バイデン大統領が前言を撤回し息子のハンター・バイデン氏を恩赦した。その理由付けはいつもながらわかりにくいもので、4年間のバイデン政権の欺瞞を象徴するものになった。
この嘘に早速トランプ次期大統領が呼応している。バイデン陣営が司法の武器化を認めたことで自分たちの恩赦がやりやすくなったといえる。
この2つの陣営は対極であるように思えるが実は車の両輪を形成しているのではないかと感じる。
バイデン大統領の説明を時事通信は次のようにまとめている。要するに「アメリカの司法制度は全般的に信頼できる」が「自分の息子は別」と言っている。建前を維持しつつ別のルールを当てはめることで自身の意思決定を正当化しようとしているのだ。
バイデン氏は声明で「事件の事実を見れば、ハンターが標的とされたのは私の息子だからにほかならない」と述べ、政敵が事件を利用して自身を攻撃してきたと非難。司法制度に信頼を置く一方、政治的対立が「司法の誤りを招いた」と強調し、国民に理解を求めた。
米大統領、次男を恩赦 政治対立理由に姿勢一変(時事通信)
もちろん、バイデン大統領の決定には同乗すべき理由がある。彼は社会的建前を維持したかったがそれが何を犠牲にするかわかっていた。これまでも様々なものを犠牲にしてきたのだろうが「自分の息子とその他のアメリカ人」は別なのだろう。パレスチナ人とイスラエル人・アメリカ系イスラエル人の犠牲が別だったのと同じ理屈である。
もともと民主党はオバマ大統領の時代から「建前が目立つ」政党だった。オバマ大統領はこの建前を完璧に維持し続けていたが中間所得者は「建前は自分たちを守ってくれないのではないか」と感じるようになり徐々に民主党から離反した。これが第一期のトランプ政権誕生につながっている。
見た目が爽やかで演説のうまいオバマ大統領は建前の守護者として完璧な存在だったが、憲法の規定により2期8年しか大統領を務められなかった。結果的に彼に彼に代わって建前を維持できる役者はいなかった。
バイデン時代は特に外交安全保障政策で「言っていることとやっていることが違う」政権だった。民主党支持者と幹部は途中でそれに気がつくのだが時間不足もあり次の役者は見つからなかった。ハリス副大統領(黒人である上に女性といううってつけのバックグラウンドを持っていたが)結果的には中身がなくケラケラ笑っているだけの政治的リーダーとみなされてしまった。
このように書くと「やはりアメリカ人がトランプ氏を選んだのは間違いではなかった」と感じる人が出てくるだろう。
バイデン大統領は結果的に自分たちのやりたいことを建前でお化粧する政治を推進した。ところがトランプ氏は「そもそもお化粧すら面倒だ」と思っている。つまり「自分たちの欲望のためには何をやっても構わない」という意味で両者は共通しており実は同じ現象の異なる表現に過ぎないことになるのではないか。
当然トランプ次期大統領は次のように反応している。
共和党はバイデン大統領の措置を批判。トランプ次期大統領は交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」に「ジョー(・バイデン大統領)がハンターに与えた恩赦には、21年1月6日の連邦議会襲撃事件で投獄された人々も含まれるのか?司法の乱用だ!」と投稿した。
バイデン米大統領、次男ハンター氏に恩赦 退任前に方針一転(REUTERS)
「あいつらも自分たちのやりたいようにやったから俺達も好きにさせてもらう」という宣言になっている。バイデン大統領が「アメリカの民主主義は健全だ」というならば最後までその「嘘」を貫き通すべきだったのかもしれない。
ただしおそらくバイデン大統領が感じた被害者意識は本物だろう。
FBI解体派が長官候補に指名されたが共和党からは賛同する声が挙がっている。また政府効率化省は反アメリカ的な高官を名指しするだろうと考えられているそうだ。CNNが伝えるところによれば高官たちが恐れているのは仕事を失うことではなくその後の支援者たちの脅迫なのだそうだ。
確かにハンター・バイデン氏は恩赦で救われた。しかし、アフガニスタン撤退騒ぎから逃げ遅れた人たちのようにここから逃げ遅れる人たちもたくさん出てくるのだろう。バイデン大統領はこれにどう答えるのか。
リベラル系メディアはなぜこのようなことが起きたのかを総括できていない。
「恩赦はしない」との言質を引き出したABCニュースは「司法の武器化が進んでいる以上この前言撤回におろどくべきではない」と説明していた。彼らもまた「自分たちは騙された」と感じたくないと考えているのかも知れない。