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維新が新しい代表に吉村洋文氏を選出

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日本維新の会が吉村洋文大阪府知事を新しい代表に選出した。国会議員ではないために党則で共同代表を置く必要があるそうだ。吉村氏は前原誠司氏を指名したが松沢成文氏が意欲を示している。つまり共同代表選挙は別に行われるということなのだろう。

吉村氏は全国政党化路線を修正し参議院選挙に向けて野党候補の一本化のための「予備選挙」をやるべきだと訴えている。

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日本維新の会が新しい代表に吉村洋文氏を選出した。吉村氏は新しい維新の存在意義の確立を訴えているがその主張はどこか曖昧模糊としている。

ではなぜ主張が曖昧模糊としているのか。

もともと「維新」は大前研一氏の主張だった。大前氏の主張はアメリカ型の分権の導入だ。製造業を中心とした国は国家がインフラを整備するために集中的に資本を注入する必要がある。つまり中央集権のほうがやりやすい。しかし第三次産業化が進むと「何が当たるのか」を国家が見極めるのが難しくなる。ここで都市環境層を働かせて次世代の成長産業づくりを競わせるためには地方分権のほうがふさわしい。

だがこのようなコンセプトベースの政党の作り方は日本では受け入れられなかった。そもそも日本では「コンセプト」が理解されない。日本人が理解するのはそのコンセプトが自分の得になるかならないかだけである。

日本人が最初に考えるのは「自分たちの損と得」だ。外国から「資本主義」や「共産主義」などの主張は輸入するがこれを自分たちの損得に合わせて日本流に改変する。結局地方分権・小さな政府などの考え方は橋下徹氏らによって歪められ大前研一氏は橋下徹氏とは距離を置くことになった。

政治がある程度の広がりを持つためには「損得(利害関係の調整)」だけでなく「主義・主張・コンセプト」という二本柱が必要だ。

全体のパイが増えない以上維新はどこからら分配の原資を奪って持ってくるしかない。大阪では「公務員の既得権益を奪う」として府民・市民の味方であると訴えてきた。大阪府と大阪市では自民党と公明党は公務員の既得権に加担する共犯者であるという主張が広く受け入れられたようだ。この主張は政党というより義賊に近い。維新は橋下徹・松井一郎氏による主導でこの義賊稼業を乗り切った。

これを横展開しようとしたのが兵庫県だ。確かに兵庫県は井戸県政時代に溜まった膿のようなものがあるようで兵庫県民の間には一定の期待感がある。しかし斎藤元彦知事は旧来からあった井戸派・反井戸派の争いに巻き込まれてしまい「泥沼の一部」になっている。SNS世論は状況を変化させうるが議論をまとめることはない。したがって兵庫県政は大混乱している。

奈良県でも10月に決算が不認定になっている。決算をやり直す義務はないそうだが県議会と県知事が対立しているのだ。県議会は地域の利害が反映されやすいためこうしたねじれが生じる。

このように大阪で展開できた「改革」は隣県では混乱を引き起こしている。全国化など夢のまた夢だろう。

おそらく維新のみならず日本の政党の問題は「イデオロギーがなく利益対立にとどまっているために普遍化が難しい」という点にある。しかし「欠落」したわけではなく「最初からない」のでこれを政党人が意識することはできない。そもそも自由民主党が作られたのはGHQと財界が「まとまった保守の塊が必要だ」と考えたからであって自発的に作られた組織ではない。

吉村新代表は「全国化推進」修正の理由を次のように主張しているが最初から論が破綻している。

吉村氏は会見で「戦略的地域」の狙いについて「全国おしなべて擁立するのは(党の)体力や戦略を考えても違う。多極分散型国家の拠点となるエリアを強化すべきだ」と説明した。

維新懸案の全国政党化 吉村新代表が路線修正 参院選の「野党予備選」には異論噴出(産経新聞)

なぜ破綻しているかを見てゆこう。

二元代表制のもとでは人口密集地を押さえれば首長戦には勝てる。しかし議会選挙では勝てない可能性がある。この戦略は地域政党を作るうえでは有効かもしれない(属人的な維新の戦略を理論化すること自体は可能なので「橋下ドクトリン」などという名前をつけて理論化すればいい)が、日本には大統領がいないので国政では展開できない。したがって国政政党の戦略としては全く意味がない。大阪という関西の中心地では勝てたが、庫県と奈良県の全域を維新系の議員が制圧できないのは「地方の都市圏」しか抑えることができていないからだろう。そして地方の非都市圏を抑えるためには「分配の維持」を約束する必要があり都市圏との間にコンフリクトが生まれる。

吉村洋文氏は「予備選」を訴えているというがこれはおそらくうまく行かないだろう。日本の政党にはイデオロギーがなく組織同士の「損得」でしか動かない。そもそも立憲民主党が国民民主党の併合に苦労しているくらいの混沌とした状況だ。仮に野党が共同するとすれば「既得権から何かを奪ってきて分配する」競争にしかならないので「論争」が成立し得ない。現状に不満を持つ有権者は「既得権から奪ってきてくれるなら誰でもいい」のだ。

国民民主党が手取りアップを訴えて支持を伸ばしなおかつ自民党・公明党協議で着地点を見つけられないのは、彼らは選挙のときには「奪う」主張をして部分連合を組むときには「奪わない」主張をしなければならないからである。

そう考えると

  • 野党予備選が実施されることはなく
  • 維新が「敵」を設定できた大阪以外で躍進することはない

事は自明と言ってよい。

あとは大阪で当初獲得した「既得権と戦い地域を繁栄させる政党である」というイメージをレガシーにして生き残るしかない。吉村洋文新代表のミッションは党勢拡大ではなく維持ということになる。

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