真壁昭夫さんが「理由を知ってゾッとした…中国で異例の「最新iPhone値下げ」が始まったワケ」という記事を書いている。正直、真壁さんが何にゾッとしたのかはわからないのだが行き詰る中国の消費市場の現状がわかる。
だがそのおかしな対応からもう一つ奇妙なことが見えてくる。それが「資本主義の病」だ。これを内側の議論から意識することは難しい。
真壁さんの記事は地価バブルが弾けた中国では消費が低迷している。これを払拭しようと中国政府は極端な財政拡大策を実施している。国債を原資に補助金を出し、EV・家電・スマホ・タブレット端末・スマートウォッチを買わせようとしているという。
真壁さんはトランプ次期大統領が半導体やAIの規制を行う前に中国の市場を成長させようと政府が躍起になっているのではないかと見ているようだ。
我々が持っている資本主義の常識によると「消費の拡大」は経済成長の結果であって国債(国民の借金)を使って無理矢理に成し遂げようとするものではない。その意味では「中国政府のやり方はまるでデタラメで何もわかっちゃいない」と言う気がする。
実際にはさらにメチャクチャなことが行われている。株価が上がらずに国債価格が上がっているそうだ。国債に人気が高まっているため金利は下落傾向にあるのだという。金利が下がれば企業活動が活発になり消費が後押しされるはずだが中国政府が無理矢理に後押ししないと消費が拡大しない。
近年のドル高基調もあり人民元は下落傾向にある。
中国政府は通貨防衛に躍起になっている。例えて言えば「防波堤を高くして治水を行う」のに似ている。つまり防波堤が決壊すれば大惨事が起きるだろう。本来制御できない「市場」を国家が制御できるし「しなければならない」と考える中国経済が潜在的に抱える不安定さが浮き彫りになる。
- コラム:人民元安はどこまで進むか、内憂外患の中国と第二次トランプ政権=植野大作氏(REUTERS)
- 上海外為市場=元は16カ月ぶり安値圏、許容変動幅の下限に迫る(REUTERS)
- 中国が通貨防衛強化、元相場管理の手綱緩めず-資本流出を警戒(Bloomberg)
- 中国の人民元安定化策、逆回転のリスク-ボラティリティー急拡大も(Bloomberg)
日本人には潜在的な中国蔑視感情があり「中国の資本主義など所詮偽物」と考えたい傾向がある。しかし真壁昭夫さんのコラムにはところどころ面白い事が書かれている。
中国ではこのところ「高級な製品ではなく必要十分な商品が売れる」傾向が高まっているという。iPhoneが売れなくなりApple社が値引き販売を始めたのはそのためだ。真壁さんはこれを「バブル崩壊」と結びつけている。
だが改めて考えてみると日本人にも同じ傾向が見られた。
高度経済成長期とバブル期にはイタリアブランドのスーツが飛ぶように売れていた。しかしこれらのスーツは今のスタンダードで考えるとぶかぶかなものが多かった。そもそも体格が良いヨーロッパ人に合わせて作られているという事情もあっただろう。
こうしたブランドスーツが売れなくなり登場したのがユニクロだった。ユニバレ(ユニクロであることがバレる)という用語が象徴するようにユニクロの商品を着るのは恥ずかしいことだった。だが、デフレマインドが定着するにつれて「ユニクロを着ることは合理性の証である」とする風潮が広まっていった。
つまり消費者が成熟し賢くなったからこそ「消費離れ」が起きているということだ。自分を表現するためにイタリアブランドの力を借りる必要はない。むしろフィットした体を作り「身の丈と体のサイズに合う洋服」が求められるようになったのだ。
iPhoneが売れ続けるのはApple社がOSを入れ替えて旧製品を陳腐化しているからである。これを計画的陳腐化という。計画的陳腐化のためには消費者は常に「新機能漬け」「便利漬け」にされていなければならない。そして「計画的陳腐化」や「ブランドに対する過度な憧れ」を正当化するためには常に賃金が上がり続ける「成長」が必要だ。
このように考えてみると実は経済成長というものが一種の国家的洗脳であるということがわかる。日本政府は消費者の成熟を「デフレマインド」と言っているが果たしてこれが「不健全な状態である」かには議論の余地があるだろう。
そう考えると、そもそも資本主義は洗脳であると「正しく」理解した中国政府と「よく考えてみればそんなに新しい製品はいらないよね」と「正しく」理解しつつある消費者によるせめぎあいだと捉えることもできるのだろう。
我々の考える「常識」にはあらかじめ見えない思考の枠がはめられており外の常識を通してでないと見えないものもあるのだろうと気付かされる。
コメントを残す