イスラエルとレバノンの間に60日の停戦合意が結ばれた。実態は「停戦に向けた60日間のトランジション」と表現したほうが良さそうだ。だが実際には単なる時間稼ぎに終わると見られている。イスラエルは「お休み」の間に戦力の再補充を図るが、一方のヒズボラも捲土重来を狙い一旦リタニ川北部に退いた格好だ。
イスラエルとヒズボラの間では引き続き散発的な衝突があり「停戦非難」とお互いを非難し合っている。レバノン軍は南レバノンへの帰還をとどまるようにと住民たちに伝えているが住民は戻り始めているという。
やはり完全な停戦など絵空事だったと絶望的な気分になる。
ただ、双方のマインドセットがよくわかる点が重要なのかも知れない。状況を見る限り彼らはそもそも恒久的な安定など期待していないとわかるからだ。
南レバノンサイドの人たちの間には「ヒズボラは戦力を温存するために一旦リタニ川北部に引いた」とする認識が広がっているようだ。もともと中東戦争でパレスチナから逃れた人たちが退避している地域だ。つまり彼らは単なる被害者ではない。ヒズボラを支援し「いつかパレスチナがアラブ系のもとに戻って来る」と考えている。このため今回の停戦は「単なる時間稼ぎだ」とみなされている。
一方でイスラエル人は「今ある環境に合わせて合理的な選択肢をいろいろと試す」というプラクティカルなマインドセットを持っているようである。このため、今回の停戦は60日の間で体制を立て直すための期間と捉えられている。状況を立て直して「またやってやる」ということだ。
ネタニヤフ氏は事前に撮影した声明で停戦決定を発表し、その時期が来た理由を列挙した。イスラエルはベイルートの地面を揺るがしたのだと力説し、今こそ「我々の部隊に休息を与え、物資を補充する機会がある」と続けた。
【解説】 レバノン停戦は小休止に過ぎず、中東問題の解決策ではない……BBC国際編集長(BBC)
今回の提案において多くの人が60日という期間に注目している。60日後には状況が大きく変化する。バイデン大統領が去りトランプ大統領がやってくる。状況が変われば当然合理的な行動も変化するということだ。
日本人から見るとこの状況は非常にわかりにくい。日本人は中長期的な人間関係を構築し不確実性を取り除こうとする事が多い。このため「そもそも安定などない」と考えている人たちが短期的な合理性のために行動指針を変えてゆくのを見ると「首尾一貫せず不安定」に見えてしまう。
現在の中東情勢は日本人にはカオスにしか見えないが、当事者たちはそもそもこれが当たり前の状態だと考えている可能性があるということになる。