レバノン政府とイスラエルの間に60日の停戦合意が成立したとバイデン政権が発表した。イスラエルの閣議決定を受けてのもの。ただし媒体によって表現が若干異なる。この項目は特に多くの未確定情報を含むためオリジナルソースで詳細を検証していただきたい。
共同通信は「停戦合意は現地時間27日午前4時に発効する。停戦期間は60日間。」と記述している。ソースはバイデン大統領。
60日間の停戦は国連安全保障決議1701の履行を目的にしていると書いている。これは2006年に成立した決議でほぼ20年間地域の平和の平和を保っていた。つまり60日間のトランジションのあとに戦闘が再開されるわけではなく恒久平和に向けての第一歩ということになる。
しかしながらREUTERSの書き方は少し異なる。直ちに停戦が成立するわけではなく「段階的に」撤退する提案であり60日まるまる空白期間が作られるわけではないと読み取れる。つまり声明の内容とバイデン大統領の発言に若干の食い違いがあることが示唆されている。
バイデン氏によると、イスラエルは60日間に徐々に軍を撤退させる。レバノン軍は国境周辺の領域を管理し、ヒズボラがインフラを再建できないようにする。
イスラエルとレバノンが停戦合意、27日発効 米大統領発表(REUTERS)
好意的に解釈するならばトランプ政権下でイラン攻撃が容認される可能性が高いため、ネタニヤフ首相にとってレバノンのヒズボラの攻撃が重要な意味を持たなくなったとも考えられるが、悪意に解釈するならば「いつものような結論引き伸ばしにすぎない」と疑うこともできる。
AXIOSは60日の停戦ではなく「停戦に向けた60日の移行期間を含む」を表現している。つまり60日のトランジションのあとに停戦がやってくることになる。日本のメディアではすでに停戦が実現したと報じられつつあるが「停戦に向けたクリティカルな60日が始まった」ことになる。つまりまだ停戦は実現していないということだ。
The ceasefire agreement includes a 60-day transition period during which the Israeli military is to withdraw from southern Lebanon, the Lebanese army is to deploy in areas close to the border, and Hezbollah is to move its heavy weapons north of the Litani River.
Israel and Lebanon agree on a ceasefire
日本のメディアには混乱の表記が見られる。「米大統領 イスラエルとヒズボラの停戦合意を歓迎」とテレビ朝日が書いている。各媒体ともイスラエルと合意に達したのはレバノン政府としており、厳密にはヒズボラとの間に合意が成立したわけではない。またアメリカ合衆国が「第三者的に歓迎した」と受け取られかねない表現も正しいとは言えないだろう。
また、AXIOSにはイスラエル側とアメリカ側の認識の違いが記されている。
ネタニヤフ首相側は「ヒズボラとの攻撃には全面的な自衛権を持つ」と認識しているがアメリカの高官はリタニ川の南北で状況が異なるとする。つまりリタニ川の南側は緩衝地帯になるがヒズボラはその緩衝地帯の北部に軍を撤退させ新しい拠点を作ることができるということになる。
最も気になるのが「レバノン政府がヒズボラに対して実行力を持った指導ができるのか?」という問題だ。AXIOSはアメリカが中心となった監視団が状況を管理するという書き方になっている。これはおそらく事前協定通り。
さらにアメリカ・バイデン政権の狙いについてもAXIOSは言及している。政権のレガシーづくりの一環としてサウジアラビアとの何らかの交渉が大詰めを迎えているなか主権国家であるレバノンに対する攻撃が障害になっていたと見ることができそうだ。バイデン大統領がレガシーを残すためにはレバノン問題を解決する必要があるわけで「(バイデン政権の任期が終わる)60日間の間に撤退してくれればいいから」と合意を急がせた可能性も否定できないということだ。テレビ朝日の「イスラエルとヒズボラが主体的に合意を結びアメリカが歓迎した」という図式が後で崩れる可能性があるということになる。
He said that if a ceasefire is reached, the U.S. will be ready to sign a series of historic deals with Saudi Arabia, including a defense treaty and economic assurances “along with a credible path” to the establishment of a Palestinian state and full normalization of relations between Saudi Arabia and Israel.
Israel and Lebanon agree on a ceasefire
情報を総合すると地域和平に向けて大きく前進したとはいえ「全面的に安心できる状態でもなさそうだ」ということになる。言うまでもないことだがディールはあくまでもレバノンとイスラエルのディールであってガザ地区の戦闘について何ら影響を及ぼすものではない。