ウクライナのゼレンスキー大統領がホワイトハウスを訪問しレアアースを売り渡す協定署にサインするという報道が出ている。ついに、ゼレンスキー大統領はトランプ大統領の圧力に屈したかと思ったのだがどうも報道の様子が変だ。
ただ、さまざまな報道を組み合わせるときっちりと合理的な絵はできてくる。インテリジェンス専門家でなくてもある程度状況が読み取れる便利な世の中になったなあと思う。
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時事通信の報道を見ると分かる通り、日本ではトランプ大統領がロシア寄りになりヨーロッパとウクライナが慌てているというようなトーンが支配的だ。中には「悲劇のゼレンスキー大統領」と同情を寄せる人も出てくるかもしれない。だが、いろいろな報道を見ると何か変なのだ。
まずトランプ大統領はこれまでアメリカはさんざん支払ってきたのだから負債は返してもらうと言っている。また防衛の主体はヨーロッパになると主張した。記者の質問に答える様子を見ていると内容にはあまり興味がないようだ。これだけをみると無責任な人だなあと感じてしまう。
だがこれでいいのかもしれない。トランプ大統領はいま「あいみつ」待ちなのだ。BBCがあいみつの内容を伝えている。日本ではこのような並列報道は出ていない。
ロシアはアメリカ合衆国に対して新領土(ウクライナ)の共同開発をやらないかと持ちかけている。別のエントリーでまとめるがトランプ大統領とオリガルヒの間の協力関係もできかけているようだ。オリガルヒにも恩恵があるゴールドカードを提供するという話もある。
このままではトランプ大統領が向こう側に行ってしまうという状況。
このためヨーロッパは防衛は自分達がやります、ウクライナはレアアースを差し出しますという協定をまとめた。この協定がほぼ合意されたようだ。アメリカの防衛義務は書かれていないようだ。しかし仮にアメリカ企業が投資した場合、アメリカ政府は企業投資を守る実質的な義務が生じるだろう。
そもそもウクライナの資源はロシアとヨーロッパの文明の衝突の最前線にあり危険な土地である。ウクライナ政府の汚職体質も関係しているのかもしれないがこれまできちんと開発されて来なかった。権利にアクセスするためにはさまざまな利害関係者を巻き込む必要があった。レアアースがあったとしても誰かが投資をしない限り「ないのも同然」だろう。むしろ、プーチ大統領の手に渡ろうとしている。
これを防衛しアメリカを引き込むためにはまずトランプ大統領の言い分を額面通りに聞くのが良いという判断になったようだ。
トランプ大統領は、レアアースの権利を得るだけで追加の軍事支援はしないしウクライナの防衛にも関わらないと言っている。つまり政府としてはこれ以上の支出はないという認識。またゼレンスキー大統領が来ることは知っているといっているが「提案待ち」という状態。
一方でゼレンスキー大統領は安全保障面でのアメリカのコミットメントは十分ではないとした上で、自分達の懸念は払拭されたと言っている。ディールが開いてみるまではわからないがロシアが画策する「親ロシア派」の政権設立のための選挙などを回避したのかもしれない。そのうえでまずヨーロッパと相談すると言っている。
ヨーロッパは防衛の主軸はヨーロッパになりアメリカは見守ってくれるだけで良いといっている。これはイスラエルに対するアメリカの関与と同じような考え方だ。イギリスは防衛費増額を決めてトランプ大統領との首脳会談に臨む。ドイツでは大連立が防衛国債を発行するのではないかという議論が始まった。国家的な危機があり与党だ野党だと言っていられる場合ではなくなっている。
アメリカ合衆国の中にも「あちら側=プーチンサイド」に行きたくないという人がいるようだ。鷹派共和党のルビオ国務長官は「米ロ首脳会談は経済について話し合うがウクライナは議題にしない」としている。トランプ大統領の期待に応えるふりをしつつ安全保障を切り離そうとしている。
トランプ大統領はヨーロッパの軍隊が入ってきてもロシアは反対しないだろうとの「見通し」を示している。おそらくトランプ大統領がプーチン大統領と直接話したわけではなく、側近たちも「いやいや大丈夫ですよ」と言っているのではないだろうか。このままトランプ大統領がカラクリに気がつくことなく協定にサインさえしてくれればいい。ロシアは反発するかもしれないが後の祭りだ。
ウクライナ支援の見返りにレアアース(希土類)などの供与を求めてきたトランプ氏は「とても大きな取引になる」と述べた。ロシアとウクライナの戦争終結後に「平和維持が必要だ」とも強調した。欧州諸国が平和維持部隊をウクライナに派遣する案について、ロシアが同意していないと記者団に指摘されると「私が聞いている話とは違う。ロシアは問題視しないはずだ」と語った。
ウクライナ鉱物開発で合意 安全保障は今後交渉(共同通信)
日本の報道はかわいそうなウクライナがアメリカ合衆国にむしられるというようなトーンだが、おそらくこれは日本のアメリカに対する姿勢を投影しているだけなのではないかと思う。アメリカ合衆国によって運良く高度経済成長を成し遂げたという気持ちがあるがアメリカ合衆国には逆らえない。大統領が変わるたびに日米安保の永続性を確認しながらホッとするという状態が続いている。
日本人の戦略的無策は国民病と言っても良い。
一方でヨーロッパはアメリカ合衆国を利用してロシアとの盾に利用したいという明確な意図ががあるのかもしれない。表面上はアメリカ合衆国を勝者として持ち上げつつ彼らの軍事力を利用しようとしているのである。
会談は28日に行われるそうだがどのような形で収まるのかに注目したい。