ざっくり解説 時々深掘り

安倍政権と認知的不協和

面白いことが起きている。南スーダンに武器を入れないようにしようというアメリカが出した決議を関係国が拒否した。日本は中国やロシアとともに棄権に回り欧米と対立する。アメリカはこれを非難する声明を出した。
なぜこれが面白いのか。
これまで多くの人が日本はアメリカに追従していると思ってきた。憲法問題は例外だったがこれを一貫して説明できる法則はなく「良いアメリカ」と「悪いアメリカ」を分離して理解してきた。GHQは共産主義者に支配されていた悪いアメリカなので憲法には従わなくて良いという理屈だ。ネトウヨは共産主義者に支配されていたGHQは日教組に受け継がれ中国と結託して日本を売り渡そうとしていると考えている。
だが国連でアメリカと日本が対立するということが頻発するようになるとネトウヨの世界観は崩壊するだろう。彼らは保守を偽装しているが実際には体制におもねることで安心感を得たいだけの人たちなので「アメリカに嫌われるかもしれない」という可能性は彼らを逡巡させるだろう。
一般の人たちはもっと違った見方をしているかもしれない。「アメリカはいろいろうるさいことも言ってくるが、とにかくついて行けば大丈夫」という感覚だ。経済というのは株価によって表されると考えているので、株価さえ維持できれば文句は言わないだろう。だが経済政策がおりあわなくなれば動揺するのではないだろうか。
もちろんこれは仮説にしか過ぎないが「犬のように親米的な安倍政権」というのは安倍政権が支持され続ける原因になっているのではないかと思う。これに株価を合成したのが「安倍首相の成果」なのだ。
安倍政権がロシアと接近することでこの図式が崩れかかっている。「当然アメリカとは話がついているのだろう」という観測を流す人達がいたが、彼らが持っている潜在的な不安がよく表れている。もっとも安倍政権がロシアを手玉にとれるほどの狡猾さを持っているなら、あまり心配はないのだが、もともとがお坊ちゃん育ちで、家から与えられたものを周りの人たちに配ることによってしか権力を維持できないという首相にそのような芸当ができるはずはない。
安倍政権がどうして武器禁輸に賛成しなかったのかはわからない。いつかの仮説が考えられる。中国がアフリカに進展している。資金協力を申し入れてプロジェクトを獲得したあと、中国人を大量に送り込んでインフラ利権と仕事を確保するのだ。日本は形式上は自由主義経済なのでこうした国家ぐるみのことはやりにくいのだが、南スーダンは状況が違った。インフラ整備を軍隊が行っているからである。このため安倍政権は、利権の確保を狙って南スーダン政府に食い込もうとした可能性がある。
もしオバマ大統領が「日本はこの件に賛成するように」と釘をさしていれば話は違ったかもしれない。「ボスにさえ気に入られていればいいのだ」と考えているとすれば、安倍政権の外交方針は今後大きく展開するだろう。だが外側から見るといろいろと一貫しないところが出てくるわけで、気が狂ったように見えるだろう。
一連の観測が正しければ日本がアメリカに協力したのは単に中国を牽制する目的があったからだということになる。これを展開して行くとアメリカと協力したのは単にアメリカの威光に利用価値があったからだという結論に行きつつ。オバマ政権には理想主義的な傾向がありこれが中国を牽制するのに利用可能だった。トランプ政権はアメリカ第一主義なので、安倍政権は威光が利用できない。すると日本政府はアメリカに追従しなくなるだろう。
国際関係を研究する人の中には、トランプ政権が生まれることで安倍政権は自由に動けるようになると言っている人がいる。だが、日本の有権者がこれに不安を覚えれば内閣の支持率は低下するだろう。
また中核の支持者層であるネトウヨの人たちは強い日本という幻想にすがって生きている。背景にあるのは世界で一番強い国の一番の友達である俺たちはすごいという幻想なので、アメリカからの離脱によって著しい認知的不協和が生まれるのではないだろうか。
ただし、これが直ちに安倍政権の支持率の低下に結びつかない可能性はある。トランプ大統領はよくわからずに中国を刺激している。うまく利用できれば今後も中国に対抗することは可能だが、対立に抑制的だったオバマ政権とは違って抑止的なメカニズムがなくなる。中国が経済圏から切り離されると日本は経済成長することになり、引き続き安倍政権は支持され続けることになる。実はこれが最悪の可能性だと言える。ブロック経済化が進んでいるということになる。これは第二次世界大戦の日本と同じ状況に中国が追い込まれるということなのだ。


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