鹿児島市と名古屋市で市長選挙が行われ、それぞれ住民ファーストの候補が順当に当選した。兵庫県知事選挙のような「バトル」はなくしたがって投票率は低かった。どちらも自民党系・民主党系の候補が勝てなくなっているのが特徴だ。地方の都市部では既存政党離れが始まっている。
日本保守党から衆議院議員に立候補した河村たかし市長の後継を選ぶ選挙では河村市政の継続を訴える広沢一郎元副市長が無難に当選を決めた。
大塚耕平氏は及ばなかった。河村たかし元市長は「市民税を減税すれば経済が活性化し税収が増える」と強調しており、同じような考え方を国政にも広げるべきだとの主張を展開している。
愛知県は広い裾野を持つ自動車産業を維持しているため組織選挙がやりやすい地域と言える。国民民主党出身の大塚耕平氏はさまざまな利益団体を取りまとめており選挙は盤石と見られていたが広沢氏に及ばなかった。「河村たかし市長と選挙をしているようだ」と敗戦の弁を語っている。
このことから、そもそも自民党が地方選挙から退出していることと比較的低投票率でも組織選挙が行えない状況になっていたことがわかる。第三極的な無党派層が主役の選挙戦となった。
NHKは「自民党、立憲民主党、公明党、国民民主党が推薦した元参議院議員の大塚氏ら」と表現しており、朝日新聞も「前参院議員の大塚耕平氏(65)=自民、立憲民主、国民民主、公明推薦=ら」との表現。朝日新聞には「自民・民主党系の議会と対立してきた河村市長」という表現もある。一方の中日新聞は自民党について書いていない。
立憲民主党、国民民主党、公明党が推薦を決め、会派所属市議の擁立を目指しながら党本部の意向で断念した自民党も続いた。大村秀章愛知県知事も全面的な支援を表明。医師会や弁護士会などの各種団体も推薦を出した。盤石に映る体制に、陣営の市議は「これで負けるはずがない」と話した。
「負けるはずがない」組織を築いた大塚耕平氏だったが… 名古屋市長選挙「私の力不足だ」(中日新聞)
一方の鹿児島市は現職が勝利した。下鶴隆央氏はラ・サール中学・高校から東京大学に進学したという経歴を持つ1980年生の若手。県議会議員を3期務めたあと市長選挙に立候補した。2020年には社民連合鹿児島が推薦する松永範芳氏と自由民主党が推薦した上門秀彦氏を破って初当選している。
鹿児島県というと非常に保守的という印象があるが、今回の衆議院選挙を見る限り自民党は4区の森山幹事長以外は小選挙区当選できていない。比例復活も1区の宮路拓馬氏のみである。
自民党市議団はサッカースタジアム建設を求めていたが下鶴市長はふさわしい土地がないなどとして難色を示していた。自民党市議団は近年の自民党不人気では独自候補も出すことができなかっため「自主投票=積極的に下鶴さんを支援しない」としていたようだが、森山幹事長が空気を読まずに下鶴陣営の出陣式に出席し物議を醸していた。市長側は「みんなで協力して市政運営をやりましょう」という姿勢を示すために自民党側に出席を依頼したのだろうが、自民党の市議団は「自分たちの利権確保を邪魔した」と市長を恨んでおり出陣式にでなかったことになる。中には「目立った失点はなかったのだから支援してもいいのでは?」と考える人もいたそうだが同僚の目を気にした議員もいたのかもしれない。
一方、サッカースタジアム整備で、議会の付帯決議に反した上に、候補地断念を繰り返したことなど、「非を認めない」「意見を聞き入れない」との批判は根強い。別の市議は「進んだ施策も少ない。白票は選択肢の一つだ」と強調する。
自民県連、鹿児島市長選に候補擁立も推薦もせず 1955年の結党以来初、事実上の自主投票へ 現職評価で割れる市議団(南日本新聞)
下鶴氏はサッカースタジアムよりも「住民ファースト」の政策を優先したかったようだ。
また、2日の会見で、下鶴市長は、こども医療費の助成制度を拡充し、住民税の課税世帯の中学生まで窓口負担をゼロにするとした条例の改正案を、3日、開会する市議会に提案すると明らかにしました。
サッカースタジアム候補地”課題解決ならホテル跡地なり得る“(NHK)
このように今回の2つの市長選挙では自民党系も民主党系も無党派層の受け皿となりえておらずなおかつ従来型の政党が得意としてきた組織型の選挙の維持が難しくなりつつあることが見て取れる。
と同時にまともな経営感覚を持った市長が誕生しさえすれば改革型の市政運営は必ずしも難しくないことがわかる。ただし議会単位では既得権益を代表する自民党系の議員も多く残っておりどちらの市も何らかの対立の火種は残っているようだ。
なお兵庫県の県政は依然泥沼化している。まず斎藤元彦兵庫県知事は公職選挙法に違反したのではないかという疑惑が出ている。捜査が行われるかどうかは未知数だが仮に当選が無効になれば選挙をやり直すことになるそうだ。
公選法違反の「運動買収」に当たれば斎藤氏は失職。次点が繰り上がるのではなく、18億円かかると批判された県知事選が再び行われることになる。
紀藤弁護士 斎藤元彦知事に浮上した公選法違反疑惑に「ついに出てきましたね。法の厳正な捜査が必要で…」(スポニチ)
また吉村洋文維新共同代表が「兵庫維新は県議会の自主解散も含めた提案すべきだ」といっている。兵庫維新の代表は支援する候補が勝てなかった責任を取って代表を辞任した。維新も第三極政党だが有権者は「彼らも所詮既得権益の側」とみなすようになると簡単に見放してしまう。
SNSのコメント欄は依然「斎藤派と反斎藤派」に分かれてお祭り状態が続いているがどの程度兵庫県民が含まれているかは未知数だ。部外者がお祭り的に騒いでいるのではないかと思う。
仮に兵庫県議会選挙と県知事選挙がやり直しになれば税金が湯水のように浪費されることになる。劇場型選挙は退屈を感じている部外者に日々の刺激を与えるが、県民にとっては県政の停滞と血税の浪費以外の効果をもたらさない。つまり当事者たちの血税を使って部外者にエンターティンメントを無料提供しているというのが実情なのである。