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テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」が隠したかった厚生年金の不都合な真実

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「ひるおび」に続いて「羽鳥慎一モーニングショー」が「壁特集」をやっていた。加谷珪一氏が入っているため「ひるおび」よりはしっかりした構成だが、見ているうちに「あれ、これは何かおかしいぞ」と感じた。

全般的に加谷珪一さんがかなり早口なのだ。見ているうちに「ああこれは厚生年金維持キャンペーンなのだな」と思った。加谷珪一さんはNスタにも出演し「103万円は幻の壁」と解説していた。かなりお疲れなのではないか。

厚生年金は国が保証した制度であり将来にわたって安全・安心だと主張しておりコメンテータたちもその主張をバックアップしていた。

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「早口でなにか怪しい」というのは主観なのでTVerなどで探して見ていただければと思う。一週間程度は見逃し配信できるのではないか。

加谷珪一さんの論の組立自体はしっかりしているのでおそらく落ち着いて話をすればそれほど怪しい感じにはならなかっただろうと感じた。つまり、ここでは厚生年金の持続性に対する番組の主張そのものにケチを付けるつもりはない。

そもそも厚生年金・国民年金が「安心・安全」なのはどうしてだろうか。思いつくままに挙げてみよう。仮にこの前提が崩れれば「個人で運用したほうがいい」可能性が出てくる。

  • 特に厚生年金は多くの企業が出資しており財源が潤沢
  • 何かあった場合には国家が保証してくれる
  • 大きなバスケットで資金を運用するうえ、議会がしっかり監視しているため、個人が資金を運用するよりは確実

財政の持続性とインフレ率というテクニカルなテーマもあるが個々では扱わないことにする。重要なのは「みんなが「制度=政府」を信じている限りにおいては制度は安泰」という点だ。

ここで加谷珪一さんはマイナンバーに触れて羽鳥慎一氏に止められていた。「その話をするとややこしくなるんで」と制止されており「ああこの人たちは嘘がつけない善良な人たちなんだなあ」と思った。事前の打ち合わせでもこの話が出たのではないか。

先日の「ひるおび」の議論の中でギグワーカーやスポットワーカーが増えているという話をした。終身雇用制が崩壊し会社が労働時間を管理できなくなりつつある。従業員が複数の拠点で副業することが社会的に容認されつつあるからである。

すると副次的に「正社員が厚生年金制度によって守られない労働時間が出てくる」ことがわかる。これまで企業が代行してきた労働時間管理が難しくなるからだ。だからこれに代わる何らかの制度が必要になる。

さらに加谷珪一氏は「才能のある従業員を引き止めておくためには中小企業は無理をしてでも厚生年金で従業員を保護したほうがいい」と言っていた。この箇所は特に早口だった。

ここから次のことがわかる。

そもそも厚生年金は「従業員が1つの事業所で働いている=終身雇用」が前提の制度

ということだ。

つまり終身雇用制度が崩れるとシステム全体が崩壊しかねない。番組ではこの点について事前に何らかのやり取りがあったのではないだろうか。

ただし加谷珪一さんが「この制度は良い制度なのでみんなが選択するだろうし管理可能だ」と考えているのであれば自信を持ったプレゼンテーションができていたはずである。

加谷珪一氏は一貫して「厚生年金制度維持派」なのだが「周りの人に聞くと「もう払った分はもらえないのではないか」といわれることが多いのですが」などと語っている。つまりうっすらとした懐疑論が出ていることは十分に認識しているものと見られる。

また、企業は随分昔から「年金生活」に入っている。日本の経常黒字は史上空前の規模に拡大しているが企業内に死蔵されているものも多い。これはバブル崩壊後の倒産懸念を企業が拭いきれていないからである。「いざというときに政府は何もしてくれないだろう」と思っていて手元にある資金を使うことができない。つまり「制度に対する信頼」はすでに崩壊している。

つまり企業は

  • 当てにならない社会や国に投資するくらいなら自分で投資する

と考えている。

だから国内消費が冷え込み財務省は財源確保のために必死になっている。

この不信感によって企業は国内に対する設備投資を控えるようになり従業員への還元も行わなくなった。賃金の低下は国内消費を冷え込ませ更に設備投資が抑制される。

それよりも深刻なのが教育投資だ。日本の製造業は個人の「職人技」に依存する部分が多くそれらの多くは「暗黙知」としてマニュアル化されていない。これを教育によって次世代に受け継がないと、やがて知識は蒸発・揮発して消えてなくなる。

結果的に日本は高収益が見込める技能労働ではなく単純に時間をかけて長く働いて低い生産性をカバーする構造の国になりつつある。疲弊型低生産性国家化しているのである。確かに統計はないのだからここは個人の実感に頼るしかないが私生活でワンオペに苦しんでいる人は多いのではないか。

仮に企業が制度を信じずなおかつ低付加価値単純労働に傾斜することになると、加谷珪一氏が主張する「厚生年金を払ってまで引き止めておく社員」の数は減ってしまう。

つまり全体としては厚生年金の前提条件が崩れつつある。政府もこれを認識していると考えると色々と説明しやすい。思いつくままに例示する。

  • 政府は年金だけでは不十分であるから個人で投資をしてマイナスをカバーしなさいと言っている。これがNISAやIDECOである。
  • スポットワークが増えることを見越して「割増料金」改革を検討している。むしろ規制を緩和することでスポットワークを推奨している。
  • 企業が直接的にも間接的にも税金を払わないことがわかっているので消費税への傾斜を強めている。

このように考えると「企業が制度を信じない限り」においては厚生年金カバーを避けるために週の労働時間を20時間以内に抑える副業が増殖する可能性がある。収入をあげたければ正社員の他に複数のアルバイトを掛け持ちするという世界だ。

これらは制度に対する信認の問題であって制度設計によってカバーすることはできない。

「なぜ副業が増える前提なのだ」と言う人がいるかも知れない。だが仮に正社員で吸収できる仕事があるならば政府が「副業の推進」などするはずはない。それがないことが前提になっている。政府はバブル後に製造業などの派遣を段階的に承認し産業界の期待に応えて終身雇用を破壊してきた。それがいよいよ次の段階に進み始めたということだ。

ただ、我が国が30年かけて破壊してきた結果生まれた諸問題を経済評論家一人に背負わせるのは酷なのではないかという気がする。そもそも「国全体の生産性が上がらないのに経済成長が前提となった制度だけは維持できる」という無理な主張をしている。

その制約の中で番組はうまく作られていたと言ってよいだろう。

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