシアの西進は「ロシアン・ペリル」と表現されることがあるそうだ。
アメリカ合衆国にとって見れば「帝国主義的な生存圏協議」に過ぎないのだが、ヨーロッパから見れば「ロシアン・ペリル」の再来ということになる。
ドイツはこの問題を深刻に受け止めているようでライバル政党間の「歴史的合意」が実現している。上院での審議が終われば基本法が改正され、大連立政権が樹立する可能性が出てきた。
このため、ことし2月の総選挙で勝利した「キリスト教民主・社会同盟」は連立協議を進める「社会民主党」と、国防費のうちGDPの1%を超える項目の支出については「債務ブレーキ」の対象から外す基本法の改正を行うことで合意しました。
ドイツ 基本法の改正法案可決 財政規律緩和で国防費など増額へ(NHK)
ドイツはロシアの脅威に加えてイーロン・マスク氏の政治介入を警戒している。当然AfDは除外される。
この動きに同調したのがカナダである。カナダはアメリカの51番目の州として併合されることを恐れている。軍事力ではなく経済的恫喝によって併合される懸念がある。このためカーニー首相はアメリカではなくヨーロッパを初の外遊先として選んだ。カナダ独力ではアメリカとの貿易戦争に勝てないためヨーロッパと共同歩調を取りましょうと言っている。イングランド銀行総裁経験者だけあってヨーロッパにも太い人脈があるのだろう。
イギリスの立場は苦しい。イギリスはアメリカとの間に貿易戦争が起きることを望んでいない。すでにEUから離脱しているため再加入も難しそうだ。
チャールズ3世国王はイギリスの王なのだが同時にカナダの王でもある。とはいえカナダの利益を代表してアメリカと対立してしまうとスターマー首相の選択肢を狭めてしまう。イギリス王室は常に王政廃止のプレッシャーにさらされているためなかなか表立ってカナダを支援できないようだ。
一方のカナダも「カナダは独立国であるからイギリスに主権を認めて貰う必要はない」と言っている。主権国家体制を維持しあくまでも独立国としてアメリカと向き合おうとしている。
これに対しカーニー氏は、「我々は他国に主権を認めてもらう必要はない。我々は主権国家であり、他国からの称賛を必要としない。我々は自分自身に誇りを持っている」と述べた。
カナダのカーニー新首相が訪英、チャールズ国王は「象徴的」支持として会談(BBC)
トランプ大統領の「大陸国家化」は誰の目にも明らかだがトランプ大統領がどの程度それを理解しているのかはよくわからない。左派のおもちゃになっていることもあり国際政治学者たちは「そうかも知れない」程度の認識でこの問題を取り扱わざるを得ない。
しかし現実的にはトランプ大統領のロシアとの交渉はヨーロッパ・カナダとアメリカ合衆国の間にかなり強いインパクトを与えているとわかる。
このように考えると日本の政治がこの問題について全く取り上げないのは狂気としか言いようがない。しかし、おそらく日本政治と一般国民の常識から見れば「日米同盟はゆるぎがないもの」であり「すでにトランプさんからの確約を得ている」のだから、当ブログのような主張は騒ぎすぎ・考えすぎということになるのだろう。
ヨーロッパの中にも温度差はあるようだ。
仮にアメリカがロシアと勢力圏を分け合おうとしていると理解するならば、アメリカ合衆国がロシアを刺激するようなことはないはずだ。しかしポーランドはアメリカの核兵器をポーランドに配備しろと要請している。文脈をあまり理解していないのかもしれない。
ドゥダ大統領は「NATO(北大西洋条約機構)の国境は1999年に東に移動した。それから26年が経過し、NATOのインフラも東に移転してもいいはずだ」とし、もしそうした兵器がすでにポーランド国内にあればより安全だとした。
ポーランド大統領、核兵器の同国内配備を米に要請=FT(REUTERS)