トランプ氏が次期大統領に決まったとき日本では「意識高い系のマスコミが嘘をついていた」と話題になっていた。日頃からキラキラとしたマスコミに対する反発心があり「ざまあみろ」という気持ちを持っていた人も大勢いるだろう。だが、喜ぶのはちょっと待ったほうがいいだろう。
アメリカ国防総省はトランプ氏のある計画に怯えており、これが日本にも影響を与える可能性がある。
先にCNNが同じような記事を書いていたがREUTERSも「アングル:身構える米国防総省、トランプ氏が「大規模粛清」か」という記事を書いている。やはりかなり不安が広がっているようだ。
トランプ氏は6月にFOXニュースで、「目覚めた」将軍たちをクビにするかどうか聞かれると「彼らを辞めさせる。目覚めた軍などあり得ない」と語った。
アングル:身構える米国防総省、トランプ氏が「大規模粛清」か(REUTERS)
「目覚めた」は英語では「WOKE」という。日本語では意識高い系として知られている。REUTERSは丁寧にも用語解説をしている。要するに日本の反知性派がトランプ氏を擁護するのと同じ(あるいはそれ以上に過激な)反知性的運動がアメリカにもある。確かに民主党支持者たちは「トランプを支援する人たちはバカだ」とことさらに言い立てる傾向があった。
この目覚めたとは本来、人種や社会の公正さを重視するという意味で生まれた言葉だが、保守派はそうした公正さを上から押しつけるリベラル派の政策を軽蔑する用語として使っている。
アングル:身構える米国防総省、トランプ氏が「大規模粛清」か(REUTERS)
トランプ氏躍進の背景にはバイデン政権の行き詰まりだけではなくアメリカ人の進歩派・知識人たちの鼻持ちならない姿勢がある事は知っておいてよいだろう。
今後何が起きることになるのかを理解するうえではトランプ用語を理解する必要がある。それが「愛」である。トランプ氏にとっては自分に忠誠を誓う人たちは「愛に満ちた美しい人達」であり自分に反対する人たちはすべて敵だ。トランプ氏の今回の計画はアメリカ軍を「美しい愛に満ちた」軍隊に作り変えることだ。
今回のトランプ大統領の外交政策にはいくつかの柱がある。
- 力の容認と無関心
- アメリカが作り上げてきた国際秩序への無関心
- 事実への無関心
これを通じて独裁国家・専制国家が容認されるのではないかと言われている。ところがこの分析には重大な欠落がある。それがアメリカ合衆国そのものの独裁化である。
アメリカ合衆国は民主主義の歴史の長い国であり一人ひとりのなかに憲法秩序に対する擁護精神が根付いている。だからたとえ独裁志向を持つ大統領が出てきたとしてもそれがアメリカの民主主義を破壊するといったことは起こらなかった。
しかしこの抵抗力(Resilience)は一人ひとりの中に根付いているため、組織から人を取り除いてしまえば無効化できる。すでにアメリカ合衆国では人種差別的な投稿が飛び交っており将来的には人種暴動などが起きることが予想される。そして、これは前回のトランプ政権で実際に起きたことである。また民主主義の回復を求めた暴動も誘発される可能性がある。
軍隊がResilienceを持っていればたとえトランプ氏が命令を下したとしても軍隊が内国民に銃口を向けることはないだろう。だがそれを組織的に取り除いてしまえば話は別だ。
非常に残念な現実なのだが、在日米軍は日本国憲法の上位に存在し日本がコントロールすることはできない。つまり愛に満ちたトランプ軍が出来上がっても日本人は抵抗することができないため「そうならないように祈る」しか手段がない。
またその逆も考えられる。スケジュールFによって軍に携わる民間人たちが多数置き換わることが想定されている。例えばサイバー防衛に携わる専門家は軍隊をやめても豊富な就職口がある。良心の呵責に悩みながら軍にしがみつく必要はないわけだ。だが、日本の国内からはたとえ米軍の専門性が崩壊してもそれを知る手段はないだろう。
国防総省に勤務する「背広組」の職員は95万人弱で、その多くは専門的な経験や知識を有する。
アングル:身構える米国防総省、トランプ氏が「大規模粛清」か(REUTERS)
日本のメディアでは盛んに「ゴルフ好きのトランプ氏に取り入るためには」石破総理も理屈好きの性格を改めてさびついたゴルフの腕を磨くべきだという論調で「対トランプ政策」が語られている。だが、おそらくもうそんなことはどうでもいいことなのだと思う。
プロジェクト25やスケジュールFなどと言った陰謀論めいた用語が既存のメディアでも飛び交うようになってきており予想がつかかない状況に陥りつつある。石破内閣は不安定な議会政治に対処する必要があるがそればかりではなく正解のない新しい日米関係に対応してゆく必要がある。
すでに虚々実々な状況が生まれつつある。ネタニヤフ首相は無線機爆発への関与を認めた。これまで「自分は預かり知らぬことだ」と主張してきたが態度を一転し「軍隊や高官が反対するのを押し切って自分が進めた」と言っている。軍隊をスパイした容疑で取り調べが進んでいるため「自分が軍隊を押し切って進めたことでイスラエルが守られている」といいたいのだろう。
バイデン政権はネタニヤフ氏の障壁になっていたがトランプ政権に変わってしまうためもはやイスラエルへのストッパーはない。トランプ氏とネタニヤフ氏は頻繁に連絡を取り合っており「イランについては見解が一致した」という。トランプ氏はイランの核施設への攻撃なども容認しているとされている。
またトランプ氏はプーチン大統領と電話をしたと主張しているが、ロシアの大統領府はこれを否定している。
もはや誰にとっても「事実」などどうでもいいことになりつつあり、日本もこの状況に慣れてゆく(あるいは抗う)必要がある。トランプ氏と5分しかお話ができなかったことなどどうでもいいのだ。