先日、河井克行氏の動画をご紹介した。
河井氏は参議院議員の議席を維持するためには年間1億円程度の金が必要だったとしたうえで「国会議員と地方議員は相互にお金のやり取りをしている」と告白している。仮にこれが自ら稼いだお金であれば「優しい共同体」と言えるかも知れないのだが実は6割程度は税金である。
河井克行氏は「溝手顕正氏は年間一億円程度のお金を使っているのだから(ちなみに故人なので溝手氏は反論できない)三ヶ月しか時間がない河井案里氏が当選するためには同じ程度のお金が必要だ」と言っている。また、地方議員との間の交流で「手ぶら」というわけには行かないと主張し「お互いにお金のやり取りがある」と認めた。そしてこれが日本の常識であると説明している。
このプレゼンテーションのポイントは「公職選挙法の曖昧」さだ。
内心(当人の認識)によって「選挙支援」かそうでないかが決まる仕組みになっている。
河井克行氏は「当局(それが誰かは言わなかったが)」のさじ加減で「政治家なら誰でも捕まる可能性がある」と言っている。スティーブ・バノン氏が「日本にもディープステートがいるんですね」と言ったことになっており陰謀論を持ち出して自身の正当化を図っている。
御本人は気がついていないかも知れないが、自民党が政治とカネの問題を詳らかにすれば「おそらく逮捕者が出るだろう」と主張していることになる。
河井克行氏は党勢拡大(自民党の一議席を二議席にする)と主張していたが実際には溝手顕正氏の支持者が奪われている。つまり党勢拡大ではなく派閥抗争のためにお金が使われたことになる。
自民党が自浄作用を働かせることができないのは「すべてを詳らかにすると誰が逮捕されるかわからない」からであり「無派閥を含めたすべての議員が派閥抗争の当事者であるから」ということになる。
高橋弘樹氏はキラキラとした目で河井克行氏から自供を引き出してゆく。新しいスタイルのジャーナリズムと言えるだろう。非常に「タチの悪い人だなあ」と感じる。
確かに政治家から見ればこれは「誠意」であり「優しい助け合い」なのかもしれない。日本では助け合いのためにお金のやり取りをすることは文化的に奨励されている。お中元・お歳暮・香典などがその一例だ。
ではその「優しさ」の原資はどこから来るのか。時事通信が「政党収入、6割超が交付金 強まる税金依存―政治資金」という記事を出している。
いろいろなことがわかる記事である。
政党資金の6割以上は税金である。つまり「政治家同士の優しさ」は税金が原資になっている。自民党の場合は8.5億円の「使い道を報告しなければならない」お金がある。河井克行氏に言わせれば「参議院議員の椅子を買うためには年間1億円必要」なのだからこれでも足りないとは思うのだが「助け合い」の一助にはなっているかも知れない。
自民党だけ「寄付」が突出している。野党にはこうした寄付が集まっていないことから企業は何らかの見返りを期待して支出をしている可能性がある。
いろいろなことがわかる。
- 溝手顕正陣営から河井案里陣営に票が流れたことから「カネの切れ目が縁の切れ目」となっている。
- 優しさというかタカリ体質というかは主観的なところだが、古い体質はどんどんエスカレートしてゆく。結果的に税金ではまかないきれなくなり「政党助成金に加えて寄付もないとやって行けない」状況になっている。
- 予算による利権配分ができない野党はこれに嫉妬しており自民党の政治とカネの問題を大きなテーマに位置づけている。
- 自民党はどうにかして「思いやり」の原資を維持する必要があり政策活動費は廃止するものの「プライバシー」を理由に枠を確保したい。いちおう第三者の監査は受けるとしているが監視は国会議員にやらせたいというのが自民党案である。
前回、企業団体献金について書いたときに「公明党はどうするのだろう」と感じた。創価学会から支援を受けているはずで「団体献金」の禁止は死活問題になりかねないからだ。実は「公明新聞」が収益の柱になっているそうだ。つまり企業団体献金をなくしても「別の形=例えば新聞など」を介することで容易に迂回できる。
こうなると「いっそのこと政治資金を透明化すればいいのに」と言う気がするのだが「敵(他派閥・他政党)に手の内を見せたくない」という気持ちがあるのだろう。
ここまで書いてきてふと「政党助成金でシンクタンクを作り継続的に統計を取りつつ政策の効果を検証してくれれば日本はもっと良くなっていったのではないか」と思った。
しかし、現在の政治活動費用の議論にはこうした視点は全くでてこない。シンクタンクは農業で言えば「来年のための種籾」ということになる。現代日本の政党政治は国家収益を税金の形で吸い上げて分配するだけの機能しか持っておらず「未来のために蓄積する」という発想は持っていないようだ。
政治資金の問題とは別になぜ現在の日本人は人や未来に投資しなくなったのかという疑問が出てきたが、これについての答えは当然ない。