トランプ大統領が領土拡張主義を打ち出したときに「アメリカは長年持っていたドクトリンを放棄した」と書いた。しかし、おそらく誰もそれを真剣に受け止めなかっただろう。
ここに来てほぼすべての国際支援の打ち切りが表明された。今後レビューを行い「仕分け」をするそうだ。
背景を探るとトランプ氏個人の強すぎる承認欲求が浮かび上がる。賞賛に中毒症状を起こしておりもっと強い刺激を求めているのではないかと思う。
トランプ大統領がカリフォルニアとノースカロライナを訪問した。カリフォルニアでは民主党の姿勢を激しく攻撃し市議会・州議会共和党の要求を受け入れなければ支援をしないと仄めかしたようだ。ニューサム州知事が「条件付き援助」に反発する騒ぎが起きている。
ノースカロライナではFEMAの廃止を検討していると言い放った。大統領が直接支援する体制に切り替えたいようだ。人々は行政府ではなく大統領に感謝するようになると同時に敵対する民主党地域に対する強い懲罰になる。ただしFEMAの廃止には議会の協力が必要だ。
またファウチ博士とボルトン氏の警護を打ち切るではないかとの報道もでている。専門家や側近は自分の願望を叶えてくれる装置であると考える一方で「意見をする存在」を疎ましく感じる傾向があるようだ。2人共トランプ氏と意見を対立させている。興味がなくなった対象に対するトランプ氏の姿勢は極めて冷淡だ。ふたりとも大儲けしたであろうから自分で警護費用を賄えばいいと言っている。「どう大儲けしたのか」の根拠を示すことはなかった。
世界を自分に従う・役に立つものとそうでないものに仕分けしている事がよく分かる。と同時に、ファウチ・ボルトン氏の事例からわかるように自分を「しつけよう」とする存在には強い嫌悪感を示す。就任公式行事で大聖堂を訪れた際に「慈悲の心を持つように」と説教され謝罪を要求している。
ここに来て国際援助を停止し90日間かけてレビューするということになった。「アメリカの国益を考えている」と思いたい人もいるだろうが、災害対策を見る限りトランプ大統領はアメリカの国益には興味がないと考えてよいだろう。連邦のお金を使うのだからそれはあくまでもトランプ氏の慈悲深さを示す「一貫した」ものでなければならない。
この通達は、ドナルド・トランプ大統領が20日に、対外開発援助の効率性と外交政策との一貫性評価を行うため、90日間の援助停止を命じる大統領令に署名したことを受けてのもの。
米国務省、ほぼすべての対外支援事業の停止を指示 開発・軍事援助などに影響か(BBC)
トランプ氏の生育歴を見るとトランプ氏が父親に対する怯えと強い承認欲求を持っていたことがわかる。と同時に兄の存在を通じて極度の潔癖さも身につけるようになった。
父親にも母親にも普通の愛情を与えら得なかったトランプ氏の承認欲求は事業欲に転嫁されるが社会と衝突するようになる。この危機を乗り越えるために協力したのが弁護士ロイ・コーン(Roy Marcus Cohn)だった。「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」という映画で有名になったが要するに「負けを認めたらその時点で負けだ」と指導している。
外部からの抑圧を嫌うが内的にも決して満たされることがないという彼の特殊な環境が「無制限の承認欲求を求める」という暴走につながっている。だがおそらく注目すべきなのはこの承認欲求の暴走がアメリカの大衆の願望に支えられているという点だろう。自分たちの欲望のままに国家をコントロールして何が悪いと考える大衆がトランプ氏を支援している。
トランプ大統領が大統領令の極限に挑戦する姿勢は専門家からは疑問視されている。それでも専門家はアメリカのシステムを信頼できなくなっている。強い大衆の支持がある上に矢継ぎ早に命令を出しているからだ。SNSでフェイクニュースが蔓延すると人々は考える力を失ってゆく。同じように様々な命令が情報飽和を起こすことでアメリカのシステムが合理的な判断能力を奪われてゆくかもしれないと恐れる人は多い。
ABCはすべての連邦職員に自分の声を届けるテキストメッセージを作ろうしていると書いている。SNSでフォロワーを増やしたいと考える人は多いが国家権力を使ってそれを実現しようとしているのだ。連邦職員にトランプ氏からの電子メールが突然送られてきたそうである。
トランプ大統領は「差別される対象」を作ることで民意に支配者意識を与えることにした。移民は犯罪者であるとの風評をばらまき実際に犯罪を犯したとされる500人を軍用機でグアテマラに追放したとされている。日本では考えられないことだが手錠につながれた人々の姿はニュース番組でも報道された。普通のアメリカ人はそこに「正義の執行」を見るだろう。ボーダー・ツアーリの異名を持つトム・ホーマン氏はABCのインタビューに対して「これは始まりに過ぎない」と誇らしげに主張した。
また暴力にはいい暴力と悪い暴力があるとのメッセージも流している。BBCが議会襲撃犯の釈放に触れ「政治と法律の境目が曖昧になりつつある」と伝えている。議会襲撃犯たちはトランプ大統領を守ろうとしたのだからそれは「良い暴力」ということになる。
BBCの短い映像は極めて興味深い。議会襲撃犯たちは何者かが司法と法律を武器化して自分たちを攻撃しているのだから自分たちも自衛をしなければならないと主張している。つまり当事者たち自分たちを破壊者とは考えない。むしろ変わり果てたアメリカから自分たちを守らなければならないという自己認識を持っているのだ。
もちろん共和党の議員たちの中にも「内心これはおかしいのではないか」と考える人はいるようだ。しかし強い大衆の批判を恐れ大きな声を挙げることは出来ない。
アメリカ合衆国の大統領制は極めて特殊である。行政府に首相をおかず大統領が直接統治をするが議会の強い制限がかかっている。議会は行政府に代表を送り込まない。この状態で議会が沈黙すると結果的に強い大統領制が誕生する。一方で「強すぎる大統領制」は世界的に見ればそれほど特殊なものではない。
軍政下の韓国は強い大統領制を持っていた。今でも大統領に権力が集中するためほとんどの大統領が在職後に逮捕されてきた。文在寅大統領は検察を弱体化させることでこの危機を乗り切ったが現職の尹錫悦大統領は内乱罪で起訴されている。強すぎる大統領選挙には歯止めがない。
ロシアのプーチン大統領も強すぎる大統領だ。しかしプーチン大統領はロシアの複雑な権力構造に推戴された皇帝のような役割を果たしているだけとも言える。プーチン大統領は平和的に退任することは許されないだろう。弱い国であれば大統領が国外逃亡して終わりになることもあるがプーチン大統領を匿い切れるような強い国があるかは疑問だ。強すぎる大統領は死ぬまで地位に留まるしかないがその終わりが自然死である保証はない。
このように強すぎる大統領制は「大統領の椅子を維持し続けるか」あるいは「奈落の底に突き落とされるか」という厳しい命をかけた厳しい選択肢を支配者に与えることになるだろう。
だが、こうした強すぎる大統領は世界的に見ればそれほど珍しいものではない。その意味ではアメリカ合衆国もありふれた国になろうとしているのかもしれない。
Comments
“アメリカ合衆国がすべての国際支援を90日間停止 パックス・アメリカーナの終わり” への2件のフィードバック
今までのアメリカの価値観を全否定し続けてますよね、あの人達。まああの人達に
とっては左派やリベラルが掲げる価値観の多様化は自分達のアイデンティティーを
脅かす脅威にしか思えないんでしょう。そんな人達からしたらトランプ大統領は
待ちに待った自分達を全肯定してくれる救世主になるのも当然なんだろうなあ…。
以前イーロン・マスクについてあの人は芯があるのが気になると答えて頂きましたが、
同様に芯があるだろうと思われる層はキリスト教原理主義者やマッチョイムズを
前面に掲げてる様な人達にも見られる気がします。あとその辺深く結びついてる所も
結構あるんではと言う印象もあります(KKKがキリスト教原理主義と結びついてたりとかもあるので)。
Quoraでそう言う層が十字軍の様な行動を起こすのではと懸念の声がありましたが
あの人達ならトランプ大統領の後ろ盾を得てやりだす気はします。最悪キリスト教版
タリバンと化しかねないでしょう。
トランプ関税でモノの値段がわかりやすく上がりそうです。そうなれば「なんか違うなあ」と考える支持者が増えてくるのではないかと思うのですが、どうなりますかね。