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泥沼化する「放送法と選挙報道」議論 問われる放送局の姿勢

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斎藤元彦知事の当選についていくつかの記事を書いている。まずは今起きている選挙後の泥沼の混乱について触れ、SNSの一方的な規制は問題を解決しないだろうと書いた。最後に放送法と選挙報道の議論をする。おそらく記憶を呼び覚ませば「ああそういう事があったかも知れないなあ」と思い出すことだろう。安倍政権の場当たり的な官邸司令が選挙報道の萎縮を生み管理されないSNS「報道」を生み出している。

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ことの発端は安倍総理大臣だった。

官邸主導を進める安倍総理は2014年から2015年にかけてマスメディアコントロールを画策した。このときに「活躍」したのが当時の首相補佐官だった礒崎陽輔氏だ、政治的公平についての解釈を変更するように総務省に働きかけたとされる。

礒崎陽輔氏が独断で動くとは考えられないため、安倍総理と高市早苗総務大臣の関与が取り沙汰されたがその実態は今もよくわかっていない。

岸田政権時代になると「官邸側の関与を匂わせる」文書が出てきた。おそらく総務省からのリークと思われる。高市氏は「そんな文章があったなら辞任をする」と主張したが、総務省側も「文書はあった可能性が高い」と譲らなかった。

総務省がなぜ文書をリークしたのかの理由はよくわからない。髙橋陽一氏の当時の記事によれば文書は立憲民主党の小西洋之氏によってもたらされ、総務省の「郵政系」と「自治省系」の内輪もめの可能性も高いという。このようにそもそも放送法外貨にあるべきかという議論は「どうせ官庁内の内輪もめだろう」と矮小化されて行き本質的な(有権者に情報を効率的に届けるにはどうすればいいかという)議論は行われなかった。

いずれにせよ、安倍総理はすでに亡くなっており岸田総理も高市早苗氏を守る意思はなかったようだ。総務省としては「自分たちの意思で放送業界の憲法の解釈改憲をした」わけではなく「総理官邸にやらされた」と示したかったのかも知れないしそれ以外の「官庁内のゴタゴタ」があったのかもしれない。

これまで放送法では「放送局全体として公平性が確保されていればよい」という解釈がなされてきた。しかしこのときの「解釈変更」で番組単位でも公平性が担保されていなければならないと解釈が変わった。

ではこのときに官邸は何を問題にしたのか。

2009年に下野した自民党はマスコミに対して被害者感情を持っていた。自分たちの政策が伝わらず「一方的なマスコミの攻撃によって下野させられた」という感情である。しかし2012年に消費税増税を巡る議論で民主党が自滅すると次第に自民党政権は政権運営に自信を深めてゆく。

そんなときに礒崎陽輔氏が目をつけたのが政権に批判的なサンデーモーニングだった。内部文書ではこの番組が狙い撃ちされており、高市早苗総務大臣の「停波発言」につながってゆく。

つまり安倍政権の戦略的な要望というよりは日曜日のお父さんが「あの番組はくだらないなあ」と考えただけという可能性も高い。

しかし、このときに放送局側も大した抵抗はしなかった。結果的に放送局は揚げ足を取られないようにと自己保身に走り政治家の発言を伝えるときは秒数を揃えるという形式的な「公平・公正」に流れていった。

文書が流出した当時の岸田政権は少数与党状態だった。確かに形式的には衆議院において自民党が過半数を確保していたが岸田総理の宏池会は少数派閥だ。安倍総理時代のヘリテージは否定できなかったため「法解釈変更は正当であり維持される」と宣言した。

では結果的にこの議論は何をもたらしたのか。

自民党が批判されることはなくなったがテレビの政治報道が視聴者から見放される結果となった。代わりに台頭したのがSNSだ。しかしここでは虚偽の情報を含めたありとあらゆる情報が飛び交っている。

今回出口調査で「SNSがあれば放送局などいらない」という民意が示されたことで放送局は大慌てだ。

SNSの台頭に怯えるテレビ局は「このままではますますテレビ離れが進行する」と考えるようになっている。だがテレビ局がそれぞれの「良心」で番組作りを始めてしまうと政治に睨まれかねないというおそれも持っているため「みんなで議論して政治の側に報告しよう」ということになったようだ。結局既得権をどう守るかということで頭が一廃になっている。

本来ならば「終身雇用制度が崩壊し組織選挙が成り立たなくなった時代に有権者に効率的な情報を伝えるために政治はどう情報を伝えるべきか?」という議論が起きるべきだが政治家たちは「どのような選挙報道にすれば自分たちの政党に有利なのか」しか考えない。

放送局は「馬鹿な有権者がSNSに騙された」と考えているのかも知れないが、有権者はそれなりに自己判断して情報収集をしているということをきちんと再認識すべきだろう。有権者は自己保身に走る政治家と放送局の姿勢を意外と冷静に見抜いているのではないだろうか。

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