岩屋毅外務大臣が中国に急接近している。我々のような一般国民は「なんでそんなことになっているのだろう」と首を傾げるばかりだが、中には中国企業との関係を指摘する人もいる。
アメリカ合衆国で中国企業絡みのある調査が始まっており岩屋氏はその関係者であると指摘されている。これが必ずしも汚職事件につながるとは(個人的には)思わないが、背景を掘り下げてゆくとかなり雑な自民党の「経済振興策」が見えてくる。
これまでふわっと「石破政権は経済浮揚のために中国の富裕層に期待しているのだろう」と書いてきた。ただし、自称保守と呼ばれる人たちに騒ぎに乗られると面倒なので人払いも行った。おそらくヘッドラインだけに反応する単純な人はいなくなっただろうと想定して以下の論に進むことにする。
アメリカ司法省が「Former CEO Indicted for Role in Bribing Japanese Officials and BIT Mining Ltd. Resolves Foreign Bribery Investigation」という記事を出している。BIT MiningのCEOが日本の政府高官に賄賂を渡していた事件について捜査していると書かれている。CEOを起訴(indict)するために日本の高官に対する働きかけを利用したという内容。おそらく本丸は日本の不正を暴くことではないのだろうがきっかけに利用されたことになる。
これが日本に波紋を広げた。
読売新聞は次のように書いている。Bit MiningのCEOは岩屋さんにもお金を渡したと言っているが日本の検察は(おそらく)政権と対峙するのを恐れて秋元司内閣府担当副大臣の捜査だけを行い捜査を終結させた。なお立憲民主党は岩屋氏に直接問いただしており岩屋氏は疑惑を否定している。
同事件を巡っては、同社側が、秋元被告のほか、IRを推進する超党派の議員連盟で当時幹部を務めていた岩屋毅外相(67)ら5議員側に100万円ずつを提供したと供述していたことが分かっている。
日本の国会議員にIR事業で賄賂か、米司法省が中国企業元CEOを起訴(読売新聞)
アメリカ合衆国は外国人からの賄賂に厳しい国でお金が渡っただけでもかなり大問題になる。一部で「岩屋さんはアメリカに入国できないのではないか」と囁かれるのはそれを踏まえてのことだ。一方、日本は「実際に便宜が図られたことが証明できない限りは贈収賄が成立しない」と考える傾向が強い。また検察の態度も政府には遠慮がちだ。
もともとこの会社は500ドットコムという会社だった。500ドットコムは大阪のIRに関心を持っており本国中国の常識に従って「政治家に付け届け」をしたようだ。
ただ、結果的に500ドットコムは大阪でIR業者に選定されることはなかったようだ。「具体的な見返り」はないことになり贈収賄を証明するのは難しそうだ。
このときに残った会社はアメリカのMGMとサンズなど5社だった。サンズは「大阪では魅力がない」として大阪から撤退し、関東のIR事業への参入を目指す。コロナ禍と中国の経済状況の変化から中国の富裕層が見込めなくなるとMGMは事業の将来性を疑問視するようになり解除権をなかなか手放さなかった。最終的にオリックスとの合弁会社が解除権を放棄したがMGMがどの程度コミットしているかはわかっていない。
大阪のIRと横浜のIRはそれぞれ菅義偉元総理大臣が関わっているが次第に政治的な「お荷物」になってゆく。
大阪は維新が夢洲付近の開発を推進しており松井一郎氏と菅義偉氏の「個人的なパイプ」が大いに役立ったとされている。大阪側はインフラ整備で多額の資金を国から引き出すことに成功している。このために利用されたのが大阪・関西万博だった。しかし準備計画の杜撰さから費用が膨らみ続け維新の支持率低下につながった。結局、大阪維新の党勢拡大のために多額の国費が浪費されることになりそうだ。
横浜はもっとややこしい事態になった。菅義偉氏は熱心にIR誘致を進めたが、地元の有力者らががIR誘致に反対した。そこで菅義偉氏は小此木八郎氏を頼る。しかし板挟みになった小此木八郎氏は出馬直前で「まとめきれない」と考え、土壇場でIR反対を打ち出した。菅義偉氏は小此木八郎氏を応援したものの落選。新しく選ばれた市長はIRの撤回を打ち出し公募した会社も撤退した。しかしこのときにはすでにサンズの名前はなかった。
この一連のドタバタから大阪維新や自民党が昭和型の古びた観光振興策から抜け出せていないということがわかる。何らかのブームに乗って「箱物」を建設すれば地元が一気に潤うというかつての成功モデルである。しかしながら日本の計画は時間がかかりすぎる上に細部が詰められておらずどこか「雑」な印象がある。確かに一時は中国の富裕層が支えるカジノブームというものもあったのだろうがその勢いは決して長くは続かなかった。
更にこのときに「お小遣い欲しさ」の政治家が利権に群がる。秋元司氏がその一例だ。だが日本の検察当局はそれ以外の人たちの捜査はせずに捜査を終了している。「細かいものまでいちいち検挙していたら日本から政治家がいなくなってしまう」と考えているのかもしれない。今回はアメリカで調査が行われることになり日本の納税者・有権者はアメリカの資料から何が起きていたかを知ることになるだろう。ロッキード事件のときにも見られた構図だ。昭和のメディアにはまだ反骨精神がありアメリカの調査の進展が伝えられていた。だが、令和のマスコミにはそこまでの覚悟はないのかもしれない。
なお、岩屋毅氏は2024年1月に「自民党観光振興議員連盟」の会長に就任したばかり。その最高顧問として迎え入れられたのが菅義偉氏だ。地元にカジノでも持ってくればきっと一気に潤うだろうという雑な「観光振興策」しかも知恵ない人たちが自民党の観光行政に大きな影響力をもっている。
こうした雑な経済浮揚策しかもちえない政党と政治家が日本国の経済全体を浮揚させられるとはとても思えない。
地方の観光業新興の期待を受ける岩屋氏が中国の企業とどのような関係を持っているのかはわからない。このため巷に出回っている一種陰謀論めいた噂を(少なくとも今の時点では)採用するつもりにはなれない。
しかしながら、岩屋氏が「中国から富裕層がくれば今ある問題は一気に解決するだろう」と軽く考えている可能性は低くないのではないかと思う。しかしこのような雑な政策ではオーバーツーリズムなどの弊害は解決できないだろう。
また中国側もおそらくは岩屋氏の意図を見抜いており引き換えに自分たちの要求を通そうとしている。つまり石破総理は岩屋氏を外務大臣にすることによって中国側に「間違った」メッセージを送っている可能性が高い。
さらにこのメッセージがアメリカ合衆国(特にトランプ次期政権)にどのように受け取られるかも未知数だ。
自称保守と呼ばれる人たちはおそらくこうした分析をすることなく単にXで群がってワイワイと騒ぐのみだ。自民党の戦略性のなさは目に余るがおそらくそれは「あの手の人達」に支えられた政党だからだろう。