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耐震費用は相続人が負担せよ あまりにも場当たり的な政府の対応

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非常に小さな記事だがQuoraで共有したところ反響があったのでブロクの方にもシェアすることにした。「耐震改修、70歳以上は出費なし 自宅担保に借金、国が利払い」という記事だ。

タイトルだけを読むと「70歳以上は政府が耐震工事費用を出してくれるのか」と思いたくなるが、実際には相続人に支払わせるという内容になっている。このため見せ方を変えることで「ああそうだったのか!」ということになったようだ。

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おそらくタイトルだけを読んで中身は見ないという人がほとんどなのだろう。Xなどで記事が着目されることはなかった。リバース60は「家という不良債権を残さずに生活費を捻出する」ことができるため近年活用事例が増えているのだろう。テレビでCMを見ることも多くなった。

高齢者は経済的理由などで改修を敬遠する傾向にあり、支援を手厚くする。2024年度補正予算案に経費を計上し、住宅金融支援機構が金融機関と提供する既存の融資制度「リ・バース60」を活用する。住んでいる市区町村から改修費の補助を受けるのが条件。融資に当たって審査があるほか、死亡すると自宅が売却される場合があることに注意が必要となる。

耐震改修、70歳以上は出費なし 自宅担保に借金、国が利払い(共同)

日本人は「親族に面倒をかけたくない」という独特の感情をもっている。リバース60はこれを「お金の問題」として解決してくれる。つまり相続人に余計な気を使わせずにすむ。

ところが今回の政府の政策はこの「相続人に余計な気を使わせたくない」という日本人の心情を理解していない。結果的に「相続人に精算・清算」を押し付ける仕組みになっている。だからおそらくこのパッケージはほとんど利用されないのではないかと思う。

能登半島地震を念頭にしたと書かれており過疎地対策であるという点にも注意する必要がある。能登半島地震を巡っては「政府は何もしてくれない」と批判する声が挙がっている。政府は批判を回避したいが過疎地にお金を使いたくないという気持ちもあるのだろう。

おそらく政府は官僚に対して「なんとなくやってる感を出せる政策を出せ」と指示したのではないか。そこで官僚がひねり出した答えが「そうだ!相続人に支払わせればいいのだ!」というものだった。

一応「政府が利子を払ってあげる」という「温情味のあふれる」提案に仕上がっている。共同通信も取り立てて反抗するのは大人げないと感じたのだろう。政府の発表を右から左に流している。

そもそも日本人の心情に合致しない上に「実家」が不良債権化しているという事情もある。新築信仰が強いため子ども世代は自分たちで土地を買って別の世帯を構えていることが多い。このため相続した実家に住むことはなく空き家にすると高い税金を負担することになる。そしてこれを売ろうとすると今度は取り壊し費用を負担する必要がある。だから実家は不良債権化するのである。

また過疎地の場合は家が売れるとは限らない。家が売れなければ単に価値のない不動産を相続することになり耐震工事費用だけが残ることになる。家か片付かなければ相続人は負債だけを背負うことになりかねない。

結果的に息子・娘は「自分たちが相続できるわけでもないモノを片付ける」ために負担を強いられるだけの制度ということになる。ただし「誰も使わなければ実害もでない」ため取り立てて反対が広がる制度でもない。結果的に問題は何も解決しないというだけの話である。

なお、Quoraのコメント欄には「耐震工事ではなくグループホームなどに移転させて過疎地の家は整理すればいいのでは?」というコメントがついた。確かに一案ではある。

しかしながら実際には能登半島では「みんな一括でなければ動かない・動きたくない」という人達がいる。いっけんわがままな気がするが狭い人間関係に慣れてしまった人は人間関係が変わると外に出なくなる人たちが多いと聞く。実際に健康を壊してしまう人もいると聞く。このため人間関係まるごとでなければ移転ができないという事情がある。

官僚は合理的な政策を提案することはできても日本人の心情までコントロールすることはできない。これはもともと政治の役割だが政治はそもそも政策は作らない。

耐震工事が経済的に合理化されるためには「そもそも家が資産とみなされる」必要もある。つまり政府と官僚が戦わなければならないのは実は日本の住宅慣行である。

日本には「新築」信仰があり土地が資産とみなされることはあっても上モノ(建物)は資産にならないという了解がある。結果的に耐震工事をしても相続した段階で更地にして売るしかないということになり都市部であっても耐震工事は経済的に正当化されにくい。誰も住む予定がない家をわざわざ耐震化して取り壊す人などいないだろう。

ヨーロッパ人は家を資産と考える傾向があり日本の古い家屋にも魅力を感じる人が多いそうだ。こうした人達が日本に来てインフルエンサーとして活躍することが増えている。ヨーロッパ人にとって見れば宝の山だが日本人は全く価値を理解しようとしない。BBCは「なぜ日本ではリフォーム・リノベーションがそれほど活用されないのか?」「なぜこんなに空き家が多いのか」と呆れ気味に近年の日本の住宅事情について伝えている。

まさに不思議の国ニッポンという気がする。

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