ついにこの日が来てしまったかと思った。やや陰謀論の匂いがするので扱うのに躊躇してきたが「テクネイト・オブ・アメリカ」に付いて説明しなければならない。ウクライナ分割協議について解説するために必要だからである。
トランプ大統領が「グリーンランドを購入したい」と表明したときに「何を馬鹿な」と思った人は多かっただろう。しかし国際政治学者たちのXでのつぶやきはちょっと違っていた。ただしこの時点では「とはいえ陰謀論の一種であろう」と考えた。
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地政学には大陸国家・海洋国家という概念がある。勢力圏・生存圏を確保したいのが大陸国家で、通商によって利益を拡大したいのが海洋国家だ。大陸国家の典型はモンゴルだがモンゴルに支配された経験が長いロシアも大陸国家的だと表現される。中国は本質的には大陸国家でありながらも海洋国家化を目指しているとされる。
このため「ランドパワー・シーパワー」と言う概念が用いられる。
アメリカ合衆国には古くから「民主主義は野蛮な政体であってエリートが主導する国家に生まれ変わるべき」というイデオロギーがある。この政体を支配するのは国家完了ではなく優れた技術官僚(テクノクラート)である。この政体をテクノクラシーと呼ぶ。
このテクノクラシー思想は、グリーンランド・カナダ・アメリカ合衆国・中米・南米北部までを一つの勢力圏とする「テクネイト・オブ・アメリカ」という概念を生み出した。
国際政治・地政学界隈ではそこそこ話題になっているが、それでも「かもなあ」程度のことしか言えない。
イーロン・マスク氏はこのテクノクラシーの信奉者であると警戒されることがある。この文脈では、イーロン・マスク氏は連邦政府から人を追放しAIプログラミングに置き換えることもテクノクラート支配の布石であると考えられている。技術に疎い人たちは中で何が行われているのかがわからなくなる。だから憲法や議会をそのまま残しても実質的にテクノクラートが国家を支配できるようになってしまうなどと語られる。法律に疎い人たちが事実上政治に参加できなくなる「ビューロクラット」を技術に置き換えているわけだ。イーロン・マスク氏がビューロクラシーを攻撃するのは民主主義養護のためではない。
しかしながら、これらの一連の疑念は「一種陰謀論」のように扱われてきた。
第一にアメリカはシーパワーの民主主義国であるというイメージが強くこれが一夜にして覆ると考える人は多くない。さらにトランプ大統領はテクノクラシーを十分に理解しておらず彼のメッセージからはテクノクラシー臭さは感じられない。第三にX上のテクノクラシー批判は左派の「お気に入り」の陰謀論になっている。
トランプ大統領は大陸主義的帝国主義者から見ればパペットとして非常に都合の良い人物だ。周りが吹き込んだ通りに踊ってくれる。更に都合が良いことに一部の左派はろくに勉強もせずに「トランプは新しいデジタル・ファシストだ」というような騒ぎ方をしている。すでにネットには様々な陰謀論が飛び交っているため「テクノクラシー批判」もデジタルゴミ箱に捨てられた陰謀論の一種だとみなされてしまうだろう。
これが当ブログが「テクネイト」について触れてこなかった理由である。
だが、ウクライナを巡るロシアとアメリカ合衆国の協議内容を見てかなり大きなショックを受けた。事実上のウクライナ分割協議だったからである。さらにヨーロッパ(含むカナダ)のリアクションを見ると彼らはこの自体をかなり深刻に受け止めているとわかる。
議論の混乱を避けるために別のページを作って「分割協議」の内容について整理する。