自民党の石破茂氏と公明党の斉藤鉄夫氏からそれぞれ「大連立」という発言が出てきた。特に斉藤鉄夫氏の「大連立発言」はかなりズレた発言であり怒るというより呆れてしまう。逆にどんな人なのかと興味が湧いた。
斉藤鉄夫氏の発言は「大連立を妨げているのは現在の選挙制度である」というものだったそうだ。斉藤鉄夫氏がどのような選挙制度を想定しているのかはわからない。
確かに国会議員の利権を維持するためには最初に「結託」したうえで競争しないようにするのが都合がいい。選挙を無効化したあとは政党内部で利権配分のための話し合いができるからだ。ただし現在の政治情勢では政党外からの参加者が出てくることが想定されるため(立花孝志氏のように政党要件を獲得するまで成長してしまう可能性もある)政党以外は立候補できないように選挙制度を既得権有利に変えるということも考えられる。
つまり、斉藤鉄夫氏の発言は「利権配分のためには選挙は邪魔だよね」と言っている。おそらく無自覚だろう。
いったいどんな人なんだろと思った。広島修道高校から東京工業大学に進学した工学博士だそうだ。創価学会の入信は高校二年生のとき。おそらく「理系のいい人」なのだろう。少なくともルックスはそんな感じだ。
おそらく政治闘争とも無縁の人だ。
斉藤鉄夫氏はもともとは比例議員だったが河井克行・河井案里の事件で自民党広島県連が混乱する。溝手顕正氏の地盤を河井克行氏がお金で崩そうとしたとう事件だった。この隙に広島3区を奪取した。
公明党は山口那津男代表から石井啓一代表への世代交代が行われる予定だった。しかしながら石井啓一代表が小選挙区で負けてしまったために後任がいなくなる。そこで抜擢されたのが「安定感のある」斉藤鉄夫氏だった。山口那津男氏と同じ1952年生で現在72歳だそうだ。
石破茂総理大臣も盛んに「大連立」について聞かれているようで「可能性としては排除しない」としている。しかしその発言は最低限政治家としての理性を保ったものだった。
日本は一度「大連立」を経験している。それが大政翼賛会である。政党同士の足の引っ張り合いに終止する当時の政党は問題解決ができなくなっていた。誰もが不毛だとわかっていてもそれを止められないというのは日本の病理のようなものである。
一方で軍部は状況打開のために大陸に進出する。この過程で政治家を恫喝するようになっており総理大臣の暗殺なども経験している。軍部は大陸進出で目覚ましい成果を挙げており国民も次第に軍に期待するようになっていった。
自分たちで闘争を止められないという事情もあり「足の引っ張り合いをするよりもそろって軍を礼賛したほうが議席確保には有効だ」と言うことになっていったのだろう。すべての政党は「大政翼賛会」に組込まれることとなった。
石破総理の発言は最低限この歴史を踏まえたものになっており「政治家としての最後の理性は残されているのだな」と感じる。
首相は「何のためにというのがない大連立は、一歩間違うと大政翼賛会になってしまう。そこは気を付けないといけない」とも語った。
石破首相「大連立も選択肢」(時事通信)
ただ当時の状況と戦争前夜の状況は極めて似ている。議会は問題解決のためのアイディアを提示できなくなっておりなおかつ政党間の競争も泥沼化している。斉藤鉄夫氏の無邪気な「分析」は政治家にとっては最適のソリューションであり有権者にとっては最悪の選択肢だ。