テレビでは盛んに斎藤元彦兵庫県知事選挙において公職選挙法違反があった可能性があると報じられている。元になったのが「PRプランナー氏」のネットの記事である。ただし名前は公表されておらず写真もぼかされていた。
ここでは折田楓氏の功績について考える。
この件に関しては選挙プランナーと呼ばれる人たちがいくつか解説記事を書いておりテレビでもコメントが紹介されていた。
曰く彼らのメインの仕事は複雑な公職選挙法に抵触する活動がないように指導することなのだそうだ。公職選挙法は非常に複雑な法律であり「普通の人では理解が難しく、おそらく国会議員でも理解していない人がほとんどであろう」とされている。ワイドショーを見ている純粋な視聴者たちは「ああそうなのか」と感じるだろう。
だが一瞬立ち止まって考えてみよう。
- 一般人が選挙に出たり候補者を応援したりするとたちどころに検挙されかねない選挙ってなんなんだろう?
という疑問が湧くはずだ。
つまり、ここから既得権者である議員たちは複雑な参入障壁を設けることで一般人を選挙から排除していることがわかる。
既得権益側の人たちがクリーンな選挙をやっていたというのであればまだ話はわかる。だがおそらくその実態はかなり歪んだものになっている。自民党は政策活動費は廃止するとしたが「プライバシーに関わる支出は残す」方針だ。
自民党は政治とカネの問題を総括できないことで大変苦しい立場に置かれている。にも関わらず「政治とカネ」の問題を総括できない。おそらくこれは自民党の国会議員から地方議員などに選挙のたびごとに「動員の見返り」が渡っているからだろう。日本人は伝統的に札束の中に「誠意」が潜んでいると考える。
広島県の事例で明らかになったように「一度捜査のメスが入ると腐敗が白日のもとにさらされる」危険性があると同時に「捜査当局も違法捜査(ありもしない「司法取引」を持ちかけて供述を誘導したと考えられている)をしないかぎりはそれが証明できない」程度には国会議員たちに都合よく作られた法律であるということがわかってしまう。
国会議員と地方議員たちは「利益共同体」を作り「お互いに何も口にしない」ことで有権者にとっては不適切な関係を維持してきた。そしてこの利益共同体を守るために法律に適度な「空気穴」を明けている。
これまでのゲームのルールでは「クロの判定がでなければそれはすべて容認される」ことになっていた。しかしこれは政治家とマスコミが勝手に協定を結んで作り上げたルールでありSNSでは通用しない。
とはいえ、立憲民主党や国民民主党も連合などの組織に支援された政党であり無党派層を取り込めているとは言えない。彼らは自民党のブラックボックスを批判するのは「所詮、自民党の支持者たちは政党とカネでつながっているだけ」ということを知っているからこそ政策活動費を批判する。
では、立憲民主党や国民民主党は有権者から支援されているのか。これがよくわかったのが名古屋市長選挙だった。名古屋市長選挙は自民・公明・立憲・国民が支援した大塚耕平候補が減税日本の広沢一郎氏に敗れている。名古屋市長選挙では「減税かそうでないか」という議論の単純化が行われた。
このように既存政党そのものが離反されつつあるが政党はまだそれに気がついていない。
これら一連の事象を考え合わせると、日本ではもはや従来の組織型の選挙が成り立たなくなっていることを示唆している。
そこで出てくるのが「選挙プランナー」と呼ばれる人たちである。テレビでは若狭勝氏が「公職選挙法は国会議員にも理解されていない」「これまでもOKだったからこれで大丈夫なのだろう、という経験則がまかり通っている」などと情報発信していた。この「経験則」をまとめて不慣れな議員候補者たちを指導するのが「選挙プランナー」のお仕事だ。
つまり
- 参入障壁が一つの既得権益
になっていることがわかる。
しかしながらここで2つの論点が出てくる。
- 選挙プランナーが仕事として成り立っているのに、本当に彼らには報酬が発生していないのか?
- 報酬が発生していなとすれば、彼らはどのような形で「対価」を受け取ってきたのか?
これが実は今回のPRプランナー氏の論点と重なる。
- 報酬が発生していれば公職選挙法違反
- 斎藤氏が知っていれば斎藤氏も罪に問われる
- 斎藤氏が知らなければ連座制で失職
- 報酬が発生しておらず過大なサービスが提供されていれば寄附行為
- 事前・事後に見返りが発生していれば公職選挙法とは別の違反となる
ここで「だったら選挙プランナー」や「SNSプランナー」などすべて禁止してしまえばいいのだという人も出てくるだろう。だが、実際に無党派層に声を届けるためにはこうしたプランニングこそが非常に重要になってくる。なおかつ現在の議員たちはSNSに熟達しておらず無党派層に声を届けることができていない。
もちろん「既存のルールがある以上違法性があるのなら取り締まりは行うべきだ」と考える。だが外は別に「今の選挙のルールが有権者を政治議論から排除していないのか?」について考えるべきだ。その意味で今回のPRプランナー氏が意図せず投げかけた問題は重要な視点を含んでいると考えるべきだろう。
個人的には「脱組織選挙時代に対応するために新しいルールを作るべきだ」と主張したいところなのだが、おそらく今の議論の流れを見ていると「既得権の脅威になるものは締め出されてしまう」可能性が高いのではないかと思う。
ただし排除された無党派層はこれまで以上に政治に対して冷笑的な目を向け「減税」「脱既得権益」の代表者を求めるようになるだろう。それでも構わないなら議員たちは自分たちに都合のよいルールを維持し続ければよかろうと思う。何が起ころうとそれこそ「自己責任」だ。