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自分はイギリス国王に二度も招待してもらえる特別な大統領なんだ!

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トランプ大統領の性格をよく理解したイギリスのスターマー首相チャールズ3世国王の招待状を準備して会見に望んだ。スターマー首相は記者と側近が見守る中で「これは極めて特別な招待状なんですよ」と記者たちに説明。その後「そう言えばまだお返事を聞いていませんでしたな」と畳み掛けた。

ウクライナのゼレンスキー大統領との会談の前にやることはやったという感じなのだろう。ただこのあとゼレンスキー大統領がこれを台無しにしている。

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トランプ大統領は折衝の中でプーチン大統領から一緒に世界を支配しようと持ちかけられすっかりその気になっていた。その後ヨーロッパは反発していたが共和党のタカ派と呼ばれる人たちがかなり説得したのではないかと思う。経済と安全保障を切り離す戦略に出ている。ビジネスでトランプ大統領を引き付けておいて安全保障と切り離そうということなのだろう。

ヨーロッパは団体でトランプ大統領と交渉することはなく、マクロン大統領、スターマー首相、ゼレンスキー大統領が日程をずらして訪問した。集団で圧力をかけられるとトランプ大統領の態度が頑なになるということがわかっているのだろう。

スターマー首相が準備したのはチャールズ3世国王からの二度目の招待状だった。記者や側近がいる前で「いいですか、これは極めて特別なことなんですよ」と言ってみせた。トランプ大統領は比類なきリーダーでありこの上なく特別な待遇を受ける特別な資格があるとほのめかしてみせたのだ。

そのうえで「そういえば招待状の返事をもらっていなかった」と付け加えた。自分たちが招待してやるのではなく、あくまでも偉大なるトランプ大統領閣下のお気持ち次第なのだから「恐れながらお返事をいただけますか?」とやったのだ。

“This is really special. This has never happened before. Unprecedented,” Starmer said, putting a hand on Trump’s shoulder.

What did King Charles say in his letter to Donald Trump?(CNN)

もちろん返事はイエスだ。

まともな人だったら「慇懃無礼にバカにされた」と感じていたかもしれない。

日本にも少なくとも1000年を超える天皇家の歴史がある。伝統を持たない共和制国家の人たちの伝統と格式に対するあこがれは日本でも外交的資産として活用されている。ただしこれほどあからさまな外交利用はおそらく「政治利用だ」として嫌悪の対象になるだろう。国王が極めて強い国家主権を保持しているイギリスならではの外交だったといえるかもしれない。イギリスの国王は国益を考えて自らがどちら側に立つのかを主体的に決めるということになる。

と同時にイギリス人の眼差しにはおそらくかなり冷ややかなものがあるのではないかと思う。これも同等の(あるいはそれ以上の)伝統を持つ我々にはよく理解できる。

トランプ大統領は国王をすごいすごいジェントルマンと表現したが、ジェントルマンはもともとイギリスでは地方領主を意味する。海をわたった平民たちは正しい国王に対する知識は持っていないのである。

As he took and opened the letter, Trump described the King as “a great, great gentlemen” and remarked on his “beautiful” signature.

What did King Charles say in his letter to Donald Trump?(CNN)

ここからイギリス側がもっているであろう「これくらいしてやればこの男はなびくだろう」という気持ちがどうしても透けて見えてしまう。こんな芝居がかったことをすれば相手に軽蔑されるだろうとは考えなかったのだろう。

そしてその戦略は正しかった。

スターマー首相は記者が入らない会談で関税についても説得をしたようだ。だがトランプ大統領は「この男は一生懸命に仕事をした、給料分の働きをしたと言ってよい」と上から目線で解説したうえで「とはいえ関税がどうなるかわからない」と言っている。ある種イギリスの掌の上であくまでも自分のほうが優秀なビジネスマンであるとマウンティングしたのである。

一方でゼレンスキー大統領を独裁者と呼んだことについては「あれ、そんな事を言ったかな?」ととぼけている。

おそらくトランプ大統領はプーチン大統領と手を組んで世界を支配するのがトクなのか、イギリスでチャールズ3世と対等に話をして見せている自分を見せた方がトクなのかという計算で頭が一杯になっているものと思える。

ただ彼らが考える国王像は実際に天皇や国王を抱える国から見ればかなり薄っペらいものにみえる。

BBCは「地中海のリビエラ=ガザのこと」に立つ金のトランプ像を見て「普通こんなことは風刺の対象でしかないはずなのに」戸惑いを隠せなかった。

通常の感覚ではこれもおそらく蔑視の対象ということになるがトランプ大統領を批判する投稿ではなく「トランプ氏を称えるためにホワイトハウスのスタッフが一生懸命考えた」結果なのである。

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