ルーマニアで大統領選挙が行われている。第一回目の投票で泡沫候補が躍進し大騒ぎになっている。要するにルーマニア版の石丸ショックである。
与党陣営は大混乱に陥り「TikTokが悪い」と批判が殺到している。どういうわけか票の数え直しも始まったそうだ。与党は敗北を認められないためTikTokのアルゴリズムがロシアの介入を受け泡沫候補を押し上げたのだろうということになりつつあるようだ。
ルーマニアの大統領選挙が混乱しているとREUTERSやBBCなどが書いている。票の数え直しが始まりTikTokが批判されているという。また既存政党は敗北を受け止められず大混乱になっているそうだ。
遡って検索すると毎日新聞の記事が見つかった。ルーマニアの大統領選挙は2回投票制。第一回目の投票で過半数候補が出なければ上位2名が決選投票に進出する仕組み。ここで泡沫候補だった超国家主義政党(それがどのようなものかは書かれていない)のジョルジェスク氏が一位になった。
以下毎日新聞の抜書だが要するに東京都知事選で起きたのと同じことが起きている。泡沫候補とみなされていた人がSNSに乗って票を伸ばし大躍進したという話だ。
10月の世論調査では支持率1%未満と低迷し、11月に入って急速に支持を広げたが、それでも5%台だった。予想外の躍進といえる。
ルーマニア大統領選にもSNSの民意 親露極右候補、首位で決選へ(毎日新聞)
一方で、中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」では乗馬をしたり、黒帯を締めて武道の稽古(けいこ)に励んだりする動画などを投稿し、26日現在で35万人のフォロワーを有する。
ルーマニア大統領選にもSNSの民意 親露極右候補、首位で決選へ(毎日新聞)
今回の選挙戦でもSNSを駆使し、主に地方居住者や男性の票を集めたとされる。東欧のある外交官は取材に対し、「新聞やテレビのニュースに全く触れず、SNSだけを見る人々が支持した。世界中の選挙でSNSの影響力は増しているが、それがルーマニアでも起きた」と分析する。
ルーマニア大統領選にもSNSの民意 親露極右候補、首位で決選へ(毎日新聞)
その後の経過も似ている。既存政党は自分たちの反省はせず「SNSが悪いにちがいない!」といい始めた。やり玉にあがったのがTikTokだった。ロシアの介入なども噂されていて投票を全部数え直せと騒ぎになっている。
「大統領候補は、政治候補者としてラベル付けされず、選挙コンテンツにラベル付けするよう求められないというTikTok(ティックトック)のプラットフォームを通じて大規模な露出の恩恵を受けた」と説明。ルーマニアは「国家および非国家主体、特にロシア連邦による敵対行為」の主要標的となっていると指摘した。
ルーマニア大統領選、憲法裁が再集計命じる ロシア介入疑惑も(REUTERS)
大人たちが理不尽なSNSの拡散の仕組みを理解できず慌てていることはわかる。また社会主義独裁を経験したルーマニアが再びロシアに飲み込まれようとしているという恐怖心を拭えないのもなんとなく想像ができる。
だが再集計に至る理屈がよくわからない。
TikTokが優遇措置を与えたとは要するにアルゴリズムのことを言っているのだと思うが一私企業が泡沫候補に優遇措置を与える理由がよくわからないうえにそれがなぜ票の数え直しにつながるのかも理解できない。
ルーマニアの憲法裁判所は28日、24日に行われた大統領選挙の第1回投票について、票の再集計を命じた。動画共有アプリ「TikTok」が、この投票で予想外の首位となったカリン・ジョルジェスク氏に「優遇措置」を与えたとの疑惑を受けた判断。
ルーマニア大統領選、再集計へ TikTokが極右候補に「優遇措置」との疑惑で(BBC)
斎藤元彦兵庫県知事に似たような背景もある。自分にはその気がなくても「その手の人達」を惹き付けたことは十分に考えられる。つまりある種の「おもちゃ」となっているわけだ。
既存メディアではこのような急激な変化は起きないので既存メディアしか知らない人は陰謀の影を見るのかも知れない。いずれにせよ次世代型のSNS選挙では「バズった」候補が「勝手連(再投資の場合は立花孝志氏がそれにあたる)」に支援されて短い時間の間に大躍進することは十分に考えられる。
ジョルジェスク氏はBBCに対し、「この選挙活動の予算はゼロだった。私のチームは非常に小さく、最大でも10人で、それ以上はいなかった。しかし、私たちの背後には何百万人もの人々がいた」と語った。
ルーマニア大統領選、再集計へ TikTokが極右候補に「優遇措置」との疑惑で(BBC)
BBCは最後に小さく次のように書いている。
既存政党の予想外の敗北にパニックが広がっている。同様な動きはアメリカ民主党にも見られる。民主党は次第に中流有権者の政党からエリートのための政党に変質していった。バーニー・サンダース氏のようにそれを指摘する人もいるが民主党の人たちはそれを認められない。自分たちは依然中流階級の見方だと思いたい。
CNNなどの既存メディアは「フェイクニュースを気にしない頭の悪い有権者がトランプ氏を信じた」という分析をすることがある。これがSNSを中心に情報を取っている人たちの反発を生みマスコミ不信につながっている。
一方、連立与党の社会民主党と国民自由党は、大統領選での候補者の敗北により混乱状態にある。
ルーマニア大統領選、再集計へ TikTokが極右候補に「優遇措置」との疑惑で(BBC)
おそらくルーマニアの大統領選挙を気にする人は多くないだろうが世界の報道に目を転じると日本の政治状況も実にありふれた世界的変化の一つの流れに過ぎないということがよく分かるのではないだろうか。