ポスト・トゥルースの時代と称していくつかの記事をお送りしている。今回はポスト・トゥルースの時代を生き抜く「その場その場戦術」についてお伝えする。題材はネタニヤフ首相だ。ガザ地区やレバノンなどで多くの市民の死者が出ておりイスラエルでも抗議運動が盛んだがなぜかまだ倒れていない。
ネタニヤフ首相の戦略の核は「情報を確定させないため混乱を作り続ける」ことだ。ここからポスト・トゥルースの時代は混乱の時代になるということがわかる。
ネタニヤフ首相は汚職事件で行き詰まり一時は首相の座を追われていた。彼の復活のきっかけになったのは与党(当時)の崩壊とハマスのイスラエル攻撃だった。つまり不安定さを利用して有利な地位を回復した。
あとはどれだけ不安定さを継続できるかが重要になる。
当時の軍隊は戦争の遂行には後ろ向きであり市民も「人質交渉」の優先を求めていた。軍はハマスが人質解放に消極的である可能性も掴んでいたが世論が変わることを恐れて情報を出さなかった。
そんななか、軍から情報が盗み出された。当局(これは明らかに首相ではない)は報道規制の統制下にあるため国内メディアはこれを表に出すことができない。ネタニヤフ首相はフェルドシュタイン氏を通じて外国のメディアに情報をリークした。当局もさすがに外国メディアは統制できない。
結果的に世論はネタニヤフ首相に都合の良いものになり未だに戦争は継続されている。ただしフェルドシュタイン氏は逮捕され司法当局は首相の関与を捜査している。もちろん軍も戦争を継続せざるを得ず、ガザ地区の人道状況も最悪だ。
つまりネタニヤフ首相の犠牲になっている人は極めて多い。
アメリカ合衆国のバイデン政権は大統領選挙を控えていてイスラエル情勢を早く安定させたい。しかし、イスラエルの支援をやめてしまうとユダヤ系寄付者に離反されかねないという難しい状況に置かれていた。これは「偽善」だがそれを取り繕うために多くの労力を必要とし結果的に身動きが取れなくなっている。
しかし、ネタニヤフ首相はやりたいことはやってしまいたい。ではどうするか。嘘をつけばいいのだという結論になった。
ポスト・トゥルースの時代の正義は「嘘をついてでもやりたいことをやる」ことだ。
バイデン大統領は嘘の集積で身動きが取れなくなった。このトラップにとらわれない戦略は2つある。1つは「情報上書き」である。その場その場で都合のよいことを言い一貫性を持たせない。もう一つの戦略が「テヘペロ」である。適当なとき「いや、実は」とやってしまうのである。
アメリカで大統領選挙が終わりトランプ政権になるということがわかってからネタニヤフ首相は2つの嘘を自白した。
まずレバノンの無線機爆破への関与を認めた。次にイランの核施設の攻撃も認めた。
どちらもバイデン政権の支援停止の理由になりかねない攻撃だったが、トランプ政権になればすべて「チャラ」になる。
ポスト・トゥルースの時代はすべての真実が「確率つきの複数系の真実」によって規定されているため、最終的に状況が確定するまで「嘘が嘘にならない」という特性がある。このための最適戦略は次のようなものになる。
- やりたいことはやりたいときにやってしまう
- 次から次へと嘘をつき続け情報を撹乱させる
- 時々テヘペロする
- ないしはそもそも一貫性を持たせない
この繰り返しで不安定な状況を作ってゆけば意外となんとかなってしまう。だが、この過程で民間人に死者が多発する。
普通の人なら罪悪感に苛まれ眠れなくなりそうだが、ネタニヤフ首相はこれに一種の多幸感を感じているようだ。英語が分かる人もわからない人も「音声を消して」この動画をひと通り見ていただきたい。目が輝いており実に楽しそうに「明日のピクニックの計画」について話しているような印象がある。
実はネタニヤフ首相はイランの国民に「自分はハメネイ体制からイラン国民を開放するために」戦っていると主張している。
イラン国民に語りかけているという側面もあるだろう。だがアメリカ合衆国は革命によってイランの既得権が奪われたと怒っている人が大勢いる。またそのときにイランからアメリカに逃れてきた人たちも多くいるため「ネタニヤフ首相は自分の利益を追求しているのではなく、世界の解放のために戦っているのだと信じたい人がたくさんいるのだ。