ざっくり解説 時々深掘り

非正規雇用は公害と一緒

今日はわりとわかりやすいが議論に登りにくいことについて考えたいと思う。テーマは非正規雇用と公害問題だ。
公害とは、製造業が本来行うべき処置を行わずに環境に有害物質を垂れ流す行為である。公害問題が蔓延したのは、公害防止策をとればコストがかさみ競争面で劣位に立たされるからだろう。
ではなぜ工場は公害防止策を取るべきなのだろうか。実際の抑止力になったのは環境対策に国費が使われたからではないだろうか。つまり、誰かが支払わなければ誰か別の人が支払うことになる。工場から見るとこれを「費用の外部化」という。費用を外部化すると競争力は増すが、処理費用は個別企業の支出を凌駕し、社会全体の競争力が失われる。
もう一つ大きかったのは機会の平等である。その場にいる人はすべて空気や水といった環境から影響を受ける可能性がある。だから世論の反発があったのだろう。
公害のような市場の失敗を個別企業が企業努力だけで乗り切ることはできないので、国や地方自治体のような「社会」が監視する必要がある。これが政府の役割だ。
さて、ここまで整理したら今度は非正規雇用について考えたい。非正規雇用は必要な時に労働力を確保してあとは「知らない」というやり方だ。企業はコストを削減することができるので、競争力を優位に保つことができる。どこか一つの企業が非正規依存に舵を切れば他の企業も傾かざるをえない。
非正規の人たちにも老後があるし病気をする可能性もある。また子供を育てるのも「余剰のリソース」が必要だ。非正規はこれを外部化しているので、社会の費用負担が増えることになる。つまり、費用の外部化が起きている。
次の論点は費用の外部化が環境を悪化させているかという点にある。第一に消費の落ち込みを通じて市場が痛んでいる。次には人口が減少する。もともとは大学に行かないとまともな職がないという理由から教育費がかさみ、第二子、第三子が育てられないという程度の話だったが、最近では結婚すらできない人も出てきている。費用の外部化が長い時間をかけて社会に害悪をなしているのは間違いがなさそうだ。
さて、公害対策については対策が進んだのに労働者問題については対策が進まないのはなぜだろうか。それは公害と違い労働者問題が「まだら」に進むからである。つまり、労働問題は労働者個人の自己責任だと考えらえやすい。
また、非正規労働者の間にも期待値がなく「失われた」という感覚が生まれにくいようだ。最近ヨーロッパ、韓国、アメリカで見られた民主主義の嵐の起爆力になっている人たちは「失われた」感覚を持っている有権者だが、日本でたいしたデモが起こらないのは日本人が自分たちの能力に自信を持たない縮み志向だからだろう。
非正規の問題に真剣に取り組んでいるのは共産党だけだ。これは非正規雇用の問題が労働者の問題だとされているからだろう。民進党すらまともに取り合わないのは、民進党の支持母体が連合や公務員の団体であり、非正規労働者問題は他人事だからだろう。企業にとっては労働者が分断されていた方がやりやすい。その意味では正社員は統治の道具になっている。ある意味、封建主義化が進んでいる。正規非正規の区分がなくなれば、全体の賃金は減っているので大騒ぎになるはずだ。だが「下」を置くことで転落を恐れた労働者は過労死するまで「自発的に」働くのである。
ただ、実際にも例えば自民党もこの問題の当事者だ。自民党の目的は中国に対抗して地域の覇権国家になることだ。軍事費を増やして対抗しようとしている。しかし、軍事費を拡大するためには足元の経済を拡張する必要がある。その手段は2つしかなく、人数を増やすか生産性をあげるかである。労働者の正規化はこのどちらにも関わっている。
しかしながら、自民党にはマクロな視野がない。このため場当たり的な対策しか打てない。安倍政権がやってきたのは、国内では民主主義や基本的人権を否定しながら、対外的にはアメリカにフリーライドして経済権益圏と軍事同盟を作ることである。前者がTPPで後者は安保ダイヤモンド構想だ。
さらに、自民党は中国の台頭による日本の国力の相対的な低下を解決するために、国家動員を進めようとしている。国民の人権を絞って国の権限を強化することで地域内競争に勝とうという戦略なのだろう。なんとなく正しいように思えるのだが、すでにこの戦略で失敗している国がある。それが党の指導力が強い北朝鮮である。強い中央集権が効率的なのだとしたら、北朝鮮は今頃韓国経済を凌駕していたはずだ。自民党はわざわざ憲法を改正して北朝鮮が70年かけた社会実験を再び繰り返そうとしているのだ。
 


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