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トランプ関税と「マスゴミ批判」の行方

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トランプ氏の関税政策に波紋が広がっている。当初「トランプ氏は関税政策に本気ではないのでは?」と言われていたが実際にはカナダとメキシコに25%の高関税がかけられることになりそうだ。

イギリスはすでに同様の政策が経済に壊滅的な被害を与えており保守党が政権を失う要因の一つとなった。このためBBCは「有権者が気がつくのを待つのがいいのかもしれない」と書いている。つまり「一度痛い目にあってみればいい」と言っている。イギリスらしい突き放した辛辣な皮肉だ。

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日本語の記事を読む限り「中国関税」がメインで「迂回路としてカナダとメキシコに関税を課す」という印象を持つ。

ところがABCニュースの表現はカナダとメキシコの関税を先に伝えている。確かにトランプ次期大統領の発言を聞くと国境閉鎖と結びつけられていることがわかる。トランプ氏は米墨国境・米加国境から「なにか悪いもの=移民と違法薬物」が入ってくると考えており国境を封鎖しさえすれば問題が解決するだろうと考えているようなのだ。

仮に関税が純粋に経済的なものであるならばトランプ次期大統領が高い関税を打ち出し相手から妥協を取ろうとしているという「計算」と考えることができる。つまり「落ち着くところに落ち着くだろう」ということになるだろう。財務長官候補のベッセント氏の説明はこのラインで金融市場を安心させようとしている。金融の専門家は第一期で関税政策がインフレに結びつかなかったことを引き合いに「今回も影響は軽微でありアメリカ経済は好調なのではないか」と解説する傾向にある。

しかし仮にトランプ氏が関税と安全保障を結びつけているとしたらどうだろう。話が全く変わってくる。

国境を封鎖するためにカナダが協力しないのであればカナダを経済的に制裁するといっていることになる。カナダとアメリカ合衆国の国境は二国間国境としては世界一の長さで9000キロ弱に及ぶという。もともとどちらもイギリスやフランスの植民地だったため完全には閉鎖されていない。カナダに「国境閉鎖の対策費を負担しろ」などと言ってもカナダは応じることができないだろう。

メキシコの左派政権はやや反米的なところがあるため今回の措置に強硬に反対しているがカナダは「話し合いでなんとか解決しよう」という姿勢だ。トルドー首相は国内が「報復合戦」モードに陥ることを心配している。しかしカナダ経済はアメリカとの貿易に依存しており高い関税はカナダ経済に大きな打撃を与えることになる。実際にカナダドルは打撃を受けているそうだ。

ABCニュースは「トランプ次期大統領は中国が関税を支払うと言っているがこれは虚偽である」と放送していた。REUTERSもCNNも同じトーンの記事を書いている。経済学を勉強したことがある人にとっては「太陽は東から昇ります」と言っているのと同じことで「何を今更」と言う気がする。

しかしアメリカの有権者(特に共和党支持者)はマスメディアを信じない傾向がある。このためメディアが「損をするのはアメリカの国民ですよ」と言ってもそれを信じない。

すでに同じ経験をした国がある。それがイギリスだ。BREXIT推進派は「EUから離脱すれば不法移民がいなくなり暮らしが良くなる」と宣伝してきた。しかしそれは嘘だった。イギリス国民はこの嘘を信じたために国内物価の高騰に見舞われている。

ただしイギリスは資源の乏しい国であり農地も不足している。条件が異なるアメリカでは同じようなことが起こらない可能性もある。しかし石油大手の幹部は「業界はdrill baby drill(掘って掘って掘りまくれ)」には追従しないだろうと言っている。世界的な経済減速が予測されるなか誰も新規投資などしないだろうということなのだろう。

トランプ氏は国境を閉鎖すれば産業が国内に戻って来ると考えているようだ。当初原油は対象から外れるだろうとされていたそうだが除外されなかったために関係者の間には衝撃が広がっているという。

またアメリカ合衆国は穀物生産は盛んだが生鮮食料品は不足気味である。ロイターはアボカドやイチゴなどを例示している。

可視化されない影響も出てくるだろう。

最近ABCニュースを見ていると大腸菌汚染のニュースが扱われている。アメリカ合衆国はインフレに悩み外食が手控えられる傾向にあった。当然企業は合理化を進め価格を抑える傾向にある。アメリカの場合はニンジンの袋詰やひき肉の加工などの工場を集約化している。しかしながらこの大腸菌汚染の背景についての分析は進んでおらず単に消費者の不安を煽るだけに終わっている。

BREXITによる壊滅的な経済の打撃を経験しているBBCは今回の関税を次のようにまとめている。

  • トランプ氏は関税に対して本気ではないと考える人が多かった。
  • しかしトランプ氏は本気だった。
  • そればかりかトランプ氏は自分が署名した貿易協定を破棄する考えだ
  • 安全保障と経済政策を混ぜたやり方にG20はどう対応するのか?
  • トランプ氏は貿易でアメリカが世界から食い物にされていると考えており、イギリスやEUも対象になる可能性がある。

ここでBBCは次のように書いている。

選択肢の一つとして、アメリカの輸入品の5分の2に対して25%の関税をかけるというトランプ氏の措置が、同国の消費者とインフレに不可避の影響を与えるのを待つ、というものもある。

【解説】 トランプ次期米大統領は関税について本気 だが貿易が理由ではない(BBC)

つまり合理的に言っても聞かないなら「まず痛い目を見てみればそのうち目が覚めるのではないか」と突き放している。確かにマスコミを「マスゴミ」と考えろくな経済学の知識もないのにトランプ氏の言動を採用してしまった有権者を教育するにはそれしかないのかも知れないと感じてしまうが、その代償はかなり高いものになるかも知れない。

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