フランスで内閣の崩壊が囁かれている。マクロン大統領が「バルニエ内閣はもう終わりだ」と発言したとニュースになり大統領府が色をなして反論する騒ぎになっている。背景にあるのはもちろん予算案だ。国民に負担を求める内容になっており急進右派と左派が反発している。
フランスは現在少数与党状態である。議会選挙では急進右派が飛躍した。これに焦ったマクロン氏が率いる改革政党と左派が手を組んだ。フランスの議会選挙は二回投票制でありこの結果左派が躍進する。支配政党ができなかったこともありマクロン大統領は左派の首相を認めなかった。結果的に穏健右派共和党のバルニエ氏が率いる少数与党が作られた。
バルニエ政権は国民に負担を強いる予算案を提案している。ルペン氏率いる急進右派の国民連合は今のところバルニエ政権を支持しているそうだが緊縮予算にしなければ不信任案を提出すると主張している。この不信任案に左派が乗ってしまうとクリスマス前にも内閣が崩壊してしまう可能性があるとのことだ。
ルペン氏は政府が計画する電力消費税の引き上げ、医療費償還の引き下げ、年金の物価スライド延期に強く反発し、移民に関する追加措置も要求している。
フランス内閣、崩壊なら金融市場で嵐招くと首相-予算案否決の恐れも(Bloomberg)
先行き不透明感が広がるなか大統領が内閣を見放したと取られかねない記事が広がり大統領府が色をなして反論する事態となった。
フランス紙パリジャンはミシェル・バルニエ政権について、極右の支持を取り付け不信任案が成立する結果、近く崩壊するだろうと、エマニュエル・マクロン大統領が語ったとする記事を掲載した。これを受け大統領府(エリゼ宮)は26日、報道内容を否定、火消しに躍起になっている。
フランス大統領府、マクロン氏の「政権崩壊」発言を否定(AFP)
ドイツでも同じような状況が起きている。こちらは左派・環境系急進左派・改革右派が連立政権を作っていたが改革右派が離反した。増税や将来負担を伴う歳出拡大策に追従すると改革右派政党の支持者たちが離反する危険性があったためだ。結果的にドイツは来年度予算(2025年1月から新しい会期となる)が成立しないことが確実になった。
ただし、ドイツの場合は予算案が成立しなくても「前年予算を執行する」ことで混乱を避けることができる。情勢変化に合わせて予算を組み替えることはできないが政府閉鎖などは避けられる安全装置が基本法に組み込まれているのだ。また、議会は単独で不信任案を出すことができず連邦首相からの信任決議を必要とする。ショルツ首相は信任決議を提出し不信任を受けることで解散総選挙に至るという意思決定をしている。
フランスはやや仕組みが違う。憲法49条3項の規定により内閣が議会を通さずに法案を通すことができるという。議会は対抗措置として内閣に不信任案を突きつけることができる。つまり内閣は予算成立と引き換えに自滅する「自爆型予算」という選択肢があるということになる。
バルニエ氏は辞任の意思がないことを示唆し、国民議会(下院)の採決を経ずに法案を成立させる憲法49条3項の特例条項を用いざるを得ない可能性に言及した。
フランス内閣、崩壊なら金融市場で嵐招くと首相-予算案否決の恐れも(Bloomberg)
日本でも自民党・公明党が少数与党に転落した。背景にあるのは「政治とカネ」の問題であるとされることが多いが、フランスやドイツの事例を参照する限り実際の背景はじわじわと苦しくなる中流階層の生活不安だろう。
アメリカではすでに政権交代が行われ、フランスとドイツは政権交代秒読みである。ただし政権を交代したとしてもそれが生活苦の改善につながるとは考えにくい。先進国はどこも苦しい状況に置かれている。