名古屋市長選挙で大塚耕平氏が減税日本の候補に敗北した。有権者の間に既存政党離れが進んでいることがよくわかる選挙だった。中でも目立ったのが国民民主党に対しする厳しい視線だ。玉木雄一郎氏のXの投稿には厳しいコメントが相次いでいた。有権者はもはや政党を減税のための道具としか考えていないことがわかる。
アメリカ型の選挙を見ていると「支持政党はその人のアイデンティティの一つ」になっていると感じる。このためついつい日本の選挙にも同じ構造を当てはめたくなる。だが日本の有権者ははるかに冷めており「政党は願望実現のための道具」と割り切っているようだ。そして彼が理解できる政策は「現状のサービス維持」と「減税」である。
先の総選挙で国民民主党が議席を4倍増させたときには次のように考えた。
- 国民民主党は「手取りを増やす政党」と訴えてきた。
- しかし実際の目的は自民党と交渉できる政党と自分たちを位置づけて立憲民主党との差別化を計ることだろう。
- 有権者への訴えと実際にやっていることは違うのだからやがて支援者は怒り出すか、これまでの選択を正当化するために国民民主党にしがみつくことになるだろう。
- 玉木氏がどう着地させるかが見ものだ。
しかし実際にはそうならなかった。
名古屋市長選挙での敗北を受けた玉木雄一郎氏の投稿には「国民民主党を支持しているわけではなく減税を支持しているだけ」だというコメントが多く寄せられていた。
考えてみれば当然の帰結だ。
日本の公職選挙法は「有権者を放置すればかならず悪いことをする」と考えて戸別訪問などを禁止してきた。確かに日本の選挙は密室でお金のやり取りが横行する売買収行為が横行しており公職選挙法には一定の効果があったと考えられている。しかしながら、結果的に組織化されていない(いわゆる無党派)を選挙から排除することにもなった。
一方で票の票を取りまとめる地方議員と国会議員の間には「誠意」のネットワークができているものと考えられる。議員に都合よく作られた法律と「お互いに何も喋らない」という秘密によって守られた強固な共同体だが、誠意はおそらく「札束」を含んでいるものと見られる。
だが実際には議員たちの秘密協定と無党派層の排除は新しい局面に突入した。
有権者は政治議論から排除されてきたがゆえにSNSの政治議論は単純化している。確かに榛葉氏の言うような検証は必要だろう。
一方、市長選では、SNSで大塚氏に対し、「増税派」などとレッテル貼りを狙ったような攻撃も目立った。広沢氏が「減税」を看板とするだけに、一定の効果があったとみられる。榛葉氏は「SNSの情報発信やその信ぴょう性は何らかの形で検証する時代に入った」と指摘する。
「既成政党への反発は想像以上」と自民執行部…名古屋市長選で与野党相乗り大塚耕平氏の大敗に衝撃(読売新聞)
国民民主党は支持率拡大を狙って「所得を増やす」と訴えてきた。確かに税金は少し安くなるかも知れないが社会保険料の議論が別立てで進んでおり「税金の補填」が必要になりそうだ。結果的には「増税(あるいは社会保険料の増額)」に傾いていることは事実であり、したがって「SNSは虚偽」といい切れないところがある。
自分たちに都合が良い論調を押し付けることを「丁寧な説明」と言い逃れてきたのだから、これをすべて無知蒙昧なSNSのせいにされても困るというのが正直なところである。支援組織が高齢化するなかSNSに対応できていない公明党の幹事長は次のように言っている。
与野党からは悪質な偽情報への規制などを念頭に対応を求める意見も出ている。公明の西田幹事長は25日の政府・与党連絡会議で「選挙を巡るネット上の偽・誤情報の悪影響について深く議論し、研究していく必要がある」と提起した。政府には「情報空間の健全性確保の検討を進めてもらいたい」と注文をつけた。
「既成政党への反発は想像以上」と自民執行部…名古屋市長選で与野党相乗り大塚耕平氏の大敗に衝撃(読売新聞)
被害者意識に彩られた既存政党はSNSの言論をすべて「嘘」と決めつけている。そして影響力の低下になやむテレビがこれを取り上げ、SNSでは「SNSばかりを悪者扱いするのか」「だったらなぜXXXX(この中には彼らのお気に入りの「真実」が入る)を取り上げないのか」ともはや冷戦状態になっている。
また県知事たちも「減税はまかりならぬ」と訴える。既存政党が縄張り争いのために減税合戦をやるのは構わないが、都道府県知事会で自分たちの取り分はきっちりいただきますよという主張がまかり通っていたそうだ。
この主張も「自分たちの財源さえ守れればあとはどうでもいいのか」という気がするのだが、彼らはあくまでも「既得権を保護したい」とは言わず、天下国家のことを考えているなどと言い放っている。文字では伝わりにくいので動画を印象することにした。どこまでも上から言い放つのが特徴だ。
鳥取県 平井伸治知事 「あたかも特定の省庁が全国知事会の首長たちを操ってる構造を描いてることは大問題。そんなちっぽけなことを言ってるんじゃなくて、日本の天下国家のことを考え、住民の暮らしを守るために我々は責任を果たしたいんだと」
自分たちの利益確保を「天下国家」と上から被せるのが新しいルールになりつつあるようだ。議員・知事たちと無党派層有権者たちの「ゲーム」はしばらく続くことになるだろう。