トランプが大統領になることが決まって数日が経った。日本にとっての最大の懸念は保護主義の台頭と安全保障環境の変化だと考えられているようだ。表面上はトランプはビジネスマンなのでよいディールを引き出そうとしているのだと理解されるのだろうが、実際にはアメリカの国力の衰退が背景にあり、アメリカには撤退以外の選択肢がない。
すると日本にも選択肢があまりない。日本の選択肢は防衛をアメリカに委託し続けるか、それとも自前調達するのかという二者択一だと考えられる。これを保護主義という制約条件の中で実行しなければならない。
防衛を商品と考えると、日本はこれをアメリカから仕入れている。有名なFive Forces理論によればサプライヤーのパワーが強すぎて、アメリカの言い値で購入しなけばならず、日本は競争力を失うという結論になり、新しい調達先を探すべきなのだ。
もちろん安倍政権は仕入先を変えることができるのだが、調達先は中国かロシアしかなく今のところ現実的ではない。すると自前調達ということになる。
軍事アナリストの小川氏が紹介している説によると独自調達には23兆円かかるということである。だが、これはいろいろと怪しい数字であると言わざるをえない。そもそも日米同盟にコストをかけるべきだという立場から発出されている情報だから、高く見積もられている可能性が高いからだ。
しかし、これがデマであるとも言い切れない。オリンピック予算の推移を思い出してみると良い。もともと導入のために低いコストで見積もりが立てられていたが、計画段階になって数字が膨らんだ。建設業は寡占環境であり選択肢がなかったからだろう。サプライヤーの力が強すぎたのである。
小池百合子都知事がやったことは宮城などの当て馬を出して再見積もりを出させることだった。すると、再び安い数字が出てきた。ディールがなくなるよりも利益を削ってでも案件を取りたいという欲が出てきたからだろう。ここからわかるのは「数字は気持ち次第でなんとでも変化する」というビジネスの世界では当たり前のことだ。
話を防衛費に戻すと、これを全て国内調達するということになれば、作れる企業は多くないので極めて高い見積もりがでることが予想される。逆に海外調達を含めるとコストは下がるだろう。だが、製造国は中国を含む可能性が極めて高い。中国だけは容認できないという「大人」は多いのではないだろうか。
オリンピックの予算が高騰した時「企業が悪辣だ」とは思わなかった。むしろ、ここで稼いでおかないと未来永劫稼げる機会はないという危機感があったのではないかと思う。同じようなことが防衛費の見積もりでも起こるだろう。つまり、背景には日本の衰退があるわけだ。
実はこうしたことは表沙汰にならないだけであらゆる企業で起こっているものと思われる。企業は労働者に分配せず、国内市場にも投資しないでリザーブしておこうという気持ち強い。これが中流層を衰退させている。だが、もともとはバブル崩壊後に生じた持続性への懸念から起こったメンタリティだ。
これは持続性を毀損する。オリンピックは「もうやめるべきではないか」という声が出ることになった。オリンピックは基本的にはお祭りなのでやめても構わない。だが、安全保障政策は国の基礎なので「やめる」とは言えない。
現実的には各国の防衛費はそれぞれ収まるところに収まっている。つまり支出を先に決めてから、どのように使うかを決めるべきなのだろう。ただし、先進国の防衛予算は2%程度のようなので、現在の予算から倍加することは予想できる。これがアメリカから見て「日本がフリーライドしている」ように見える理由だ。日本はまだまだ防衛費を出せる国であり、アメリカの国防費を肩代わりさせる余地があるのである。
安倍首相がこれまで通り中国と対峙したいと考えるなら、国民を説得するか、どうにかしてファイナンスしてくる必要がある。