テレビ朝日が加谷珪一氏を使って「厚生年金は政府が保証しているから安心な制度である」と主張。どこか落ち着かない印象から「不自然なプレゼンテーションだなあ」と感じた。このプレゼンテーションを見たあと「年金の持続性」について気になっていたのだが、日経新聞が「厚生年金の保険料を国民健康保険に転用する」と言う記事を出しているのを見つけた。案の定Xでは「転用ではなく流用だ」などと不満が噴出していた。
実際には制度破綻が見えているのに「大丈夫だ大丈夫だ」とマスコミが説明していることになる。これでは視聴者のマスコミ離れと制度への不安は払拭されないだろう。
西田亮介さんという社会学者が次のように書いている。テーマは「マスコミ離れ」だが、あのショーに「やたら早口で」という印象を持った人は意外と多かったのかも知れないと思った。
チラと見てみると、パネルはそれなりにわかりやすくできているものの、ゲスト専門家を除くと、玉川徹らレギュラーコメンテーターたちは現状の所得税の控除と社会保険料の被扶養者などを混同するなど、あまり正確ともいえない「自説」をやたら早口で開陳しているが、最初からよほど一生懸命見ているような場合を除いて内容はほとんど視聴者の記憶に残らないだろう。
驚くほど無策な新聞業界と、報道を捨てたテレビ情報番組に思う…新聞・テレビが「マスメディア」でなくなる日(JBPress)
西田さんはテレビに呼ばれる立場(お座敷がかかるのを待っていると表現している)なので「嘘をつこうとすると人は早口になるよね」というようなことは言っていない。
年金制度についてはすでに議論が始まっていて、年金の持続性に疑問が呈されている。
国民民主党が提起した103万円の壁問題は「本丸はむしろ106万円・130万円の壁である」という論を刺激した。厚生労働省はかねてより106万円の壁を撤廃する方針を打ち出しており、国民民主党の議論と一体で語られるようになった。結局手取りは増えるの・減るの?と戸惑った人も多かったようだ。
加谷珪一さんの論は「政府はできるだけ(企業出資のある)厚生年金に人を集めたいのだろう」というものだ。そして「企業も国も支出をする厚生年金こそが安心な制度なのです」と説明していた。
ところが今度は「国民年金の給付水準を底上げするために厚生年金の財源を流用する」という話が出てきた。現役世代のサラリーマンたちはXで「なぜ保険料を支払っていない国民年金に自分たちの掛け金を盗まれるのだ!」と憤っている。
大抵の人は「日経新聞の記事を見て騒ぐ」だけだろう。
だが現在では検索エンジンが過去の議論を記憶している。実はこの件で検索すると2022年頃の議論が盛んに出てくる。冒頭は「SNSで批判が高まっている」と書かれておりまるでデジャブのような印象である。実は岸田政権で実現しなかった議論なのだとわかる。
鳥澤氏の論の構成はややわかりにくいが整理すると次のようになる。
- 国民年金は「空洞化」している。
- まず、国民年金は未納者が増えている。
- また、現役世代の人口が右肩上がりのときには合理的な仕組みだったが、人口が減り始めており持続性に問題がでている。
- 人口調整のためインフレになると受給額が実質的に減る「マクロ年金スライド」が導入された。
- このままでは生活保護に人が流れることになる。結局、厚生年金を流用しようが生活保護だろうが「働いている人が負担をする」という意味では変わりはない。
- そもそも「現役世代が負担をする」ならば税にしたほうがいいのではないか?
つまり鳥澤氏は「国民年金は制度破綻を起こしかけており」何らかの救済が必要と言っている。
しかしながら鳥澤さんの論にも加谷珪一さんの論にも欠けているものがある。
何らかの理由で日本の終身雇用は成り立たなくなっている。企業にはおそらく「事務系労働者が遊んでいる」と考えている。企業は余剰労働力を解雇したいがそれは難しい。そこで政府は2つの政策を打ち出した。
- これまでは離職してから行っていた職業訓練を「在籍したまま」で行うリスキリング
- 正社員の身分を保ったままの副業推進
もともと厚生年金は労働者管理を企業が国に代わって代行するという仕組みだが副業が増えることで企業が総労働時間を管理することができなくなる。
正社員の副業時間がすべて厚生年金によってカバーできればよいのだが(結果的に全労働時間が厚生年金によってカバーされる)仮に企業がこれに賛同しなかった場合には「ギグワーク(請負)」と「スポットワーク(週20時間以内の労働)」に移行する可能性があるだろう。
ギグワーカーは国民年金加入者となるため企業からの出資が受けられない。またスポットワークはそもそも厚生年金にカウントされない。
このように我が国の雇用制度(年金だけでなく雇用形態そのもの)が砂山が崩れるように形骸化しているためテレビがいくら「年金制度は安全ですよ」と宣伝しても将来受給者は「いや、はたしてそうなのだろうか?」と疑問を持ち続ける。
YouTubeで年金のビデオを見ると次から次へと同じテーマのビデオがでてくる。最初に見たビデオは「マクロ経済スライドで将来年金が目減りするのだから早めに年金をもらい始めたほうがトクだ」と主張していた。ところが次のビデオでは「早めに年金をもらい始めたら長生きした場合総額で損をするから絶対にやめておいたほうがいい」となっていた。このようにそもそも大元(政府とメディアの議論)が混乱している上に、ネットでは様々な私見が飛び交っている。おそらくこれも不安の原因担っているのではないかと思う。
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