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国民民主党潰しに走った? 村上総務大臣の誤算

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MXテレビのある番組がきっかけになりネットではちょっとした騒ぎが起きている。村上総務大臣が知事会に対国民民主党包囲網を要請したという内容だ。村上総務大臣の想定によればおそらくこれがここまでの騒ぎになることはなかった。地上波テレビ局が停波権限を持つ総務大臣の意向に逆らうはずはないからだ。

村上総務大臣の誤算は2つある。地上波テレビの影響力が落ちており許認可権限で情報がコントロールできなくなっている。またネット世論のトーン・マナーはこれまでのマスメディアのそれとは全く異なり「破壊的傾向」が強い。

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テレビ朝日はこの件について「「103万円の壁」国が知事会に反対工作? 玉木氏発言が物議 当事者は否定」と報道している。

見出しだけを読むと「当事者が発言を否定しているにもかかわらず、玉木氏の発言が世間を騒がせた」と読み取れる表現になっている。玉木雄一郎悪玉論だ。

テレビ朝日は「久米宏のニュースステーション」時代には政権批判を恐れない局という印象があった。今でもワイドショーで政府批判めいた報道はでてくるが決して一線を踏み越えることはない。テレビ朝日の政府批判にオールドファンの期待が集まっていることは知っているのだろう。当時テレビ朝日を応援した現役世代は年金受給世代になっていてむしろ今の体制がそのまま続くことを求めている。

今回の報道はMXテレビの「報道」だが、番組を見る限り堀潤氏の個人的な取材を紹介するという内容になっている。MXテレビは地上波ではあるが東京都のみが放送地域になっているうえに系列に属していないため大きな伝播力はない。

総務省は地上波放送に対して停波権限を持っている。高市早苗総務大臣(当時)の停波発言が記憶に新しい。安倍政権下では自身が総務大臣の経験を持つ菅義偉官房長官(当時)のもとで積極的なメディアコントロール(政府の見解に従えばお願い)が行われていて、それはおそらく今でも続いている。

おそらく村上総務大臣の計算違いはSNSの存在を無視したところだったのだろう。リリース後1日で80万再生を超えており幅広く閲覧されていることがわかる。

さすがにここまで騒ぎになると新聞も取り上げざるを得ない。

産経新聞は「両論併記」になっており、毎日新聞は「総務大臣が否定」という内容になっていた。いずれも「玉木氏発言が物議」といったような誘導的な表現は使われていない。ここからもテレビ朝日の突出ぶりがわかる。

既存メディアとSNSでは議論のルールが違う。

  • 既存メディアでは政府が正式に認めるまでは「事実」として報道されない。
  • SNSにはそれぞれの「お気に入り」の真実があり、疑惑はそのまま「準事実」として流通する。

結果的に「テレビは政府に忖度しており信用する事はできない」という印象が強まりますますテレビ離れが加速するわけである。テレビ朝日はこのテレビ離れに一役買っているといえる。

このルールの違いには国民民主党も苦慮しているようだ。まず玉木雄一郎代表が「財務省が圧力をかけてきた」とXで呟いた。

ところがネットではこれが財務省解体論議につながり、玉木雄一郎氏はその首謀者ということになってしまう。すると今度は一転して火消しに走った。ちなみにこの報道もテレビ朝日発信だった。

安倍晋三総理はネット世論を味方につけて政権維持を図っていた。これが成り立ったのはアベノミクスで国民の負担は増えないと約束をしていたからである。ところが現在では追加負担の議論を避けて通れなくなっている。

おそらく玉木雄一郎氏は安倍総理に倣ってネット世論を懐柔しつつほどよき所に収めようとしているのだろうが背景にある事情が変わってしまっているため安倍総理のような行動を取ることができなくなっているといえるだろう。

ネットの声は「エスタブリッシュメントの解体ないしは無効化」に向かっていて、国民民主党もこの声に飲み込まれそうになっている。彼らは狼煙を上げたつもりだったのかも知れないが乾燥した草原で狼煙遊びをすると山火事になる。

現在は「地方財政に悪影響は与えませんよ」と穏やかな着地点を目指しているが根拠は示せなかった。

国民民主党が財源議論に踏み込めない背景事情は意外と複雑だ。第一にそもそもの発想は単なるインフレ調整だった。玉木雄一郎氏は「インフレ調整(インフレ税)」なので財源は必要ないなどと説明することがある。一方で財源議論にも応じておりどっちつかずの印象だ。

また、これまで政府の税制議論はインナーと呼ばれる自民党有志が独占してきた。このため国民民主党はそもそも財源議論に参加できない。その上に村上総務大臣が地方自治体を巻き込んで「場外乱闘」を始めてしまったために収拾がつかない事態になっている。

最後に税制議論そのものについて軽く触れておきたい。国民民主党は当初「103万円の」議論は実現しないと考えており内部的に落とし所を検討していたものと見られる。ところがこれがリークしてしまい玉木雄一郎氏が否定するという騒ぎに発展した。

現在、国民民主党は103万円の壁問題に強い思い入れがあるとして政府の経済対策に盛り込むように自公国の枠組みに働きかけているが自民党の色よい返事をもらえていない。

この自公国の協議は政調ベースで行われているが、税調ベースでは「防衛増税」に国民民主党を巻き込みたい考えである。増税額は1兆円となり「手取りアップ」どころか負担増の議論が進行している。自民党としては「部分連合は困ります」「増税の議論にもきちんと参加していただかないと」という立場。

政府は防衛力強化の財源として法人、所得、たばこの3税の増税を決定している。27年度時点で1兆円強を確保する必要があり、増税開始の時期が決まるかどうかが焦点となる。石破茂首相は時期を巡る議論を年内に決着させると明言したが、国民は「防衛費は確保すべきだが、増税ありきという考え方は取らない」(浜口誠政調会長)との立場だ。

防衛増税「国民民主と協議必要」 自民税調会長が非公式会合で(共同)

なお今回の議論に社会保険料の話は入れなかった。社会保険料も制度破綻目前という状況になっており負担増の議論が進んでいるが、話が複雑化しそうなのでこのエントリーとは分けようと思っている。

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