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トランプ次期政権で迷走する財務長官人事とイーロン・マスク氏

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次期トランプ政権の人事の骨格が固まってきた。軍と司法の人事はあっさりと決まったのだが「経済・財務系閣僚」の人事で揉めている。イーロン・マスク氏が介入し選挙本部と対立しているそうだ。

イーロン・マスク氏の戦略は不確実性を高めることで低いIQの人たちをふるい落とすことのようだ。普通の人々は単純な物語を信じるようになるが、その裏で「やりたいことをやり欲しいものを手に入れる」人が出てくるのだ。

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トランプ政権が財務長官人事で揉めている。

一週間前までは著名投資家ジョージ・ソロス氏の投資ファンドの運用担当を務めたスコット・ベッセント氏が有力候補とみなされていた。トランプ陣営の資金調達に協力してきた人物として知られているそうである。

ベッセント氏は、トランプ氏の長年の盟友スティーブ・バノン氏や、キリスト教福音派の有権者を動員する団体「信仰と自由連合」の創設者ラルフ・リード氏といったトランプ氏支持母体全体の幅広いリーダーたちから支持を得ている。

トランプ氏、財務長官の選定大詰め-ベッセント氏と15日に面会

ところがここに横槍が入る。選挙最終盤に多額の資金とSNS戦略で貢献したイーロン・マスク氏がハワード・ラトニック(一部ではルトニックとも)氏を推している。

マスク氏はXで、「ベッセント氏は平時の選択だが、ラトニック氏は変化をもたらす」と主張。「平時とは米国を破綻させることだ。いずれにせよ変化が必要だ」と訴えた。マスク氏の投稿は、財務長官人事を巡るトランプ陣営内の「泥仕合を表面化させた」(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)格好だ。

マスク氏、財務長官人事に「介入」 ラトニック氏支持を公言―トランプ次期米政権(時事通信)

トランプ氏を支えている人たちはトランプ氏の理念に共感しているというよりはトランプ政権で何らかの役得を期待しているものと考えられる。当然、金融政策を通じて経済的利益を得たいと考えているだろう。だから自分たちのお気に入りの人物を財務長官に据えたい。

ところが鳶が油揚げをさらうようにしてイーロン・マスク氏が介入してきた。当然「面白くない」と考えるようになる。

一方、米紙ワシントン・ポストによれば、トランプ氏支持者の一部はマスク氏の影響力拡大にいら立っている。ある関係者は同紙に対し、マスク氏の投稿について、「共同大統領」のように振る舞っており、陣営内での役割を逸脱した可能性が示されたと批判した。

マスク氏、財務長官人事に「介入」 ラトニック氏支持を公言―トランプ次期米政権(時事通信)

慌てたベッセント氏はイーロン・マスク氏への接近を試みている。

結果的に財務長官のポストは決められなくなり「第三の男」としてウォーシュ氏の起用も取り沙汰されるようになった。トランプ氏は部下たちに不和に苛立っているようだ。

トランプ氏はまだ決定を下しておらず、財務長官のポジションを巡るここ1週間ほどの内輪の争いにいらだっている様子だと、関係者らは語った。

トランプ氏側近、財務長官にウォーシュ氏起用支持を示唆-関係者

トランプ政権は欲望最優先の政権なので「自分たちの進路を邪魔する」人たちの排除は早くに決まった。例えば司法省人事や軍関係の人事などがそれにあたる。この分野ではトランプ氏の意向が強く働いている。

ところが経済・財務閣僚はそうはいかない。おそらくトランプ氏自身はそれほど蓄財には興味がないようだが(トランプ氏は自分のブランドだけを気にしている)部下たちはそうではない。トランプ氏に協力する人たちはなんらかの「おこぼれ」を期待する。

しかしそのやり方はトランプ氏の側近とイーロン・マスク氏で異なっている。イーロン・マスク氏はおそらくかなり知能指数が高くなおかつ共感性に乏しいものと考えられる。このため周囲が混乱して情報飽和を起こすと自分が有利になると考えているようだ。混乱する人たちを「アリ」のように上から見ているのかも知れない。

これがよく分かるのが政府効率化省のジョブディスクリプションだ。IQで単純に人の能力が図れると考えている。

両氏はXで「地味なコスト削減作業に週80時間以上取り組む意欲があり、小さな政府を目指す高い知能指数(IQ)を持つ革命家」を募った。ラマスワミ氏は15日、Xへの投稿で近く、週に1回のライブストリームを始めると述べた。

米次期政権の政府効率化組織、人材募集を開始 「高IQ」重視

ただしこの仕事は「無給」になる。つまり「既得権に苛立っている天才」か「暇な時間を持っている(つまり稼ぐ必要がない)天才」しか応募することはできない。さらに人々が混乱すればするほど喜ぶような人でないとこの仕事はできないだろう。

マスク氏自身も自分の仕事は「無給である」と言っている。だが、トランプ氏に接近したことでテスラ自働車の株価は大幅に上昇した。つまり直接稼ぐ必要のない人でないとこういう戦略は取れない。

ウォーレン上院議員(民主党)はXで、マスク氏とラマスワミ氏が共同トップに就くことを「2人が1人分の仕事をする。本当に効率的なようだ」と皮肉り、マスク氏は「あなたと違って、われわれには報酬が支払われない」と応酬した。

「効率化省」SNS開始 マスク氏トップも詳細不明―トランプ次期米政権

すでに稼ぐ必要がなくなった人がさらに富を得るためにわざと混乱を作り出し周囲を惑わす。すると複雑性に耐えられなくなった低いIQの人たちとその日の稼ぎを得るために働かざるを得ない人たちが振り落とされることになる。

トランプ政権が混乱するとしてもそれは政権ができたあとになるのではないかと思っていたのだがどうやらその予想は早くも外れてしまいそうである。

ポスト・トゥルース時代になると「普通の人々」は単純な物語を信じるようになる。だが不確実性が増す中でその混乱を利用してさらにやりたいことをやり欲しいものを手に入れるという人がでてくるのである。

事態の進展は早いなと感じる。

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