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IR法案の問題点

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カジノが解禁されそうである。新聞各紙は猛反発しているようで、Twitterでも「安倍政権がまた時間をかけないで強行採決をした」という論調が見られた。しかし、地方議員たちはずいぶん前からカジノ解禁を要望していた。もうギャンブルに頼る以外に街を活性化する方策が思いつかないからである。民進党の地方議員にも要望している人が多かったのではないだろうか。民進党は採決に参加しなかった。
ギャンブルが解禁すると何が起こるのだろう。解禁派は大規模開発されたリゾート施設が建設されると宣伝しているようである。海外から大勢の観光客が押し寄せるラスベガスのようなイメージだ。
しかし、ラスベガスやマカオ型のリゾート施設ができる場所は限られている。空港が近くになければならないのだ。飛行機もろくに飛んでいないような場所にわざわざ出かける人がいるとは思えない。該当するのは、福岡、大阪、千葉(成田空港がある)、東京、札幌くらいではないだろうか。加えて那覇あたりが候補になる。海が近くにあり大都市からは隔絶されている上に一年中お客さんを迎えることができるだろう。
このIR法案の問題点はカジノとほかの賭博がどのように区分されているかということがまったく伝わってこないところである。法律論としては、賭博禁止を維持した上でリゾートカジノを例外化できるかという議論があるそうだ。いくつか考えるべきことがある。
地方自治体のギャンブル権益がなくなる可能性がある。地方自治体はたいしたお金もかけずに地方競馬、競輪、競艇などを開催している。実際に行ってみるとわかるが、刑務所のような壁があり、寂れていて若者をひきつけるような魅力はない。外資などが入ってきてリゾート型カジノ施設を作れば、こうしたギャンブルは競争力を失うだろう。
次にパチンコが解禁されるかどうかという問題がある。パチンコ屋が立派なリゾート施設を作ったところを見たことはない。あったとしてもファミレス程度のレストランがついているくらいだ。パチンコに集まるような階層の人たちが思いつく最高の贅沢はファミレス程度の食事なのだし、人々の関心は賭博行為にある。だから運営側もそれほど付帯設備の充実には力を入れないのだろう。だがこれも「庶民型リゾート」である。
つまり、カジノにも格差が生まれることになる。お金持ちは都市周辺のカジノ(もしくは沖縄あたりの本格的なリゾート)に集まり、貧乏な人たちは衰退しつつある地方に吹き溜まって街の雰囲気を悪化させるというわけだ。
法律は国が認めたところはカジノ施設として認可されるということにしているようだ。パチンコ店の経営者だったら与党への献金を増やして官僚機構への働きかけを強めるだろうし、監督官庁からの天下りを受け入れるだろう。
つまり、監督官庁が認可を厳しくすれば大都市のカジノに人が流れ、甘くすれば地方の衰退が加速するという制度である。地方の衰退が中央省庁のさじ加減ひとつで決まるということになる。
こうした議論がまったく報道されないのは、詳細がまだ決まっていないからだそうだ。なぜそれほどまでに急ぐのかはわからないが一説によると「オリンピックに間に合わせるため」らしい。
詳細が分からないのに判断ができるのは、国会が政府の政策遂行能力によほどの信頼を置いているからか、実施には興味がないからだろう。今のところ「ギャンブル依存症」の対策をするなどと言っているが、これも箱だけができて実質的には機能しないのではないだろうか。
このように見てみると、IR法案の問題が分かる。つまりは国会が機能していないのだ。自民党はすべてを政府に丸投げして国会議員としての役割を放棄している。民進党は地方の要望と中央での存在意義(もっとも提案しない野党に存在意義などないのだが)の間で決められない。公明党も支持団体と与党との間で調整ができず党議拘束をはずした。
さらに報道機関も単に国会のスケジュールを追っているだけで提案をしたり問題を洗い出したりすることはない。見たことがないものに反対し、決まったらそのまま伝えるだけである。
つまり、どうやらこれは法案の問題ではなさそうだ。


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