総理大臣指名の特別国会開催を前に各政党が何を誤魔化そうとしているのかを考えるシリーズ。このエントリーでは国民民主党を扱う。国民民主党は単なるインフレ調整を手取りアップと言い換えたがこれがその後の議論を混乱させている。
国民民主党のごまかしだけを扱わなかったのは、それぞれのごまかしを通して「もうこのままでは日本の諸問題が解決しない」ことを各政党が薄々気がついているということがわかるからだ。
国民民主党椎葉幹事長の発言が波紋を広げている。「財源を捻出するのは与党の責任だ」と発言した。「国民民主党は財源について責任を持たない」と捉えられかねない悪手だった。つまり「いいとこどりのズルい政党だ」というわけだ。
ではなぜこのようなことになったのか。当ブログをお読みの方はすでに理解されていると思う。単なるインフレ調整(ブラケットクリープ)を手取りアップと言い換えたことがきっかけになっている。
このため玉木雄一郎氏の発言が原点に回帰している。「インフレ増税」という言葉を使っているが、要するにインフレの結果国が税金を取りすぎているのだから調整しましょうと提案しただけで「財源」は関係がないと言いたいのだ。
ただ「無責任野党」のレッテルを貼られることを警戒しており椎葉幹事長の発言に対する釈明も付け加えていた。見せ方と実質議論の間のバランスを取るのに苦労している印象だ。
ではなぜ議論が迷走したのか。
背景にあるのは「通貨の価値に対する理解」である。日本では100円のジュースは長い間100円で買えた。経済がほとんど成長しなかったからだ。このためインフレによって通貨の価値が減耗するという理解が国民の間から消えかけている。うまい棒は未来永劫10円で買えるものであるべきなのでこれが値上げするときには大ニュースになった。
日本人は100円玉コインは未来永劫100円の価値を持つと信じている。これはマイルドなインフレを前提にデザインされている資本主義社会では正しくない考え方であるが低成長の日本では(少なくともこれまでの間は)正しかった。
もともと103万円の壁対策で「手取りが増える」のは通貨の絶対価値に注目しているからである。言い換えれば「額面では手取りが増えるが実質が増えるかどうかはわからない」ということだ。おそらく物価の高騰を考えると「相対的通貨価値」で手取りが増えているわけではない。だから国民生活の実感は苦しい。
厚生労働省はこれを逆手に取り「最低賃金が絶対額で上がるから106万円の壁は意味がなくなる」といい出した。また総務大臣は「地方の税収が減りますよ」とネガティブキャンペーンを始めた。
「玉木雄一郎が余計なことをいい出したせいで地方の税収が減る」という理解が生まれている。
国民民主党は厚生労働省の106万円の壁撤廃については何も語っていないのも事実である。日本では税と社会保険の二本立て体制になっているのだから1つの壁を動かせば他の壁も動かさざるを得なくなるはずだ。
おそらく国家官僚は国民が通貨の価値をうまく理解していない事がわかっていて通貨の価値を固定のものとして説明しようとしている。そして、それに乗って「(額面での)手取りが増えますよ」と言ってしまったことで玉木氏もこれに巻き込まれてしまった。
なぜ玉木雄一郎氏と榛葉賀津也氏の見解がズレてしまったのかは興味深いところだ。直接的な証拠がないために「容疑」にすぎないが、玉木雄一郎氏が属人的に政策を作っているのかもしれない。国民民主党の自民党に対する要求原案がマスメディアにわたってしまい玉木氏が慌てて否定した事件があった。この原案は妥協が前提になったと理解されている。だがおそらく玉木氏にとっては「いつ降りるか」が重要なのだろう。この、見せ方のシナリオも党内でうまく共有されていないのかも知れない。
個人的に政策と見せ方を処理をしているだけという仮定を採用すると、おそらく国民民主党は社会保障の一体改革のような大きな問題は取り扱えないだろうという類推が成り立つ。まず国民に示す前に党内に玉木氏の政策を理解して貰う必要があることになってしまう。
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