先日は朝から「開戦から15ヶ月でようやく停戦合意だ」という報道が溢れていた。だが、昨日は記事にしなかった。合意はないのではないかと感じたからだ。しばらく様子を見ていたのだが「第一ステップは実施されるだろうが第二・第三のステップが実施されるかはわからない」という論調が多かった。この時点では「さすがに悲観しすぎたかな」と感じた。
しかし結果的に第一ステップすら実施されない可能性がある。停戦合意の後に新しい攻撃が行われCNNは45人が亡くなったと伝えている。共同通信はアルジャジーラの報道を引用し70人が亡くなったと伝える。さらに、ネタニヤフ首相は内閣の承認手続きを行っていない。
和平合意案が発表され現地はホッとした雰囲気に包まれていたとCNNもBBCほか多くのメディアが伝えていた。しかしABCとニュースの記者は「悪魔は細部に宿る」として第二・第三プロセスの実施を危ぶんでいた。またBBCも同じ姿勢だった。第一段階(42日)のあとにイスラエルが戦闘を再開する可能性があると伝えていた。
アメリカやイギリスのメディアが「第一段階は実施されるだろう」と見ていたのはおそらくバイデン政権が大々的に合意を発表しカタール政府もこれを裏付ける発表をしていたからだろう。これが裏切られればアメリカのメンツは丸つぶれなのだからさすがに何らかの確約があるだろうと考えても当然である。
バイデン政権の発表は裏切られるのではないかと感じた理由は2つあった。
1つ目がバイデン大統領の性格だ。成果を強調するあまり見切り発車をして状況を混乱させる傾向がある。その典型事例がアフガニスタンからの撤退だった。
現在バイデン大統領は大統領令を乱発しさまざまな決定をしている。実施はすべてトランプ政権に先送りになる。おそらく様々な分野で状況は混乱するだろうが「すべてトランプのせい」ということになるだろう。だがイスラエルの件はあまりにも破綻が早すぎた。
次の理由はイスラエル戦時内閣の反発だ。The Time of Israel(英語)が伝えていたが、REUTERSの日本語版が同じことを書いている。戦時内閣は彼らの撤退により崩壊するためそもそもネタニヤフ首相に停戦合意という選択肢はなかった。
ネタニヤフ政権の強硬派は、閣僚の過半数が支持すると見込まれている停戦合意を阻止しようとしている。スモトリッチ財務相はハマスが敗北するまで戦争を全面的に再開する場合にのみ、自らの党は政権にとどまると述べた。極右のベングビール警察相も、停戦合意が承認されれば政権から退くと警告している。
ガザ停戦合意、ハマスが一部の項目に違反 イスラエル首相が非難(REUTERS)
イスラエル報道に携わる人たちは当然これを知っていたはずだ。それでも「進展」に希望を抱きたかったのだろう。人質解放の先行きが見えない中の過度な楽観論を一方的に非難するつもりにはなれない。
バイデン大統領はお別れ演説を行いトランプ次期政権を念頭に今後4年間のアメリカはひどい状態になるだろうと予言してみせた。おそらくこれはある程度「当たる」予言だろうが、聞きようによっては自分を選ばなかった国民が悪いという批判にも聞こえる。一方で自分たちの偽善やダブルスタンダードが民主党離れにつながったという反省はないようだ。
そしてそれに合わせて「ガザの和平合意は自分たちのチームが成し遂げた」と強調したい思惑があった。ガザ地区の人達はこの「予定ありき」のバイデン政権に振り回されることになった。
ネタニヤフ首相はおそらく和平案を承認することはないだろう。承認手続きは行っていない。ただいつものように「自分たちには和平案を受け入れる用意があるが相手に誠意がない」と言い続けている。
首相府は16日、ハマス側の要求は「土壇場での譲歩を引き出すためのもの」と指摘。ハマスが合意内容を全て受け入れたことを仲介者が確認するまで、イスラエル内閣は停戦合意の承認に向けた招集は行わない意向だという。
イスラエルが非難、ガザ停戦合意にハマスが新たな要求-実現にリスク(Bloomberg)
それでもバイデン政権に何らかの打ち手があり土壇場で合意が結ばれることを願わずにいられない。合意の期日は19日(トランプ政権誕生の前夜)だそうだ。それまでに何らかの進展があり最終的に停戦が合意されることを祈りたい。
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