石破総理が「少子化時代にふさわしい社会保障改革」の支持を出した。少子高齢化に白旗を上げ「それに見合った制度改革を」と訴えている。中には「金融所得に見合った社会保障費の支払いを求める」という提案も入っている。つまり正確には資産課税強化ではなく「国が国民の金融資産所得を把握したうえでそれに見合った社会保険料を徴収する」という提案だ。
ただし、このニュースは社会保障改革の中に「しれっと」混ぜ込まれておりおそらく多くの有権者が気がつくのは当面先になるだろう。
議論の正確性を期すために書くと「提案」じたいは石破総理のものではない。すでに歳出改革の工程表が作られており2028年までの検討課題になっている。共同通信は次のように書いている。つまり岸田政権時代の提案を石破総理が継承したという内容だ。
政府が昨年末に決定した歳出改革の工程表では、2028年度までの検討課題として
- 医療費や介護費の自己負担が3割となる高齢者の範囲を拡大
- 株式配当など金融所得を社会保険料の算定に反映―
などを列挙。毎年末の予算編成で実施の可否を協議するとしていた。
石破総理の金融資産課税に関する発言はかなりブレている。党総裁選の時点では金融所得課税に前向きだったが高市早苗氏を破って総裁に決まると「石破ショック」と呼ばれる株価の変動が起こった。このため「石破総理」としては持論を封印している。
- 自民党・石破茂氏、金融所得課税の強化「実行したい」(日経新聞)
- 「石破ショック」で首相に早くも市場の洗礼-前任並み変わり身あるか(Bloomberg)
- 石破茂首相、金融所得課税の強化「現時点で検討せず」(日経新聞)
岸田総理も当初は金融資産・所得課税には前向きだったが岸田ショックを受けて持論を封印したとされる。だがおそらく「政府」としてはこの提案を諦めておらず国民が抵抗に疲れた頃に採用したいのだろう。
ポイントになるのは日本独自の複雑なシステムだ。
日本の徴税は「税金と社会保障が二本立て」になっていて全体でどの程度手取りが増えたのか・減ったのかがわかりにくくなっている。さらに給与所得者(いわゆるサラリーマン)は会社が事務手続きを代行してしまうので「自分がいくら取られているのかがわかりにくい」という事情もある。このため「税金を減らしますよ」といいつつ社会保障費を増やすことで結果的に手取りがマイナスになっても国民が気が付きにくい。
これが一生懸命に働いても何故か楽にならないという感覚につながり勤労意欲が失われる原因になっている。何故か目に見えない重いものが乗っかっているという感覚なのだ。
石破総理のもう一つの特徴は「人口減少時代に合った社会保障へ転換を」と提唱しているという点だ。これまで少子高齢化は待ったなしの課題であると主張していたがこれをしれっと転換して「少子高齢化を認めたうえで社会保障強化を」と言っている。国民には何ら説明はない。すでに医療保険に混ぜ込まれたこども家庭庁関連の支出についても変化はないだろう。つまり「取れる財源を確保した」あとで「現状を認めましょう」といい出したことになる。
個人的には国民がどのようにリアクションするのかが気になっている。考えられるリアクションは4つある。
- この政府ではダメだと気が付き政権交代を求める
- 現在の政府に対して抗議運動を行う
- 政治とカネの問題の徹底追求や議席の半減など「小さな政府志向」と強める
- そのまま諦めてしまい「頑張って働いても仕方がない」とやる気を失ってしまう
政策立案能力を持たない立憲民主党は主戦場を「政治改革」と「夫婦別姓の実現」としたい。また恒久的な制度改革には後ろ向きで「痛みを緩和するための臨時給付」などを提案することにしている。所得と手取りをアップする政策に関しては極めて後ろ向きで国民の受け皿になりそうにない。これはアメリカ民主党のハリス副大統領と同じような失敗だ。立憲民主党は「意識高い系」の人たちから支持されるだろうが「生活が第一」と考える人からの支持は失うだろう。
問題はどちらが数として多いかかもしれない。
一部でかなり極端な小さな政府志向も盛り上がるかも知れないが、社会全体としては「どうせ何をやってももう国家の縮小は止められない」「働いても持って行かれるばかりで手取りは増えない」と考えて士気を失う可能性が高いのかなという気がする。具体的には消費意欲を失い将来の備えて支出を削減するマインドセットが定着するだろう。
おそらく、子育て政策は待ったなしとして財源だけ確保したあとで「少子高齢化を前提に」といい出したことに関しても国民は「ああやっぱりな」としか思わないはずだ。
「与野党どっちに投票しても国民の暮らしが楽になるはずはない」「政府に期待するな」と徐々に教育しているということだ。