連日トランプ大統領のメチャクチャな政策について書いている。だが報道をよく読むと背景には「金策」という共通点があることがわかる。トランプ大統領はあくまでも「みんなが喜ぶことをやろうとしているだけ」なのだが、あまりにも視界が狭すぎる。
このトランプ氏のなりふり構わぬ金策ぶりはウクライナとアメリカの協議の補助線としても重要な視点だ。
下院で予算案と債務上限の引き上げが決まった。「一歩前進」と書かれているため別の立法プロセスが必要なようだ。ただしこんな条項がある。Bloombergも合わせると従来の減税を維持するだけの内容で選挙キャンペーン中に主張してきた大規模減税には遠く及ばない。また政府の歳出削減が進まなければ水の泡になる。トランプ大統領に懐疑的な共和党の人たちが入れ込んだのだろう。うまくゆくはずはないと思っている人たちがいるのである。共和党のトランプ懐疑派は形式的にはトランプ氏に賛同して見せたため造反者は1名だけだったそうだ。
法案には2兆ドルの歳出削減が盛り込まれ、目標に達しなければ、減税規模も圧縮される条件も付けられた。規制緩和やエネルギー増産を進めることで経済成長を促進し、税収を増やす方針。
トランプ減税法案、概要可決 670兆円、実現へ前進―米下院(時事通信)
これを念頭に置くとDOGEを使った大胆な連邦職員の首切り・金持ちへの市民権付与(ゴールドカード)、関税などの意図を読み取ることができる。どれも政府の支出を減らし新しい歳入をもたらす提案になっている。有権者の負担を減らし外国に支出させるという内容。この文脈でウクライナのディールも読み取ることができる。アメリカは追加の軍事支出を行わずこれまでの成果だけを享受する。ヨーロッパはトランプ大統領が何を狙っているのかがよくわかっている。狂人理論は「何を考えているのか」がよくわからなくなるためのツールだがトランプ氏の意思は明白であり攻略は難しくない。
なりふり構わぬ歳出カットの影響もでている。ABCは連日「バックラッシュ」と表現している。共和党議員のタウンミーティングには多くの人が押しかけ議員を糾弾しているなどとされる。
労働者の国アメリカ合衆国では真面目に働いてきた人たちが一方的に首を斬られることに対する強い抵抗がある。イーロン・マスク氏は100万人からジョブレポートを受け取ったがこれに目を通すことはできないのだから「誰が応じなかったか」を見るためだけに使うのだろう。
上院の承認と監査の目をかいくぐるために、イーロン・マスク氏はプロセスにアドバイスを送るだけということになっている。代わりに利用するのがDOGEの傘下に入ったアメリカデジタルサービスだ。プロキシー(代理人)の長官代行の名前が明らかになった。
しかしアメリカデジタルサービスは実質的には首切りエージェントということになる。多くの職員が「民間にいればもっと給料がもらえるのに公務員を選んだのはこの仕事にやりがいを感じていたからだ」として21名が辞職の意向。マスク氏に賛同しないという意味合いもあるのだろうが、法的に保護される保証がなく首を斬られた連邦職員に恨まれても仕方ない立場である。これは自分の身を守るためにも正しい判断なのかもしれない。
いうまでもないことだが大胆な歳出削減によって低所得者向けの医療保険は大規模な削減対象となる。福祉予算もバッサリと斬られている。しかし一般のアメリカ人にとってみれば他人の救済より自分の減税なのかもしれない。
しかし関税は庶民の生活を直撃する。すでにレストラン業界からは悲鳴が上がっているそうだ。
また金策のためにゴールドカードを売り出す。オリガルヒも対象になるのかと聞かれトランプ大統領は次のように答えている。プーチン大統領は着実にトランプ大統領の心を掴んでいるようだ。武器は鉱物資源の共同開発だけではないのである。
ロシアのオリガルヒ(新興財閥)に対してカードの販売を検討するかとの問いに、トランプ氏はこう応じた。「可能性はある。私はロシアのオリガルヒの中に、とても良い人たちがいるのを知っている」
トランプ氏、外国人に7.4億円の「ゴールドカード」販売を表明 米国で働く権利(CNN)
ベッセント財務長官はアメリカ合衆国は再民営化の途中であると主張する。
ベッセント氏は元々投資家で金融界とのつながりが深い。アメリカ合衆国の株主(国債投資家)がスリムで効率的な企業統治を求めるのは当然のことだ。ベッセント氏の発言を受けて国債金利が下がっている。いわば「物言う株主」の代表者のような存在である。
このようにトランプ大統領の政策は選挙キャンペーンで約束した減税を実現するためのなりふり構わぬ金策という側面がある。日本人の中にもトランプ大統領を熱烈に支援する人たちがいる。おそらくこのような側面で熱視線を送っているのだろう。先行きに希望を持てない現役世代にとってみれば日本もこれくらいやらなければ変われないということになる。
しかし、結果的にトランプ大統領の政策は庶民を苦しめ、金持ちと企業家に国を売り渡すことになる。お金のある人の投資に期待し無駄な歳出は削減されてしまううえに経済政策が無茶苦茶でインフレに苦しめられることになる。
おそらくトランプ大統領は自分が何をやっているのかよくわかっていないのだろう。彼の「平和」に対する考え方も貧弱なものだ。ガザ地区から貧しいパレスチナ人を追い出すことでリゾート地を開発するという考え方に固執しており、その中心に彼を支える金の銅像が作られるであろうとの予想を示した。
このようにトランプ大統領はお金持ちからみれば非常に利用しやすい人物だ。わかりやすい功名心を刺激すればすぐに行動に移してくれる。