バイデン大統領がハンター・バイデン氏への恩赦を決めた。大統領候補ディベート前のABCでのインタビューでは「恩赦はしない」と語っていたが結果的に嘘をついたことになる。
バイデン大統領の4年間は「民主党の言行不一致に耐えられない」人たちを増やした4年間であり再建への道筋は見えていない。バイデン大統領の最後の嘘は「やはり違和感は本物だった」と感じられる後味の悪いものになった。
しかし、やはり物事には表と裏というものがある。前言撤回の裏にはバイデン大統領が家族への報復を恐れているという抜き差しならない事情もあるようだ。
バイデン大統領はトランプ前大統領とのディベートに先立ちデビッド・ミューア氏のインタビューを受けた。当時トランプ氏は有罪評決を受けており「自分で自分を恩赦するかも知れない」と言われていたため「自分はそんなことはしない」という意味で「息子を恩赦することはない」と表明していたのだった。
しかしながら今回「息子は大統領の息子という理由で狙い撃ちにされた」と指摘している。
この「嘘の是非」について注目すべき点は3つあるように思う。
民主党の若い支持者たちはパレスチナ問題や中間層救済において「民主党の本音と建前が一致していないのではないか」との疑いを持っている。結果的にこの疑念はハリス氏が大統領候補となっても払拭されなかった。今回の嘘は民主党支持者たちの間に「やはりバイデン政権は言行不一致政権だった」という確信を与えることになるだろう。今後民主党が党勢を立て直すためには極めて大きな障害となる。
トランプ氏とその支持者たちは司法が武器化されているという。しかし民主党は一貫して「司法の武器化などなく透明性が保たれている」としてきた。だからトランプ氏も公平な裁判を受けるべきだと言うのが民主党支持者の主張だった。しかし今回のバイデン大統領の主張が正しいとするならば司法の武器化は確かに存在しハンター・バイデン氏を襲ったことになる。つまりトランプ陣営の陰謀論に一定の根拠を与えてしまう。
バイデン大統領は自分が正当な大統領であることを証するためにハンター・バイデン氏を恩赦しないと言っていた。つまり彼が4年間大統領であったならハンター・バイデン氏は4年間収監されていた可能性もあり「父親の仕事の犠牲になった」といえる。バイデン大統領は今回息子に対する温情を世間に訴えているが、こんな非情な親子関係もないといえるだろう。
しかしこれで終わらないのがアメリカ政治の闇の深さだ。
インタビューの内容を否定されたABCは怒っているのか。実はそうではない。ABCはこの決定がFBI解体論を唱えるパテル氏が長官候補に指名された次の日に行われたことに注目している。
「トランプ氏はバイデン大統領の追い落としに本気」であり息子に危害が加えられることを恐れていたという筋書きになっている。ハンター・バイデン氏は薬物中毒からの回復過程にありおそらくは厳しい収監には耐えられない。すでに長男を失っているバイデン大統領はもうひとりの息子がいなくなることに耐えられなかったのだろうと慮っている。
バイデン大統領は口では「アメリカの司法は信頼できる」と言っているが、実際にはもうそんな状態ではないということだ。アメリカの司法は公平ではなく大統領次第でどうとでもなる程度ものになっている。だからこそ、自分が大統領であるうちに息子を救い出す必要があったということだ。口では気に入らない結果でも受け入れる必要があるといっている。だが自分の息子は別口だ。
これまでの議論は「バイデン氏かトランプ氏か」と「民主党か共和党か」という二者択一的な議論が主流だった。しかし、実際には言行不一致が多く建前が信頼されない民主党と自分たちの欲望のためなら使える手段は何でも使うという新しくなった共和党とは車の両輪として語られるべきものだったということになる。
「アメリカは分断されている」と言われるがその分断は我々日本人が考えるよりも遥かに深刻なものになっている。本来「公平中立」であるべき司法を現職の大統領ですら信じられないという状態になっている。
アメリカは病んでいる。