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先進国幻想

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面白いTwitter投稿を見つけた。最賃1500円デモが起きているようだ。


日本は先進国なのに最低賃金をあげられないのはなぜかと嘆いている。面白いと同時に恐ろしいなと思った。一人当たりのGDPを見ると日本は20位以下の地位にいる。つまり日本はもはや先進国ではなく、どちらかといえば上位中進国なみになっている。産油国を除けば、韓国、台湾、イスラエルなどと並んでいる。先進国の中で脱落気味な国は他にもある。スペイン、イタリア、ポルトガルなどである。それぞれ事情は異なるようだが、どこも構造改革に失敗した国々である。それでも疑う人がいるはずなので、ビックマックの価格を挙げておこう。もう普通の日本人はアメリカでビックマックは買えない。昔は韓国旅行すると好きなだけ好きなものが食べられたのだが、いまはそうではない。
左翼の人たちは安倍政権を厳しく糾弾する。そこで「日本は経済成長すべきポテンシャルがあるのに成長しないのは政府がいけないからだ」と考えているものだと思い込んでいた。だが、そんなことはなく、単に政権を批判しているだけらしい。
こうなった理由は簡単だ。ヨーロッパやアメリカは経済成長したが、日本は成長しなかったからである。日本は産業構造を変えて経済成長をするという政策をとらなかった。脱落者が出るのを恐れたのだろう。このため極端な負け組(現在極右や劇場型政治の熱心な支持者たちになっている)が生まれなかった。みんなで貧しくなったので地位の低下に気がつかなかったわけである。安倍政権が大した批判を受けないのはそのためだ。世界経済にまともにリンクした韓国は格差が開き政権を転覆しようかというデモが起きた。こちらはIMFに介入され、リーマンショックの荒波をもろに受けた国である。サムスンなどの多国籍企業だけが恩恵を受けた。
なぜ日本が成長しなかったのかについてはいろいろな見方がある。第一の見方は構造改革をしないでIT投資もしなかったからという見方だ。しかし現役世代だけで見ると生産性は上がっているという統計もあるらしい。つまり急速に進む高齢化が生産性を押し下げているという見方もできる。
さらに金融政策を間違ったからだという説もあったが、これは否定されつつあるようである。先進国が軒並み「日本化」してしまったからだ。
次の見方は相対的な優位性が失われたという考え方だ。中国がグローバル経済に参入したので、日本の強みである「安さ」が失われてしまったのだ。中国のGDPが伸び始めた頃から日本の停滞が始まっている。
この見方を取ると、日本は優秀だったから経済成長したのではなく、単に近隣に競合がなかったから成長したことになる。日本は構造改革をして中国と競合するような国から脱却すべきだったということになるのだが、これは地方にある工場から仕事がなくなり、都市型の産業(金融やITなど)に移行することを意味する。日本は地方の方に政治的な重みがある(自民党の首相は、中国地方、北関東、九州の出身だった)ので、地方を否定するような政策は取りにくかったのだろう。民主党政権は都市型(いずれも関東地方出身)だったが明確な成長戦略をとる前に自滅した。
いずれにせよ、この見方だと日本の地方は中国と価格的に競合する。つまり、中国並みに賃金を下げなければやってゆけないということになる。日本の政府が年金を賃金とリンクさせたがっているのはこのためではないかと考えられる。正社員層を非正規の価格で使い捨てられば中国と競合できるのだ。すると税収も下がるので年金システムは支えられなくなる。実際に賃金は下がり続けており、成長戦略はないのだからこれも当然の事である。
基本的人権も政府への重しになっている。中国にはそのような概念はないので、貧しい人たちを貧しい地域に押し込んでさえいればことは足りてしまう。憲法改正して基本的人権をなくせば中国と競争できるかもしれないのだ。中国と競合する(製造業に固執する)というのはつまりそういうことである。
二、三年前であれば「日本は果敢に構造改革して経済成長を目指すべきだ」と言えていたのだが、どうやらアメリカやヨーロッパでも成長疲れが出ているようで、深刻な弊害が出ている。トランプ大統領の誕生はアメリカの地方が製造業回帰を望んだことを意味している。これは中国と競合するということである。フランスでも極右の大統領が出るのではと言われている。韓国でも大規模なデモが起こった。解決策は失われつつあり、このことを真剣に捉える必要がある。
高度経済成長期の日本人は自分たちのことを小さな島国だと謙遜していた。敗戦の記憶があったからだと思うのだが、実際には戦前からかなり大きな経済大国で、広い海域で中国が太平洋に出る出口を塞いでいる大国だった。
現在ではなぜか逆の動きが起きており、世界第2位の経済大国だったころの記憶を引きずっているのだろう。「日本すごい」ブームが起きている。こうした根拠なき熱狂は無知蒙昧な右翼の専売特許だと思っていたのだが、どうやら左翼も同じ思い込みを抱えているらしい。

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