シリアにHTSを主軸とする暫定政権が発足した。ジャウラニ指導者が大統領格でイドリブ県で行政経験があるバシルという人物を暫定首相に任命している。
西側各国はテロ組織に指定していたHTSに警戒心を示しつつ敵視もしないと言う姿勢。周辺各国も新政権へのアプローチを開始した。
トルコの国境は解放され国内にいる300万人の難民帰郷が始まった。ヨーロッパはシリアからの難民の受け入れを停止した。レバノンは逆に体制派が国内に流れ込む可能性を警戒していて国境管理を厳しくしている。
イスラエルはゴラン高原の「恒久領土化」を決定している。アメリカがこれを支援すれば周辺各国との関係に深刻な亀裂が生じかねない。
反政府勢力がシリアを開放してから数日が経ち、早くも暫定政権づくりがスタートした。イドリブ県で行政経験があるバシル氏が暫定首相に指名されている。命じたのはHTSの指導者のジャウラニ氏だ。
欧米はHTSをテロ組織に指定しているため一定の警戒感がある。しかし今はとりあえず敵視はせず距離を保ったままの状態である。ロシアとアメリカはシリアに基地権益がある。ロシアはアフリカへの足がかりとしてシリアにある海軍基地を利用しており、アメリカはIS掃討のためという理由でシリアの南部に拠点を持っている。周辺各国も慌ててHTSとの関係づくりを始めた。
バイデン政権は適当な距離を保ちつつIS掃討のためにシリアにとどまりたい考えだが、トランプ次期大統領の態度がよくわかっていない。現在は「シリア情勢にあまり興味がないのではないか」という見方が一般的。
ただし、国家情報長官候補のギャバード氏は過去にアサド大統領と面談し「アサド大統領は脅威にはならない」と発言した過去がある。特に化学兵器使用が嘘だったのではないかとの発言が問題視されている。
共和党にはバイデン政権を「戦争狂」と位置づけたい人が多い。このため民主党政権が指摘する問題について全否認する陰謀論を信奉する人が多い状況だ。ギャバード氏もおそらくその一人なのだろう。
ギャバード氏は2017年にシリアを訪問した後、アサド大統領が自国民に化学兵器を使用したとする米情報当局の判断に疑問を呈するようになった。
ギャバード氏の資質、共和党からも疑問の声-国家情報長官に指名(Bloomberg)
日本にとって重要なのはギャバード氏の「陰謀論的ポジション」は日米同盟にも及んでいるという点だろう。日本は丁寧な説明を通じて日米同盟の維持を働きかけたい。しかし共和党の一部にとっては「民主党の否定」が最優先課題であり日本の説明などどうでもいいことなのだ。つまり外交よりも内政のほうが重要ということになる。次期トランプ政権の外交について理解するうえで重要な要素だ。
旧日本軍によるハワイの真珠湾攻撃に合わせ、12月7日にX(旧ツイッター)で「太平洋侵略を思い起こすと、現在の日本の再軍備は本当に良い考えだろうか」と述べ、日米が再び戦わないよう「注意しなければならない」などと記した。
米情報長官候補が日本敵視発言 「太平洋侵略国が再軍備」―トランプ次期政権(時事通信)
トランプ次期大統領にとっては対イスラエル政策のほうが重要だ。イスラエルはゴラン高原の恒久領土化を宣言しシリア南部に緩衝地帯を作ると言っている。今のところ「シリア南部にイスラエル軍を展開することはない」と言っているがネタニヤフ首相の発言は国際社会への反発を意識したものであってそれ以上の意味はない。当然スンニ社会から見れば「シリアの主権に対する重大な侵害行為」となる。
トランプ次期大統領はシリアには興味がないがイスラエルのポジションは全面的に支援することになるだろう。つまりトルコ・サウジアラビアなどのスンニ派の国々と敵対することになりかねない。冷静な判断を使用にも国家情報局のトップがどれだけ性格な情報を上げることができるのか甚だ疑問だ。
トルコはNATO加盟国であり対ウクライナでの協力関係を維持したいがトランプ次期大統領はウクライナにも興味がない。最も厄介なのがサウジアラビアだ。
アメリカ合衆国の基軸通貨である米ドルの裏打ちになっているのはオイルマネーだった。ところが独自通貨構想を掲げるBRICSがサウジアラビアを取り込もうとしている。仮にイスラエルとサウジアラビアの関係が悪化すれば基軸通貨としての米ドルに大きな影響が出る可能性があるのだがおそらくトランプ次期大統領はこのような複雑な関係は理解できず、ただただ関税を振りかざすことになるだろう。