シリアの第二の都市「アレッポ」が反体制派に占拠されたという。ああそうなのか中東も大変だなと思った。ただこれをきちんと理解しようと思うととたんにめんどくさいことになる。そもそも反体制派って何だ?ということになってしまうからだ。
初動報道の段階では「反体制派が何なのか」は書かれていなかったが、次第にイドリブ県にいた旧ヌスラ戦線(現在は「リブランド」してタハリール・アルシャーム機構(HTS)と呼ばれるそうだ)人たちだとわかってきた。アメリカ合衆国はテロ組織とみなしているそうである。
当初の報道は「アレッポがほぼ反体制派に占拠された」としか報じられていなかったが次第にイドリブ県などにいた反体制派が占拠したということがわかってきた。
そもそも現在シリアはどんな状況なのか。
北東部にはクルド人とアラブ人が共同で治める地域がありアメリカが支援している。CNNなどを読むと「地域をテロリスト(IS)から守るため」に展開していると説明されているが、おそらくは地域プレゼンスの確保が狙いだろう。アメリカはクルド人を保護するとして地域権益を守っているがイスラエルを支援しているためイラクからも出ていってくれと言われている。イラクにもクルド人地域がありアメリカの支援が入っている。
日本のようにアメリカの基地権益に大きな反対のない地域から状況を理解するのは難しいいが世界各国でアメリカ合衆国は基地権益の確保に非常に苦労している。
中央部はほぼアサド大統領の軍隊が掌握していたようだがレバノン国境とトルコ国境が掌握できていない。そしてユーフラテス川が政府軍地域とクルド・アラブ人地域の境目になっている。
今回「ほぼ」占拠されたアレッポ市はユーフラテス川より西に位置している。人口は200万人とされ、シリア第二の都市と説明されている。第一の都市はダマスカス。山脈を挟んでレバノンの裏にある。
AFPは今回占拠した人たちを次のように表現している。他の記事では旧ヌスラ戦線などとも書かれている。スンニ・シーアという文脈ではなく西洋支配から脱却しイスラム法での統治を目指している人たちだ、反西洋的なのでアメリカ合衆国などはテロ組織とみなしている。
同監視団によると、反政府勢力の「タハリール・アルシャーム機構(HTS)とその同盟勢力は強い抵抗を受けることなく、市の大部分と政府庁舎および刑務所を掌握」。政府軍の撤退後にはアレッポ空港を制圧し、「数十の戦略上重要な町を掌握した」という。
動画:シリア反政府勢力、第2の都市アレッポの大部分制圧 監視団(AFP)
だいたい誰が占拠したのかはわかった。
次の疑問は当然なぜ今のかということになる。もっとも可能性が高いのはイスラエルのイラン攻撃だろう。地域のシーア派ネットワークが壊滅的打撃を受けておりイランの支援が望めなくなった。
アサド政権はバアス党(地域化した社会主義政党)に支配されている。しかしハーフィズ・アル=アサド大統領は「アラウィ派」としても知られている。こちらはシーア派の一派だそうだが実際には輪廻転生説を取り入れるなど異端的要素も強い。イランがバッシャール・アル=アサド政権を支援するのはこのアラウィ派が「シーアの傍流」だからなのだろう。
気になるのがアメリカの関与だ。
そもそもアメリカ合衆国は世界の民主主義を守るために各地に展開していることになっている。しかし実際にはイランやロシアに対抗するために地域に関与しておきたいと考えているのではないかと思われる。
REUTERSは次のように書いている。非常にわかりにくい一節だ。報道官は米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)の報道官。
ショーン・サベット報道官は、シリアが政治的プロセスへの関与を拒否し、ロシアとイランに依存していることが「シリア北西部におけるアサド体制ラインの崩壊を含め、現在展開されている状況をつくり出した」とした上で、米国は「指定されたテロ組織」が主導する攻撃とは無関係であり、「緊張の緩和と、真剣かつ信頼できる政治的プロセス」を求めていると述べた。
シリア反体制派が北部要衝の大部分制圧、政権側ロシアは攻撃実施(REUTERS)
アメリカ合衆国は「アサド大統領が民主主義的な紛争解決を拒否していることが問題を大きくしている」と分析したうえで、ロシアとイランという「間違った先」に依存していることが問題を大きくしたという物語(もちろんこれが本当である可能性もある)を作っている。
そのうえでわざわざ「とはいえアメリカ合衆国はこの状況には一切関与していない」と言っている。
バイデン政権は残り数ヶ月の政権なのでそもそも問題を引き起こす動機を持たない。その意味ではこれは正直な観測なのかも知れない。
しかし「陰謀論」を信じる人たちはそうは考えないだろう。
- バイデン政権は軍産共同体と共犯関係にあり彼らの仕事を作っている。
- トランプ氏に平和を実現させないためにわざと負の遺産を残そうとしてる。
と考える可能性がある。
そもそもこんな質問が出るのは「地域情勢の変化にアメリカが関与しているのではないか」と疑われているからだ。バイデン政権には確かに「シリアが間違った側にいる」と証明したいという動機がある。
この陰謀論の側にたつとバイデン政権は狂った戦争狂で戦争を拡大するためにテロリストを利用してわざと問題を煽っているということになる。
現在の国際情勢は非常に厄介だ。
「そもそもなぜこんな質問が出るのか」を読み取るためには「前提として陰謀論が広く流布している」ことを理解しなければならない。つまり「は陰謀論も読み込んでおく必要がある。そもそもトランプ次期政権では陰謀論者がFBI長官候補になったりしており「公式情報」が陰謀論を展開する可能性もある。つまり文脈を理解する以外に「陰謀論とそうでないもの」を区別することは不可能という状況が生まれつつあると言えるだろう。