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伝統的タカ派とMAGAの解けないパズル ウクライナ和平を巡って

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ロシアとアメリカの間でウクライナ和平交渉がプーチン大統領にとって「おいしい展開」になりつつある。

狂人理論の要諦は敵に自分の意図を悟らせないところにある。しかしトランプ大統領はノーベル平和賞を獲得という明白な意図を持っている。

さらにMAGAと伝統的タカ派の間に抜き差しならない緊張関係が生じていてプロのインテリジェンスでなくてもちょっとした報道を読めば分かる程度の大きさになっている。

これらを利用してスパイ出身のプーチン大統領がトランプ大統領を揺さぶるのは極めて容易だろう。彼にとってトランプ大統領は馴染のあるオリガルヒ(新興富豪)にしかみえないのではないだろうか。

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もともとこの話を調べ始めたきっかけはケロッグ特使だった。ウクライナ担当特使として派遣されたがはずがいつの間にか名前が消えてしまった。時事通信は次のように書いている。ケロッグ氏だけでなくルビオ氏も「邪魔者扱い」になっている。

また、停戦仲介を担うはずだったケロッグ特使(ウクライナ・ロシア担当)の代わりに、腹心のウィトコフ中東担当特使が対ロ交渉チームに起用され、政権内部の力学にも変化が生じている。政治専門紙ポリティコによると、トランプ氏周辺は伝統的な同盟関係を重視する共和党タカ派を邪魔者と見なしており、ケロッグ氏のほか、過去に対ロ強硬路線を示していたルビオ国務長官やウォルツ氏も「ホワイトハウス内で厳しい目にさらされている」という。

トランプ氏、対ロ融和にかじ 停戦仲介へ前のめり―政権内部に混乱も(時事通信)

引用元のポリティコにはさらに詳しい内幕話が展開する。

Given their past lives as Russia hawks, Trump’s own secretary of State, Marco Rubio, and national security adviser, Michael Waltz, are under intense internal scrutiny inside a White House where deputy chief of staff Stephen Miller and Sergio Gor, who oversees personnel decisions, have shown little tolerance for anyone who diverges from the MAGA mindset.

MAGA takes aim at the Republican hawks(Politico)

ケロッグ特使はもともと共和党後外交タカ派だ。キエフ・インディペンデント紙はこの姿勢がロシア側に嫌われたのではないかと見ていおり、代わりにロシア寄りの代表者が入ってくることに強い警戒心を見せている。

ただ、これは少し単純すぎる見方なのではないかと思う。

東ドイツの崩壊を経験し民主主義を憎悪するプーチン大統領の戦略は一貫している。まず自分の周りから忌まわしい民主主義を排除しなければならない。しかしそれだけでは不十分だ。ロシアを東西冷戦当時のソ連のような世界の盟主にしなければならない。

彼はその野望を実現するためにサウジアラビアに接近した。世界の石油を支配する一角にロシアを押し上げたいのだ。今回のトランプ大統領の接近は千載一遇のチャンスである。アメリカ・サウジアラビア・ロシアで世界の石油戦略について話し合う会議体を作りたいとトランプ大統領に働きかけている。トランプ氏を「ドナルド」と呼び「会うのは楽しみだ」と秋波を送る。

プーチン大統領はこの問題をウクライナ問題でなく中東問題にしたい。このためウィトコフ氏にお土産をもたせた。それがアメリカ人囚人の解放である。ウィトコフ氏に交渉をさせて手柄を立てさせた。

ではウィトコフ氏とはどんな人なのだろうか。交渉に長けた生まれ持っての外交官なのか。

実はウィトコフ氏は不動産投資家である。トランプ氏との間にビジネスの関係があり古くからの友人として知られているそうだ。つまり、トランプ氏とウィトコフ氏は同じ業界用語で話をすることができる関係にあるといえる。

プーチン大統領はもともとKGBに努めていたスパイだ。相手を調べ上げて「同じ言葉」で話すなど容易いことである。プロの政治家・軍人・外交官などを排除するだけでなく最も容易にコントロールできる相手を選んで手柄を立てさせる。

ウィトコフ氏は「ロシア市場がアメリカ企業に解放されるかもしれない!」と大当たりの感触を喜び勇んで伝えている。自分は外交官ではないが「やればできるんだ!」と得意満面なのではないか。

トランプ米政権のウィトコフ中東担当特使は23日、ロシア・ウクライナ戦争の和平交渉が成立した場合、米企業がロシアで事業を行う可能性があると述べた。

米企業、ロシア市場に回帰も 和平実現なら=ウィトコフ特使(REUTERS)

ポリティコによれば伝統的共和党タカ派にはかなり強い衝撃が走っているようだ。トランプ大統領はすでにプーチン大統領に大幅な譲歩(give-in)をしてしまっているのだが、トランプ大統領はそれに気がついていないようだ。盛んに「和平は近い」と情報発信している。

トランプ大統領もウィトコフ特使も最終的にはプロの政治家や外交官の助けを借りなければいけない。しかし、トランプ大統領は政治的言語が理解できない。

一方のルビオ国務長官らのプロの政治家や外交官は彼らの言語が理解されないことがわかっていながら撤退もできない。彼らが引いてしまえばプーチン大統領ベースで話が進みヨーロッパとの関係が決定的に悪化することは火を見るより明らかだからである。タカ派が最も恐れるのはアメリカの権威に取り返しがつかない傷がつくことである。

ルビオ国務長官がトランプ大統領寄りの発言をすればするほど彼の政治家としての経歴に傷がつくことになるが、それでも身を引けないところに彼の苦しさがあるように思う。

アメリカの外交交渉はこのように「解けない問題=コナンドラム」を形成している。狂人理論の要諦は敵に自分たちの意図を悟らせないことなのだが、舞台裏の混乱はプロのインテリジェンスでなくてもわかる程度には大きな広がりを見せている。

今のところ、勝者は明らかにプーチン大統領だ。彼のような生まれ持ってのスパイは敵の構造から素早くクラック(ひび割れ)を見抜く。プーチン大統領の狙い通りにひび割れはやがて大きな亀裂を生じさせるだろう。

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