ドイツ東部でクリスマスマーケットを襲撃した容疑者の素顔が次第に明らかになりつつある。サウジアラビア出身の精神科医でサウジアラビア政府とイスラム教に敵対的だった。ドイツがイスラム化しつつあると懸念する一方で政治難民の受け入れには不満を持っていた。
この容疑者の恐ろしいところは容疑者の確信犯的な姿勢である。自身の「イスラム的外見」を利用してテロの脅威を世間に誇示したうえで反移民政策を取っているAfDへの支持を増やそうとした可能性がある。大義を成し遂げるためには自分が犠牲になっても構わないという「殉教精神」を見て取ることも可能だが結果的に5人の罪もない人たちが巻き込まれている。
ドイツは経済が低迷し中間層の没落が始まっている。この反感が非ヨーロッパ系の移民への風当たりにつながっており総選挙では極右AfDが躍進する可能性があるという。総選挙は2月に予定されている。
アル・アブドルモーセン容疑者については連日BBCが詳しい報道を出しており日本語で読むことができる。親イスラム系のテロではなく反イスラムの主張を持つ人のテロだったことから「一体何が起きたのか」を知りたがる人が多いのであろう。
また警備体制の不備とサウジアラビアからの警告が無視されたことも話題になっているようだ。ドイツ側から見れば「人権救済」だがサウジアラビア側から見れば単なる拉致事件ということになってしまうという複雑さもある。
- ドイツ・クリスマスマーケット襲撃容疑者、5年前に自身の活動をBBCに語る(BBC)
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アメリカではこの手の容疑者は簡単に射殺されてしまう事があるがドイツは「捕まえたうえで動機を知りたい」と考えるようである。自殺を防ぐために常時監視されると同時に「紙の衣服=首をつったりする材料に出来ない」などを着させられているなどと書いている報道があった。
今回の事件はただでさえ複雑化しているドイツの政治を一層混乱させることになるかもしれない。容疑者は自らのイスラム的外見を利用して確信犯的に事件を起こした可能性がある。反移民感情が強まればAfDが躍進しドイツのイスラム化が阻止できると考えて犯行を行ったのであれば自らを殉教者と位置づけたことになる。犠牲を厭わない自己陶酔的な動機に過ぎずとても賛同する気になれない。
ドイツ人がAfDを支援する理由はかなり複雑なようだ。研究のためにドイツに移住した斎藤幸平氏がインタビューに答えている。ドイツでは交通インフラなどが壊滅的なだけ氣を受けているそうだ。メルケル首相が国内投資に抑制的だったことが理由だと記事では分析されている。西部でも政府に対する不満は高まっているが東部は若者の人口流出が止まらないそうだ。
日本でも「他人の人権を重視することで結果的に自分たちの暮らしを良くしてゆこう」というリベラルは支持を失っているが、ドイツでも同じように緑の党は凋落しつつあるそうだ。代わりにAfDのような「ドイツ第一主義」政党が躍進している。このときに問題を誇張すための嘘も飛び交っている状況だと斎藤幸平氏は説明している。
ドイツの政治の不安定化の背景にあるのが通商・交易条件の悪化である。エネルギー価格の高騰や自動車産業の変化(駆動系が内燃から電気に変わりつつある)など複雑な要因が絡み合い、ついにはフォルクスワーゲンの工場がドイツから流出しかねないという状況になっている。
ドイツの状況は同じ製造業大国だった日本に重なるところがあるが、移民を受け入れている多民族国家でありEUの規制により財政拡大が難しいという違いがありより過激化しやすい状況に置かれている。
ただしそれでも日本とドイツの状況は似通っていると言える。日本の政治を理解するうえでは補助線的に使えるかもしれない。